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【第二章】ユウカ・バーレン

【第四話】告白④

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「…………それ、アベルトさんが提示した、俺がここで生活するための条件なんだよ。俺は、その詳細をお前に聞くように言われてるんだが…………」

「え?そうなの?んー、言われてみると、確かにそんな感じのこと言ってたかもしれない…………。またお父さんに聞いておくよ」

「あぁ…………頼むよ…………」


恭司は脱力感と共に項垂れた。

聞くことは沢山あるはずなのに、焦りが一気に抜けていくような気持ちになった。

ユウカは頭の上に再度クエスチョンマークを浮かべている。

ユウカにとって、同居人が人斬りということはさして問題でもないらしい。

普通、そんな人間とこれから行動するなんて命の危機レベルで嫌だろうに、あろうことか何をしなければならないかについても話半分でしか聞いてないとは…………。

恭司は、これからどうしようかと疲労感にすら襲われるハメになった。


「まっ、時間はあるんだし、ゆっくり考えたらいいんじゃない?それより、私お腹空いちゃったよ。何か作って、恭司」

「はいはい、分かりましたよ、お嬢様」


もう投げやりだった。

結局、後ろめたさや焦りを感じていたのは恭司だけだったのだ。


「なんか、気を張って疲れたわ…………」

「大変だねぇ…………。あ、そういえばね、恭司。私、前々から思ってたんだけど、そろそろ恭司の私物も必要だと思うのね。だから、今日は外に出て街に行かない?」


恭司の呟きに対して完全に他人事な返事を返した後、ユウカは今までと全然違う話を振ってきた。

恭司はキッチンで二人分の卵焼きを焼きつつ、『この話これで終わりかよ…………』と思った後、『別にこれからすぐにやることなんてないしな…………』と、半ば適当な感じでそう思った。

