ホストの俺が、転生先ではじめたホストクラブが魔道具屋になってしまった理由。

弥湖 夕來

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「喧嘩でもできれば、まだ、まし、なんだけど、ね」

 両手で握りこんだグラスの中身を見つめたまま、グリゼルタは呟いた。

「無理にとは言わないけどな、良かったら話してみ? 
 もしかしたら力になれるかも知れないし」

 その反対に何もしてやれないかもしれない。

 なにしろ、夫婦間の問題に他人が口なんか突っ込むこと事態がマナー違反だ。
 が、少なくとも抱えた何かを吐露してしまえば、少しは胸が軽くなるはずだ。
 こんな顔のままのグリゼルタを放っては置けない。
 

「……侯爵様、ね。
 愛人が居たの…… 」

 絞り出すようにグリゼルタが呟いた。

「よくある話だろ? 
 貴族同士の結婚なんて、家同士の結婚なんだからさ」

 だから、平気でお互い同士が愛人を作る。

 俺もこんな商売でそれに手を貸していることになるのだが。
 
 グリゼルタだって子爵家の生まれだ。
 本人同士の意思なんて全く関係ないことを理解していないわけがない。
 俺は遠慮なく単刀直入に言う。
 

「そんなのわかってるわよ。
 わたしね、結婚してからこの方。
 侯爵様のエスコートで夜会に出たこと一度しかないの」

「はぁ? 
 そんなことで拗ねてたのかよ? 
 あれだろ? 若い美人の新妻、他人に見せたくないって奴。
 たまに居るよな、そういう独占欲の強い男」

 俺はなんともないように笑い飛ばす。

「侯爵様の邸の執事もそう言うわ。
 だけど、そうじゃないの。
 何故だかわからないけど、わたし出席していない筈の夜会に必ず顔を出しているって、この間親友に言われて。
 ついでにその親友が言うのに結婚してからわたしそっけなくなって侯爵様にくっついてばかりで古くからの知り合いとかお友達と会話や挨拶どころか目を合わせることも避けるようになったって」

「なんだよ? 
 その妙な話」

「不思議でしょ? 
 だからね、わたし親友に協力してもらって確かめたの。
 そしたらどうだったと思う」

 話しているうちに少し気が落ち着いたのか、グリゼルタの口調や顔つきがいつものものに戻り始めた。

「侯爵は夜な夜な夜会に愛人をエスコートしていたって? 」

 まぁ、その程度は予想がつく。
 さすがに一年未満の新婚夫婦ではめったに目にしないが、ある程度年齢を重ねた夫婦ではたまにある。
 時には夫は夫の愛人、妻も自分の愛人を伴って夜会の席でばったりなんてこともある。

「そこまでは良くある話って言うか。
 まぁ、なきに越したことはない話なんだけど、たまに夜会とかで噂話になるでしょ。
 問題はその後よ。
 侯爵様がエスコートしてたのってわたしだったの! 」

 グリゼルタは目を大きく見開いて身を乗り出す。

「はぁ? 
 ちょっと待った、意味がよくわかんね。
 それじゃおまえ侯爵と夜会行っているってことだよな? 」

「正確にはね。
 わたしと同じ髪と瞳の色の同じ位の背格好の女。
 それがお嫁に来る時にお父様が作ってくださったわたしのドレス着て、お母様のお形見のわたしのパリュール身につけて、わたしがよく結う髪型に髪を結って、わたしの名前で侯爵様にエスコートされていたの」

