追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ

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【第一章】三谷恭司

【第二話】模擬戦⑤

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「はあッ!!」


恭司はまるで一瞬のような速度で距離を詰める。

木刀は下から。

勢いに合わせた高速の振り上げだ。

ユウカは体制が整わない中、かろうじてその一撃を躱す。

しかし、

恭司の手によって振り上げられた木刀は、ユウカに躱された瞬間に下へと向きを変えた。

高速の方向転換ーー。

音速の振りーー。

いきなり振り下ろしと化けたその一撃に、ユウカはギリギリで木刀を挟み込ませる。

ギリリと膠着するが、その一瞬に恭司は片足を振り上げ、強烈な蹴りを放った。

ユウカは瞬時にガードしたが、体が浮くのは抑えられない。

ユウカはあっという間に蹴り飛ばされ、数瞬、宙を彷徨った。


「これ…………ッ!!まさか……ッ!?」


恭司はユウカの体の浮いたその一瞬を見逃さない。

まるで飛ぶように跳び、蹴り飛ばされている真っ最中のユウカに追い打ちをかける。

その構えは突きーー。

ユウカは蹴り飛ばされた影響など意に介さず、両手を木刀に添えて、その一撃にかち当てた。

足元は定まらない中でも、卓越した身体能力とセンスで、何とか直撃は防ぐ。

だが、

いくら両手でも、足が地面に付いていなければ力は出せない。

ユウカの体は、そのまま後ろへ吹き飛ばされた。


「しん、じ、られないッ!!」


ユウカは吹き飛ばされながら、何とか地に無理やり足を付き、何度かバウンドするように着地した。

勢いを殺すことには成功したが、その代償として思いのほか体力を消費してしまった。

ユウカは両足が地面に着いた途端、改めて構え直し、荒れた息遣いで恭司を見る。

恭司は既に、ユウカの目前で次の攻撃の準備を整え終わっていた。

構えは上ーー。

完全に振り下ろしだ。

ユウカは凄まじい速度で叩き落されるその一撃を、両手を使ってかろうじて受け止める。

さすがに二の舞は起こすまいとすぐに弾いたが、さっき感じたばかりの驚愕は当然まだ拭えていない。

この一撃も、さっきの技も、恭司は完全にユウカの動きを真似ていたのだ。

ユウカが代々の継承で身に付けたあの技を、あの足運びを太刀筋を、恭司は完全にコピーしていた。

普通じゃ勿論有り得ない。

アレは世の中には全く広まってなどいない技なのだ。

記憶どうこうの話じゃない。

恐ろしいセンスだ。

そして、

恭司の追撃はまだ終わっていない。

次は横からーー。

遠心力を利用した恐ろしく重くて速い一撃を、恭司は同い年の女の子へ向けて全力で打ち出す。

ユウカは木刀を縦にして両手でそれを受け止めたが、ユウカの軽い体はそれでも楽々と吹き飛んだ。

ユウカも武芸者であるが故にそうか弱いはずもないが、さすがに男と女だ。

筋力量は当然違うし、心なしか恭司の一撃はどんどん鋭く、重くなっている。

ユウカはまたしても、恭司の横薙ぎの一閃に吹き飛ばされた。


「さすがにッ!!これ以上は看過出来ない…………ッ!!」


ユウカは吹き飛ばれながらも器用に体制を整える。

前を見ると、恭司の追撃はまだ続いている様子だった。

息を吐かせるつもりはないということだろう。

次は上からの振り下ろしを考えているようだが、ユウカもいつまでも攻撃され続けるほど甘くはない。

瞬時に判断してその一撃を躱すと、まるで本当の瞬間移動のような速度でその場から撤退した。

さっきまででも十分にあり得ないスピードだったが、今回のはそれをもさらに大きく上回る。

まるで風ーー。

人間に出せる最高速度ーー。

最強の移動術ーー。

家族以外、未だ誰にも見せたことのない、ユウカの本当の奥の手ーー。

かつて、母親から直々に教わった秘技の一つーー。

その名はーーーー『瞬動』。


「もう怒ったッ!!これはホントの本気だからねッ!!」


ユウカは恭司から離れた場所で、木刀を突きに構えた。

どう考えても先手じゃ届かない場所だ。

後手でカウンター狙いだろう。

恭司はそう判断した。

だが、

ユウカはまるでこれから突っ込む予定であるかのように、体重を前に前にと移す。

恭司は瞬間的に判断を修正した。

