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ヌルッとスタート編
第28話 脳みそは糖分を欲しているようです
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「ただいま~。お先にありがとう。男子たちもどーぞ」
おう、とエタンが先に立ち上がった。
「クレール。これ食べてもいい?
疲れ過ぎて脳みそが甘いもん食べたいって」
瓶を指差す。
「僕の脳みそも丁度そう騒ぎ出したところだ」
瓶を開け、チョコレートと思わしきものを焼き菓子が空になった皿へ出してくれた。
匂いからしてチョコのはず、嬉しい。
焦茶色のやつからお口にぽい。
ほわ~癒される~。
普通に美味しいよ、どんなチョコレートでもチョコは正義だよ。
冷静に職人目線で分析すれば、ふーむ…… まあまあ、といったとこか。
ちょっと甘さが突出気味だな。
次は明るい茶色いやつ。
おお、ジャンドゥーヤ!
でもこの糖度強めのヘーゼルナッツチョコの感じって……
「ねぇ、このチョコ。もしかしてイタリアのおヌル様関係じゃない?
そんでさっきのお菓子の名前は、ビスコッティかカントゥッチ」
「正解! 両方ともイタリア系の店の品で、焼き菓子の名前はカントゥッチ」
「トスカーナ地方出身のおヌル様か……」
「え? フランスに引き続き、国名だけじゃなく産地まで分かるの!?
コニーって凄いんだね……」
「いやいやいや全然全然! ほんと超たまたまだから!
常温取り扱いタイプの、可愛い包装のイタリア製チョコレートが、そんな高くない値段で日本に出回ってて、もらったり買ったりすんの。
『可愛い~甘っ、どこの? イタリア』って流れがあるあるでさ。
しかもヘーゼルナッツチョコ率異様に高し!
イタリアに詳しくないからこそ、日本で簡単に触れ合えるイタリアのチョコはまさにこんな感じってだけで」
「これエタンの贔屓にしてるレストランで売ってるやつで、差し入れに時々買ってきてくれるんだ。カントゥッチやエスプレッソ用のコーヒーもそう。
僕はチョコレートに限って言えばもう少し甘みを抑えて、蕩ける口溶けの濃厚なのが好みだ」
「ふふ分かる~。実は私もそういうチョコ大好き。
私ね、カントゥッチには思い出があるんだ~。
昔地方出身の恋人と話をしてた時にね、彼がカントゥッチって言うんだよ。ビスコッティってお菓子なのに。私はそんな言い方初めて聞いたから、インチキだ~田舎の商社が勝手につけた商品名じゃん、なーんて決めつけてさ。
あれから何年も経った後、トスカーナ地方の人間は地元に誇りを持ってビスコッティのことをカントゥッチって独自に呼んでいるのを知って、彼の地元で売ってたやつはトスカーナからの輸入菓子だったんだなって理解したわけ。
このお菓子を食べると、もう何年も会ってない別れたその彼を思い出すんだよね」
「とんでもなく忌々しい菓子だな。
エタンに持ち込み禁止って言っとかないと」
「ええ? それが原因で振られて別れたわけじゃないし、10代の頃のいい思い出だよ。
そんなところにまで気を遣ってくれるなんて、クレールは思いやりに満ち溢れた人なんだね。ありがとう」
「クレールお待たせ」
エタンが帰ってきた。
「別に待ってないし!」
エタンへ塩対応しつつ立ち上がるクレール。
「コニー、失礼。席を外すけどすぐ戻るね。
(いい思い出ってなんだよクソ)」
ブツブツ言いながらクレールは廊下へ向かった。
「?? なんだアイツ。機嫌悪いのな?」
「よく分かんないど、若かりし頃の私が振られた世間話に憤ってくれたとか? ははは。
あ、チョコとカントゥッチご馳走様でした。」
「おう。湖のあっちのほとりにある宿舎にも俺の部屋があんだけど、クレールん家の方が居心地良くてな。
転がりこむ期間分の食費と手土産ぐらいは、親しき仲にもなんとやらだ」
「うう、私どうしよう。身の振り方決まるまでクレールとエタンにおんぶに抱っこじゃん。
そう言えば……
出会いのヌルヌル保護ん時、クレールにおんぶしてもらったし、お風呂で意識が無かった時もきっと抱っこで2階の布団まで運んでくれたんじゃない?」
「まあな。2階抱っこは俺だな」
「うわあ、そっか。重かったでしょう?