「それ、なんだよ? 」

 グリゼルタの言っている意味がわからない。

 政略結婚で他人に押し付けられた馬の合わない妻を袖にして、愛人を連れ歩くまでならわかる。

 なのに、何故愛人を妻に似せさせて連れ歩かなければならないのか、全く疑問だ。

 むしろ、そう言う一部の貴族は愛人を持つことがステータスシンボルの一つになっているから愛人の存在を隠そうとはしないはずだ。

「不思議でしょ? 
 だから、我慢できなくて聞いちゃったのよね。
 侯爵様に」

「相変わらずせっかちだな。
 普通はこういう時じっくり考えるだろう」

「だって、気持ち悪いじゃない。
 煮え繰り返った腸抱えて黙ってるのって」

 俺の言葉にグリゼルタは口を尖らす。

「で? なんだって? 」

「はっきり言われたわ。
 その女、侯爵様との間にもう男の子を産んでいるんですって。
 だから、わたしとの間の子供は要らないって。
 家督はその子に継がせるそうよ」

 自棄を起こした様子でグリゼルタはさっき俺が手渡したグラスを仰ぐ。

「げっ、何よこれ。
 エジェ、こんなものお客さんに出してるの? 
 よく悪い評判立たないものね」

 余程口に合わなかったのか、グリゼルタは眉間に皺を寄せると舌を出す。

「そうか? 
 確かシュガーオレンジ風味とかで女性に飲みやすい低アルコールだって、出入りの酒屋が…… 」

 何気なく確認しようと、俺は瓶を持ち上げる。

「……悪い。
 間違えた」

 手にした瓶を一目見て、俺は頭を下げるしかなかった。
 とにかくグリゼルタが常連の太客でなかったことに感謝するしかない。

「何飲ませたのよ? 」

「それが、その…… 」

 俺は口篭もる。

 まさか、『マジックアイテムをうっかり手にした時に吸い取られた魔力や体力を補うための強壮剤』だとは言えない。
 あれ以来、何時誰が昏倒してもいいようにこの部屋の戸棚には常に何本かのこれが用意してある。
 実際使ったことも度々だ。

「まぁいいわ。
 味は酷かったけど、なんだか元気が出たし」

 気持ちを切り替えたようにグリゼルタは立ち上がる。

「具合悪かったのか? 」

 勢いはいつものグリゼルタだったし、この暗闇じゃ顔色まではわからなかったからそんなこと気がつかなかった。

「たいしたことないの。
 すこぉし眠れなかっただけだから、心配しないで」

 言いながら空になったグラスを返してくる。
 グラスを差し出したグリゼルタの左手の指を目に俺は違和感を覚えた。

「だから、おまえ早々に指輪はずしたのか? 」

 あるべきはずのマリッジリングがその薬指にない。

「指輪? 
 ああ、最初からないの。
 それがね、作る時にサイズを間違えたみたいで太すぎてゆるゆるだったのよね。
 それで侯爵様が治しに出してくださったんだけど、まだ戻ってこないんですって」

「んな、いくらなんでももう結婚式から半年だぞ? 」

「侯爵様、出入りの宝石商にはこだわっているみたいだから。
 その代わりにって、これ…… 」

 グリゼルタは結い上げる時に残して巻いたこめかみの上の髪をかきあげる。
 片方の耳だけに鈍い色をした紅い宝石が光って揺れる。

「侯爵様と片方ずつなの。
 指輪が戻ってくるまでこれで我慢してくれって」

 ふわりと微笑むとグリゼルタはドアへ向かう。

「帰るのか? 」

 ドアに向かうグリゼルタの背中に声をかけた。

「うん。
 そろそろ帰らないと、侯爵家の家令さんがいい顔しないし。
 家にも帰れないし。
 泊めてって言ってもエジェ泊めてくれないでしょ」

 少し淋しそうな笑みを浮かべる。

「じゃあ、送ってく」

 俺も慌てて腰を上げた。

「いいよ。
 エジェ、仮にもわたしの元婚約者さんだもの。
 もし侯爵家の使用人にでも見られたら、騒ぎになるから」

「わかった、じゃぁ。
 家のメイドに送らせるから。
 ちょっと待ってろ」

 俺は慌てて屋根裏に引っ込んだ皿洗いの女を起こしに階段を上った。
 
 
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