舌先三寸覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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ヌルッとスタート編

第29話 大海原

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 こんなにもそばに居てくれると、物理的にも、心も、ぽわわんって温かいんだなぁ……

大海原おおうなばらに突如ぽーんって、独り放り出されてさ。

なにがなんだか分からないうちに、すぐさま形のいい流木が流れて来たから慌ててつかまって、一休みできたのが幸運でさ。
ふと、もしもこの流木が無くなったら……なんて勝手に空想してるうちに、波に飲み込まれ溺れかけて」

 ぽつりぽつりと、私はゆっくり話始める。

「そしたらまたすぐ、頼り甲斐のある浮き輪を投げてもらえたの。
ありがたや~今度はこれでしばらく一息つくかと思ってたら、突然の大波に撃沈。

パニックしたけどね、こんなことでひるむか! そう気合い入れて自力で浮き上がってみたんだけどさ。
余りに自分がちっぽけで、無力過ぎて、この海の途方もない広さに、陸も見えない暗さに、やっぱり沈んじゃいそうで……」

 一息吸う。

「そしたら両方からたくましい二の腕が差し出されて」

 そう言いながらクレールとエタンの腕に、左右自分の腕をそれぞれ滑り込ませ、勝手に組む。

「小さな舟に引き上げて乗せてもらえたよ」

 ヒョイっとソファーに脚を縮めて丸くなる。



「ねえ。10人のおヌル様たち」

 1番知りたかったこと。
 口からついにこぼれる。

「地球に帰れた人っているの?」

 組んだ腕を通じて2人から僅かに、身体のこわばりが伝わった。

「……いないよ」
クレールの静かな声。

「そっか」

 左のクレール。
 右のエタン。
 
 組んでいる腕をうんとぎゅっとする。

「コニー」
クレールが寄りかかるように、私の頭にこてんっと自身の頭を乗せて
「大丈夫?」
と呟いた。

『どっから話をしたらいいのか』
彼のあの台詞セリフにはこのこともきっと含まれていたのだろう。

「クレール」
「うん?」

「大丈夫」
私はクレールの頭をどかすように右に頭をずらし

「なわけ……あるかーい!!」
左へグンと倒して、クレールの右側頭部に思いっきり頭突きをかます。

「痛ったぁ!」
「ぃっつ~!」
クレールがわの腕は組んだまま左手を持ち上げ、エタンの右側腕組みは解除して両手で自分の頭を触ろうとした時

「ははは!! ちげぇねぇ!」
腕を組んだままエタンは右手で頭を撫でてくれた。
 つまり私を抱き込むようにして。

 子供ん時転んで痛いの我慢してたら、お母さんが来て
「痛かったね~。おお強い強い。泣かないで偉かったね」
って撫でてくれた瞬間にうわあ~んて泣いちゃう、アレを思い出す。
 
 やめてエタン。

「痛かったな。コニー。クレールの馬鹿にちゃんと正直に教えてやって偉い偉い」

 う、あのパターンのまんまじゃん。
 エタンの胸元に顔を押し付ける。



「泣けよ」

 くっ、い、言われなくても、もうとっくに……

「ちゃんと泣けて偉かったな」

 耳元で囁いた最後の決め台詞に完落ちして、号泣した。


 ひとしきり声をあげて泣いていると、クレールがもじょもじょしだし、腕を解いて、私の背中を三撫さんなでして離れていった。

 ふふ、いたたまれなくなっちゃったのかな?

 全く私にそんなつもりはなかったけど、はたから見たら、クレールが泣かす引き金を引いたようなもんだからねぇ。
 なんかごめん。

 案外すぐ隣に戻って来たクレールは、私の膝にぽんとなにかを乗せ、握りしめていた私の左手に柔らかな布をそっと当てた。

「これ良かったら使って……」

 ハンカチだ。

 結んでいない髪の毛のすだれ効果と、エタンにおでこを押しつけてることで、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔はさいわさらしていない。

 涙をぬぐって膝の上のものを見ると、ボックスティッシュだった。
 生成りのシンプルな布カバーに入った日本で見るのと同じようなティッシュで、箱なしバージョン。

 エタンの腕も解き、ありがとうの意味を込めて左手でとんとんと軽く胸元を叩いて彼から離れる。

「はだびどぅ、くどぅでぃがった」
(鼻水苦しかった)

 遠慮なく水音響かせ鼻をかむ。
 ゆっくり、何回かに分けて。
 以前風邪でめちゃくちゃ鼻が詰まってる時に、思い切り鼻噛んで、耳いわせたことがあったから、それ以降気をつけてんの。

 スッキリした。

 諸々もろもろすっきりした。

 もう一度ハンカチでよく拭いてから顔を上げる。

「2人ともどうもありがとう」
エタンの金の瞳を見つめながら彼の手をきゅむっと握った。
 クレールにも同様に。

 しばしの沈黙。
 何と声をかけたら、と気を遣わせるのも忍びないので、私が口火を切る。

「クレールが席を立った時、いたたまれなくなって逃げたなと思ったよ」
あえて軽口をたたいた。

「なっ! 違っ!」
目を見開いて慌てふためくクレール。

「ぷっ。冗談だよ。乙女のぐちゃぐちゃ顔を気遣う紳士だってことがよく分かったよ。」

 にやりとした私の顔つきと台詞に、安堵の表情を浮かべた。

「ごめんね、コニー……」

「謝んないで。クレールが悪いことなんてなに一つないよ。
私こそごめんね。あのやり取り中に泣いたらクレールが泣かしたみたいになっちゃうのにね」

 彼は私の話に口を挟まず、口を閉じたままかぶりを振った。

「もうね、限界だったんだと思う。 
なんでこんなことにとか、これからの身の振り方とか。私の身体、虹の方様侵入効果って一体どうなってんの?!  とか。
でも1番が、帰れるかどうかを知るのが怖くて避けていたこと。
良いきっかけだった。知らなかったら、逃げてたら。正しく次には動けないもの。
遅すぎず、早過ぎず、今だった。
クレールありがとう。
エタン甘やかしてくれてありがとう」

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