舌先三寸覚えあり 〜おヌル様は異界人。美味しいお菓子のプロ技キラめく甘々生活

蜂蜜ひみつ

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ヌルッとスタート編

第30話 コニーの思い

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「誰一人……」

 クレールが静かに口を開いた。

「帰れた人はいない……」

 そして節目がちだった顔を彼は上げた。

「800年間経ってもおヌル様の帰国の手立ては皆目かいもく見当が付いていない。
きっかけが掴めなくて言い出せなかった……ごめん」

 そしてまた続けた。

「コニー、これももう気がついてると思うけど……。
蛍様がお招きされたのは14年前。つまり次のおヌル様は順当にいけば86年後ぐらいなんだ。
それがコニーは今、こうしてこの世界に現れた。
僕らは勿論のこと、誰もが予想すらしない出来事だよ。
100年ごとの暗黙の了解がくつがえったってわけだからね。
これになにか意味があるのか。
正直分からない。
そもそも他のおヌル様たちだって、理由があって招かれているのかすら、誰もみな明確な答えなど見つけていないんだ。
申し訳ないけど、コニーが一番知りたいであろう「なぜ」に僕らは答えることができない。本当にすまない……。
ただ、分かっていることがあるとすれば、おヌル様同士はそれぞれが100歳差ってわけではないってこと。
ヌルヌルの出来事に見舞われた地球人を、意図的に100年ごとになるように、虹の方様が『配置』しているみたいなんだ。
そしてやはり、なぜ、どうやって、は分からない」

 口をつぐみ言い淀んだ後、少し眉間に皺を寄せるような表情で話しを続けた。

「言い訳になってしまうけど、文献に残された過去のおヌル様も蛍様も皆真っ先に、『なぜ呼ばれたのか』『どうやったらいつ帰国できるか』について知りたがっていた。当然だよね。
でも君はなかなか聞いてこないから……。
コニーにはコニーの考えがあるんじゃないか、自分で良い時を見計らってるんじゃないか? そう僕らも考えて、積極的に話題にするのを躊躇したのが事実だよ」

「そう、私の考えね……。うん、あったよ。
最初はさ、わざと伏せたの。帰りたい想いを盾に取っていいようにされたら、なんて事態も想定してね。
2人が良い人たちだって分かっても、地球人に対する政府の意向だってあるじゃない?

そして蛍様。
ご家族ができた今ならまだしも、15の女の子が帰らない? 来た当時残る事を選んだ? って疑惑が生まれた。

極め付けが、私が最初に泣きそうになった時。2人がね、もうね、優しいの。優し過ぎたの。
日本に帰るまでは居てもいいよって軽い感じじゃなかったの。もしやこれは、ってなった。

知るのが怖いっていう気持ちは勿論あったよ。でも逃げたって事実は変わんないから早く知りたい気持ちのほうがどんどん強くなっていったよ。

それとね。
帰れないって知って、パニックしてさ。
八つ当たりで暴言吐いたり、自暴自棄になって幻滅行動取ったりして、2人に嫌われるのが怖いっていうのも正直あった。

だから今日の夜楽しくお酒でも飲んで、お酒の力を借りて勇気出して質問して。
ダメだった時は、酔いに任せて部屋にこもって大泣きして。
酔っ払って衝撃を麻痺させたいと思ってたの」

 ぽつりぽつりと、持っていた思いを、名残りの雨が降るようにこぼしていった。

「そうだったのか……」

「人生に突然降りかかった途轍もない事態なんだ。誰しもが取り乱したり不安定になったりしても不思議は無いよ。
僕が、僕らが必ず君を受け止める」

「なあ、嫌いになるなんてことはねぇから安心しろ。それにコニーは表面上は今ヤバい状態には全然なってないぜ? 
やっぱ案外根性座っててキモが太い。ちっさいナリして大した女だ」

 出た。
 エタンの褒めてるようで褒められた気がしない発言。

「そして誓って、僕らは君に何かをわざと包み隠したりするつもりもないし、これからもしないと約束する」
 
「うん……。2人からは、騙そう隠そうなんて思惑は微塵みじんも感じられなかったよ、稀代きだいの詐欺師でもない限りはね」

「何も知らないおヌル様を、コニーを、決して自分らの都合のいい様に取り扱ったりはしない。
それにな、俺ら由緒正しき国家公務員だ。ペテン師じゃねえから安心してくれ。
俺らの仕事のこと、その辺上手くクレールが今から説明すっから。」
 
 国家公務員……。
ときおり会話に出てくる「虹の院」とか「湖の仕事」とやらか?

「さっきね、ハンカチとか取りに行く時に風呂を沸かしたんだ。沢山泣いたあと、身も心もスッキリするために、もし良かったら入るかな? と思って。
 ただその前に虹の院と僕についてだけ軽く説明させて?
 湯船で気が緩むと悶々もんもんと考えちゃうことってあるでしょう?」

 クレール乙女心が解り過ぎ!
 こりゃ女性にモテモテだよ。
 いやむしろクレールこそが乙女なのか? 

 私はもちろん、うん、と頷いた。
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