ユウカはカウンターのタイミングを待つつもりなどない。

これは、間違いなく先手必勝を狙う構えだ。


「こればかりはさすがに光栄に思ってッ!!これはもう、身体能力とかじゃなくて、私の純然たる"技"だから…………ッ!!」


途端、

ユウカはその場から凄まじい速度で恭司に突き込んだ。

ユウカの立っていた地面は無残なほどに激しく破壊され、正しく一陣の風となって、恭司に突きの一撃を放つ。

それはもはや刀技の範疇には収まっていない。

まるで弾丸ーー。

本当に目にも留まらぬ速さで、ユウカは気付けば恭司の背後にまで移動していた。

そして、

ユウカの通ってきた地面は著しくめくり上がり、速さだけでなく破壊力も高かったことが、傍目からでも一瞬で分かった。

しかし…………


「何…………で……ッ!?」


圧倒的な移動速度に、圧倒的な破壊力ーー。

急所は敢えて外して打ち込んだものの、本当なら恭司は倒れているはずだった。

肩が外れているはずだった。

立っていられないはずだった。

なのに…………

恭司は平然と、そこに立ったままだった。


「あ、あり得ない…………」


ユウカは愕然とする。

こんなはずではなかった。

この展開は想定していなかった。

ユウカが本気の技を繰り出しても、通じないなんてーー。


「次は、俺の番だな」


恭司は背後にいるユウカの方にゆっくりと向き直ると、突きに構えた。

ユウカは未だショックを振り切れず、ほんの僅かな時間思考が停止する。

だが、

もう遅い。

恭司は構えた体制から急激に体重を前にシフトさせていくと、あっという間に攻撃体制を整え切ってしまった。

ユウカとの距離はそれなりにあって、とてもここから突きを当てることなど出来ないはずだが、ユウカは戦慄を禁じ得なかった。

出来る気がして、あり得る気がして、また真似される気がして、ユウカの背筋に冷たい汗が一瞬のうちに大滝となって滑り落ちた。

そして、

恭司は刀の切っ先をユウカの少し横に向け、その間に脹脛と太腿の筋肉が凄まじく膨張する。

…………これは、ユウカの時にはなかった動きだ。

世界がまるでスローモーションになったかのように、一瞬、恭司の動きが止まって見える。

しかし、

瞬き一つした頃には、止まっていたはずの恭司の姿はそこに無く、いつのまにかユウカの背後に立っていた。

剣技というよりはまるで砲撃のような技だが、恭司のそれは、ユウカのように派手な痕跡を残すことなく、ユウカよりも明らかに速かった。

恭司は、ユウカと同じ技を、ユウカ以上のクオリティでやってのけたのだ。


「恭司…………君は一体…………」


ユウカは尋ねる。

しかし、

それは恭司にも分からなかった。

何で、自分がこの技を使えるのかーー。

何故、"最初から知っていた"のかーー。


「分からない…………。ユウカのそれを見て、俺は咄嗟に懐かしく感じたんだ。この技を…………前にも使っていたことがあったような気がして…………試さずにはいられなかった」

「…………」

「悪いことをしたと思っている。もちろん、からかうとかそういうつもりではなかったんだ。ただ…………」

「…………」


場に変な空気だけが取り残される。

何気なく始めた腕試しで発覚したそれは、どちらにとっても、あまりにも大きすぎる事実だった。

戦いは自然と終わり、ユウカも恭司もその場に立ったまま、一言も喋らない。

しかし、


「これは…………久しぶりに帰ってきたらずいぶんと面白いものが見れた」


その時、2人の背後から突如として声が聞こえた。


「…………誰だ?」


恭司はいきなり現れたその男に容赦ない敵意を向ける。

パッと見た感じでは若そうに見えるが、肌の張り具合や服装などを見るに、おそらくは40ほどの歳だろうか。

平均的な身長だが、体つきは異常にしっかりしている。

筋肉がはち切れそうなほど膨らんでいて、服がパンパンになっているほどだ。

そして、

このヒシヒシと伝わってくる圧倒的な存在感ーー。

おそらくは武芸者。

それも…………かなりのレベルだ。


「そう睨みつけないでくれ。何も危害を加えにきたんじゃない。ただ家に帰ってきただけだ」

「家に?」


恭司はユウカを見た。

ユウカは頷いている。

どうやらそういうことらしい。


「私の…………お父さんです」
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