ごめんね、ありがとう」
「まさか。軽くて楽勝だったぜ」
「30キロの砂糖袋を2階のケーキ工場に納品してくれる業者のおじさん、毎度しんどそうだよ。それよりも私重いし」
「オッサンと一緒にすんな。こちとら毎日鍛えてるオニーサンだぞ」
「ふふ違いない。
エタンは頼りになるね。
私さ、経済面だけじゃなくて、肉体的にもおんぶに抱っこって、どんだけ世話の焼ける重たいお荷物なのよ……はあ~」
「阿保ぅ。一体お前は自分が誰だと思ってるんだ?」
え?
「言わないでっていうからそう呼ばないが、コニーは『おヌル様』なんだぞ。
人ならざる謎の生き物に強制的に誘拐されて、縁もゆかりもない異界にぶん投げられた独りぼっちのおヌル様なんだ。
俺たちの世界に来て、最初に出会った俺たちが、コニーの縁とゆかりにならないでどうする」
「そうだよコニー」
あ、クレール……
廊下からやって来て、窓際の長いソファーに座る私の左隣へ腰掛けた。
「コーヒーを飲み尽くそう! なんてふざけて言ってみせても、コニーが何かを成そうと、短時間で意を決したことぐらい分かるよ。例え出会って間もなくたってもね」
「作戦会議すんだろ? さあ議長。始めてくれ」
エタンがドサって右隣に座った。
--------------------
次は自分で言うのもなんですが、わりといい感じの回なんです。楽しみにお待ちくださいませ。お見逃しなく!
おう、とエタンが先に立ち上がった。
「クレール。これ食べてもいい?
疲れ過ぎて脳みそが甘いもん食べたいって」
瓶を指差す。
「僕の脳みそも丁度そう騒ぎ出したところだ」
瓶を開け、チョコレートと思わしきものを焼き菓子が空になった皿へ出してくれた。
匂いからしてチョコのはず、嬉しい。
焦茶色のやつからお口にぽい。
ほわ~癒される~。
普通に美味しいよ、どんなチョコレートでもチョコは正義だよ。
冷静に職人目線で分析すれば、ふーむ…… まあまあ、といったとこか。
ちょっと甘さが突出気味だな。
次は明るい茶色いやつ。
おお、ジャンドゥーヤ!
でもこの糖度強めのヘーゼルナッツチョコの感じって……
「ねぇ、このチョコ。もしかしてイタリアのおヌル様関係じゃない?
そんでさっきのお菓子の名前は、ビスコッティかカントゥッチ」
「正解! 両方ともイタリア系の店の品で、焼き菓子の名前はカントゥッチ」
「トスカーナ地方出身のおヌル様か……」
「え? フランスに引き続き、国名だけじゃなく産地まで分かるの!?
コニーって凄いんだね……」
「いやいやいや全然全然! ほんと超たまたまだから!
常温取り扱いタイプの、可愛い包装のイタリア製チョコレートが、そんな高くない値段で日本に出回ってて、もらったり買ったりすんの。
『可愛い~甘っ、どこの? イタリア』って流れがあるあるでさ。
しかもヘーゼルナッツチョコ率異様に高し!
