追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー

ノリオ

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【第一章】三谷恭司

【第二話】模擬戦④

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「はぁッ!!」


先手を打ったのはユウカだった。

構えた場所からほとんど一瞬に近い速度で距離を詰め、下から振り上げの一撃を繰り出す。

恭司は瞬間的に体を後ろに引き、その一撃を躱した。

途端にカウンターを準備するが、ユウカの攻撃はそれだけに終わらなかった。

振り上げられた木刀は上に着いた途端にすぐさま下へと向きを変え、今度は振り下ろしの一撃が繰り出される。

二撃の間はほとんど無い。

カウンターと一対の技のようだ。

しかし、

恭司は木刀をそこに挟み込ませると、間一髪、二撃目もギリギリで防いだ。

木刀と木刀がぶつかり合い、ホンの少し膠着した状況に陥る。

だが、

その状態になって数秒もたたないうちに、ユウカは足を振り上げると、そのまま恭司を後方に蹴り飛ばした。


「おいおい…………」


飛ばされながら呟く。

蹴られる寸前に足でガードしたためダメージは薄かったものの、どうやら少し本気のようだ。

ガードが間に合わなければ、もしかしたらもう一度寝込む羽目になっていたかもしれない。


(まさかそれが狙いじゃねぇだろうな…………)


不穏なことを内心で考えつつも、戦いはもちろん続いている。

ユウカは蹴られて飛ばされている真っ最中の恭司に向けて再び距離を詰めると、次は突きの一撃を放ってきた。


「危ねぇなッ!!」


恭司は足が地に着いた途端、すぐに飛び跳ね、その一撃をギリギリで躱した。

殺せなかった分の勢いは何度も跳んで相殺し、ついでにユウカとの距離も空けようとする。

しかし、

ユウカは素早く体制を整えると、遠ざかる恭司に追いすがってきた。

まるで飛ぶように跳び、瞬き一つする間にぐんぐんと距離を詰めてくる。

勢いを殺すためとはいえ、恭司も地に足が着くたびに跳んで動いているのだ。

それなのに、

距離はほぼ一瞬にして縮まり、気付けばユウカの振り下ろしの一撃が恭司の眼前に迫っていた。


「マジかッ!!」


恭司はすんでのところで木刀を滑り込ませる。

ユウカの振り下ろしと恭司の防御で、木刀同士の激しい衝突音が響いた。

このまま膠着するかと思われたが、さっきこの状況でユウカに蹴られたことを思い出し、恭司はユウカの木刀を弾いてサッと後ろに跳ぶ。

その腕は、少しばかり痺れていた。


(おいおい、かなり真面目に強いじゃねぇか…………。動き速すぎだろって)


ユウカに先手を取られて以来、本当に怒涛のラッシュだった。

追い討ちの速度が並みじゃない。

それに、

動きだけでなく、木刀を振る速度も速すぎる。

初撃の二連撃の時点からそうだったが、どうやら身体能力だけでなく技量まで高いらしい。


「驚いた…………。まさか防ぎ切られるとは思わなかったよ」


ふと、ユウカは一旦動きを止め、話しかけてきた。

その声は割と真剣なものだ。

ユウカにとって、どうやらこれはかなり意外なことだったらしい。


「防ぎ切れなかったらベッドに逆戻りじゃないか…………」


恭司は呆れたようにため息を吐く。

やはりそれが狙いだったようだ。


「ま、まぁ、防げたんだし良いじゃん。言っとくけど、このレベルに付いて来れる人なんて、クラスにも数えるくらいしかいないんだから、もっと嬉しがってくれてもいいんだよ?」


ユウカは少し早口でまくしたてる。

話題を変えたがっているのが見え見えだったが、さすがに気付かない振りをした。

ちょっとした腕試しとはいえ、試合は試合だ。

空気くらいは読む。


「クラスとか言われても正直分からんさ…………。俺は学校っていうもの自体、記憶にねぇんだからな」

「まぁ、そりゃあそうだろうけどさー…………。ちょっとくらいは自慢気になってくれてもいいと思うんだよね」

「そう言われてもな…………」

「でないと…………これからさらに速くしても、驚き薄くなっちゃうじゃん?」

「何…………?」


途端、

気付けばユウカの顔が目の前にあった。

恭司は瞬時に木刀を振り、防ぐ。

恭司の頭上で、木刀同士のぶつかり合う音が響いた。


「これもよく防いだねッ!!」


ユウカはテンションが上がってきたのか、その声は少し大きかった。

恭司はすぐに後ろへ跳び、臨戦体制を整える。

防ぎはしたものの余裕は無かった。

アレは出会いがしらの振り下ろしだったが、視界に入れられたのはほんの一瞬で、移動というよりはまるで瞬間移動のように感じた。

確かに、さっきまでよりもう1段階速くなっている。


(目で追うのもかなりギリギリだ。正直、普通に驚いたぞ)


恭司は木刀を構え直す。

ユウカは既に、第二陣の準備を整え終わっていた。


「さぁ…………ッ!!これも防げるかなッ!?」


次は下から上の振り上げだった。

同じ速度で恭司の眼前に移動し、地面スレスレの見えにくい位置から、まるで一瞬のような速度で恭司の顔へ向けて走る。

恭司はそこに木刀を当てて食い止めるが、木刀同士がぶつかった瞬間、すぐに違和感を感じた。


(力が弱い…………ッ!?)


恭司は途端に身を屈める。

その瞬間、

その上をユウカの蹴りが通過した。


「アハハッ!!すごいねッ!!これも防ぐんだッ!!」


ユウカの方ももしかしたら冷静で無くなっているのかもしれない。

今の蹴りは相当強かった。

当たれば本当に無事で済んでいたか分からない。

下からの振り上げは囮で、本命は横回転の宙蹴りだったのだ。

振り上げを無理矢理キャンセルする力技でもあり、体ごと宙返る博打技でもあった。

当たった時のリターンは大きいが、普通はこんな腕試しに使わない。

だが、

それでも恭司は、嬉しそうにニヤリと笑った。

冷静で無くなっているのは恭司も同じーー。

そして、

ハイリターンな技は、大抵の場合、ハイリスクでもあるものだ。


「ようやく隙を見せたな」

「…………ッ!!」


自らの宙にいる状態で気付くユウカーー。

しかし、

もう遅い。

木刀が一瞬のような速度で振り上げられ、瞬く間に振り下ろされる。

ユウカは間一髪木刀で防いだが、足が地に着いていない状態では吹き飛ばされるより他なかった。

恭司は上段からの振り下ろしを最後まで振り切り、ユウカを遠くに飛ばす。

ユウカは猫のように宙でクルンと翻り、フワリと地に足をつけるが、今度は恭司の追撃がユウカに襲い掛かった。
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