しかし、


「いいけど、俺、金なんて持ってないぞ…………?」


別の世界から飛ばされてきた中で、恭司の服にそれらしい物は入ってなかった。

今の恭司は、ユウカの家にお世話になっている居候で、たった1円すら持ってない無職なのだ。


「昨日ね、お父さんに話して許可もらったの。好きに買ってきていいって。良かったね、恭司」


そう言っているユウカも、少し気分は良さそうだった。

何が楽しいのか分からないが、恭司もつられて笑顔になった。


「でも俺、街なんて行くの初めてだからなぁ…………。けっこう近いのか?」


恭司は出来上がった卵焼きを机に乗せ、白ご飯を入れた茶碗もその横に置いて席に戻る。

箸は食卓の中央に置いてあるのだ。

ユウカは嬉しそうにそれを二人分取りながら、恭司の質問に答えた。


「他の人からすれば少し遠いかもしれない…………。まぁ、歩いて15分くらいかな」


取った箸の片方を恭司に渡して、ユウカと恭司は朝ごはんの時間に入る。

 アベルトが帰ってきてから、恭司は勝手にだが料理を作るようになった。

ユウカは断固としてカップとインスタントとレトルトしか作らないため、恭司はご飯のレパートリーのために一人立ち上がったのだ。


「遠いっていっても15分なのか。その割には、昨日外に出た時には街っぽいものは見えなかった気がするが…………」

「15分は、完全に私ユウカ・バーレンの歩く速度を基準に計算されております」

「………………」


察した。


「何でそんなに遠い所に住んでんだ?安かったからか?」

「いやいや、伝説の殺人鬼様がなんて庶民的な考え方してるの。普通に遠い方が気が楽だからだよ。お父さんはこことは別に都会のど真ん中に借りた家に住んでるしね」

「…………仲よさそうだったのに、複雑なのか?」

「いやいやいやいや、別にそんなこともないよ。単に、お父さんの生活リズムを考えたらその方が効率的ってだけ。愛人ならぬ彼女さんたちを毎日家に連れ込んでるよ」

「…………自分の娘相手になんて生々しい話をしてるんだ…………。普通はそこまで開けっぴろげには話さないだろ、それ…………。やっぱり複雑じゃないか?」

「んー、お父さんも男だからねぇー、別にいいかな?って思ってるよ。離婚してるから特に浮気ってわけでもないし」

「でも、下手をすればその連れ込まれてる女性がお前の新しい母親になるかもしれないんだろ?」

「あはは。それ言ったら、お父さんからしても、いつ自分に息子が増えるかって話になっちゃうじゃん」


ピシッと、空気が凍るような感覚になった。

ユウカが『あ…………』と少し恥じらった顔をしている。

自爆じゃないか…………と、内心でツッコミを入れながら、恭司まで赤面しそうだった。


「そ、そろそろ用意しよっか。ご飯も食べ終えたし」

「そうだな…………。片付けるよ」


恭司はそう言って、食器をまとめて洗い場へと持っていった。

ユウカは恥ずかしそうに俯いている。

恭司は頬をポリポリと掻きながら、食器を洗い始めた。

そんなに気恥ずかしそうにされると、恭司までこそばゆい気持ちになってくる。


「恭司はさ、結婚とか…………そういうのに興味ってあるの?」


恭司が食器洗いをしていると、背後からそんな声が聞こえた。

恭司はユウカに見えないよう困った顔をしながら、食器洗いへの意識を半分に分ける。


「興味ないって言ったら嘘になるが、別に今は考えてないな。なんせ、彼女以前に友達…………いや、知り合いすらいないんだ。それに、俺の素性を知ってまともに付き合える奴なんていねぇよ」


恭司はそう言いながら、二人分の食器を全て洗い終わり、元の場所に片付けた。

もう1週間以上この家にいるのだ。

さすがに生活する上で必要なことは色々と覚えてきた。


「いや、そんなこともないんじゃないかなー…………。私は、少なくとも問題ないけど…………」


ユウカの口から小さく呟かれた言葉。

恭司はそれに、聞こえないフリをした。


「それよりさ、今日何時頃に出発しようか?恭司何か出発前にやっておくことある?」


ユウカは切り替えて、明るくそう話し掛けてきた。

恭司は少し考える素振りを見せるものの、そんなもの全く思い浮かばない。

歯磨きとかの最低限のレベルくらいだ。


「特に無いな。ユウカはどうだ?」


尋ね返すも、ユウカもうーんと首を捻った。

年頃の女が何故悩む……と思いながらも、恭司は返答を待った。

だが、

ユウカは最終的に首を元に戻すと、


「無いね」


と答えた。


「いやいや、何もねぇのかよ。化粧とか服のコーディネートとかで時間かかるだろう?」

「いやー、別に無いね。化粧はしないし、服装もいつも適当だし」

「女の子としてどうなんだ、そこは…………」

「顔面に自信が無い人はやるべきなんじゃない?私みたいに元が可愛くてスタイルも良い人間はそんなことやる必要がないんだよ」

「………………」

(言い切りやがった…………。間違ってねぇけど、すげえな)


恭司は心の中で感心に頷いた。


「それとも…………恭司はそういうのちゃんとやってるコの方が好きなの?」


ユウカは上目遣いにそう尋ねてくる。

両手の人差し指同士がイジイジとぶつかり合っているのが少し気になった。


「まぁ、ぶっちゃけ無い方がいいな。化粧って要は美人の仮面付けてるようなもんだろう?素顔を晒せねぇような奴と、面と向かって話す気にはなれねぇな」

「うわー、世の中の女全員を敵に回しそうなこと言うねー。すごいよ」

「………………」

(お前にだけは言われたくねぇよ)


恭司は心の中でツッコミを入れた。


「まぁ、お互い時間かからないってんなら早く行っちゃおうよ。こういうのは早く行って、速く終わらせて、早く帰るのが一番なんだから」

「ウィンドウショッピングを楽しんだりはしないのか?」

「楽しくないからやらない」

「………………」


即答だった。


「恭司はやりたいの?」

「楽しさとは別だが、やりたいとは思ってるよ。なんせ、俺は街に行くのは今回が初めてなんだ。世の中で何を売ってるのか気になるじゃないか」

「ふーん。そうなんだ…………。好奇心的な?」

「そうだな。街並みとかも気になるし、ユウカやアベルトさん以外にどんな人がいるのかも気になる」


恭司はそう言って、街に対するイメージを膨らませた。

近未来的なカッコイイ街並みが頭に浮かぶ。


「でも、恭司多分、街歩いてたら浮いちゃうよ?」


しかし、


そんな恭司のもとにそんな言葉が投げ付けられた。


「え?何でだ…………?俺に何か変なとこあるか?」

「私と一緒に歩いてるじゃん」

「………………」

(なるほど…………)

「まぁ、ウィンドウショッピング楽しみたいなら止めないし、私も空気読んで先に帰っておくけどね」

「いや、そこは一緒に回ってくれよ。浮いたって俺は別に気にしないぞ?」

「私が気にするの。とにかく、これもう決定事項だから。さっさと用意しよ」


ユウカはそう言って、さっさと自室に戻っていった。

上機嫌だったのがいきなり不機嫌だ。

恭司は大仰に肩を竦め、自らも自室へと戻っていく。

ユウカが不機嫌になった理由は分からないでもないが、恭司は敢えて、気付かないフリをした。
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