イタリアに詳しくないからこそ、日本で簡単に触れ合えるイタリアのチョコはまさにこんな感じってだけで」
「これエタンの贔屓にしてるレストランで売ってるやつで、差し入れに時々買ってきてくれるんだ。カントゥッチやエスプレッソ用のコーヒーもそう。
僕はチョコレートに限って言えばもう少し甘みを抑えて、蕩ける口溶けの濃厚なのが好みだ」
「ふふ分かる~。実は私もそういうチョコ大好き。
私ね、カントゥッチには思い出があるんだ~。
昔地方出身の恋人と話をしてた時にね、彼がカントゥッチって言うんだよ。ビスコッティってお菓子なのに。私はそんな言い方初めて聞いたから、インチキだ~田舎の商社が勝手につけた商品名じゃん、なーんて決めつけてさ。
あれから何年も経った後、トスカーナ地方の人間は地元に誇りを持ってビスコッティのことをカントゥッチって独自に呼んでいるのを知って、彼の地元で売ってたやつはトスカーナからの輸入菓子だったんだなって理解したわけ。
このお菓子を食べると、もう何年も会ってない別れたその彼を思い出すんだよね」
「とんでもなく忌々しい菓子だな。
エタンに持ち込み禁止って言っとかないと」
「ええ? それが原因で振られて別れたわけじゃないし、10代の頃のいい思い出だよ。
そんなところにまで気を遣ってくれるなんて、クレールは思いやりに満ち溢れた人なんだね。ありがとう」
「クレールお待たせ」
エタンが帰ってきた。
「別に待ってないし!」
エタンへ塩対応しつつ立ち上がるクレール。
「コニー、失礼。席を外すけどすぐ戻るね。
(いい思い出ってなんだよクソ)」
ブツブツ言いながらクレールは廊下へ向かった。
「?? なんだアイツ。機嫌悪いのな?」
「よく分かんないど、若かりし頃の私が振られた世間話に憤ってくれたとか? ははは。
あ、チョコとカントゥッチご馳走様でした。」
「おう。湖のあっちのほとりにある宿舎にも俺の部屋があんだけど、クレールん家の方が居心地良くてな。
転がりこむ期間分の食費と手土産ぐらいは、親しき仲にもなんとやらだ」
「うう、私どうしよう。身の振り方決まるまでクレールとエタンにおんぶに抱っこじゃん。
そう言えば……
出会いのヌルヌル保護ん時、クレールにおんぶしてもらったし、お風呂で意識が無かった時もきっと抱っこで2階の布団まで運んでくれたんじゃない?」
「まあな。2階抱っこは俺だな」
「うわあ、そっか。重かったでしょう?
ごめんね、ありがとう」
「まさか。軽くて楽勝だったぜ」
「30キロの砂糖袋を2階のケーキ工場に納品してくれる業者のおじさん、毎度しんどそうだよ。それよりも私重いし」
「オッサンと一緒にすんな。こちとら毎日鍛えてるオニーサンだぞ」
「ふふ違いない。
エタンは頼りになるね。
私さ、経済面だけじゃなくて、肉体的にもおんぶに抱っこって、どんだけ世話の焼ける重たいお荷物なのよ……はあ~」
「阿保ぅ。一体お前は自分が誰だと思ってるんだ?」
え?
「言わないでっていうからそう呼ばないが、コニーは『おヌル様』なんだぞ。
人ならざる謎の生き物に強制的に誘拐されて、縁もゆかりもない異界にぶん投げられた独りぼっちのおヌル様なんだ。
俺たちの世界に来て、最初に出会った俺たちが、コニーの縁とゆかりにならないでどうする」
「そうだよコニー」
あ、クレール……
廊下からやって来て、窓際の長いソファーに座る私の左隣へ腰掛けた。
「コーヒーを飲み尽くそう! なんてふざけて言ってみせても、コニーが何かを成そうと、短時間で意を決したことぐらい分かるよ。例え出会って間もなくたってもね」
「作戦会議すんだろ? さあ議長。始めてくれ」
エタンがドサって右隣に座った。
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次は自分で言うのもなんですが、わりといい感じの回なんです。楽しみにお待ちくださいませ。お見逃しなく!
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