ホストの俺が、転生先ではじめたホストクラブが魔道具屋になってしまった理由。

弥湖 夕來

文字の大きさ
19 / 26

- 18 -

しおりを挟む
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
 
 
 それからの時間はあっという間だったと思う。

 その日の夕方、真っ白なドレスと白い花で飾られたヴェールを纏ったグリゼルタを横抱きにして俺は店の裏口のドアを潜る。
 

「本当に良かったのか? 
 ここじゃなくても家はあったんだけどな」

 ベッドに降ろした花嫁姿のグリゼルタの顔を改めて見ながら俺は言う。

「エジェのおばあ様から譲っていただいた、郊外の邸でしょ? 」

 花飾りの乗ったヴェールを頭から外し、グリゼルタはそれを丁寧に整える。

「ここよりよっぽど快適だぜ」

「ここがいいの。
 エジェ、こんな仕事してたら毎日朝にならなきゃ帰ってこないでしょ? 
 いやぁよ。
 すれ違いの生活なんて。
 それに、綺麗なお客さんと毎日顔を付き合わせる仕事なんだもの、見張っていなくちゃ浮気されそうで不安だもの」

 拗ねるように言って浮かべた笑顔が愛らしい。

 もっと近くで見たくて、俺はグリゼルタの隣に腰を降ろした。

「でも、やっぱりここは環境が悪いだろ? 
 向こう三軒両隣どころかこのとおり全部呑み屋だし」

 正直俺の顧客より、店のホスト達の方が不安だ。
 何しろ女を口説くのが商売の連中。
 そんなヤロ-ばかりのところに置いておけるか。

「子供のこと? 
 エジェ気が早すぎ。
 大丈夫よ、その時が来たら考えるし。
 それよりエジェ、昔から片付けとか帳簿仕事とか苦手でしょ? 
 少しはわたしもお手伝いできると思うのよね」

 俺の思いを勝手に解釈して、グリゼルタは小首を傾げる。
 媚びるように上目遣いで見つめられたら、もう抱きしめたくて仕方がなくなった。
 そっと肩を抱き寄せると答えるように頭を預けてくる。
 俺はその顔に手を添えキスを落す。
 とりあえず今夜の店は休みだ。
 確実に朝まで邪魔は入らない。
 グリゼルタの柔らかな巻き毛の感触を確かめながら、ゆっくりとその躯をベッドに横たえた。
 
 

「お店今日はもう開くのよね? 」

 遅い昼食の食卓を挟んでグリゼルタが訊いてきた。

「ああ、悪い。
 俺が休むだけなら問題ないけど、あいつらそう毎日休ませる訳に行かなくて」

 パンを口に運びながら俺は言う。
 こんな時、貴族だったらもう少しゆっくり時間が取れるはずなのに、申し訳ないと思う。

「七人もの兄弟自分の稼ぎだけで養っている騎士様や、病気の両親抱えている王子様だものね」

 グリゼルタが笑顔を浮かべた。

 やっぱり、もう少しだけベッドにいれば良かった。
 明け方近くまでその華奢な身体に溺れ、さすがに不味いと自重したのが悔やまれる。

「なぁに? 」

 そんなふしだらなことを考えている俺の思考を探るようにグリゼルタが顔を覗きこんでくる。

「そうだ。
 忘れてた」

 俺は立ち上がると飾り棚の上に置いた箱を取り上げる。

「これ、昨日兄貴の所に届いたって」

 俺はその箱をグリゼルタに差し出した。

「これ、お母様のパリュール…… 」

 箱を見ただけでグリゼルタは呟く。

 さすがに侯爵も気が引けたのだろう。
 グリゼルタの嫁入り道具、唯一の財産と思われる母親の形見だけは戻してくれた。

「お礼言わなくちゃいけないわよね」

 蓋を開け中身が揃っているのを確認してグリゼルタは呟いた。

「いいだろ、別に。
 元々おまえの物だったんだし」

「でも、侯爵様にはお兄様の借財を肩代わりしていただいたりしているんだもの。
 これだって戻ってこなくても仕方ないって諦めていたのに…… 」

「兄貴も言ってただろ? 
 おまえの戸籍代だって」

 兄貴が中に入ってくれたおかげで、こじれることなく事は済んだ。
 ただその代償としてグリゼルタは貴族の家の生まれという生い立ちを手放すことになった。
 同じ貴族出の三男の嫁でも、庶民育ちと元貴族の令嬢ではこの先世間の扱いに差がつく。
 俺からしたらそれが可哀想で仕方がない。

「気にするなよ、むしろ安いくらいだ」

 俺はお茶を飲み干すと立ち上がる。

「そろそろ、時間だから支度する」

 言い置いて寝室に戻る。


 髪を整え粉をはたいて、上質なシルクのシャツの上にヴェストを着込み、その上に重いほど豪華な刺繍の施されたジェストコールを纏う。

 袖口に配されたレースに乱れがないか確認して俺は鏡の前を離れる。

「……エジェの正装はじめて見たけど。
 なんか、王族のご子弟が花嫁選びの舞踏会に出向くような仰々しい恰好ね」

 俺の正装を目に何時の間にか寝室までついてきたグリゼルタが呆れたように言う。

「言うな。
 いいんだよ、そう言う設定なんだから」

 店での俺の立ち位置は差し詰め公爵の子弟。
 正直俺もさすがにこの煌びやかな衣装は派手だとは思う。
 普通に夜会に行くのなら、絶対にここまで凝った正装なんか絶対しない。
 あくまでもご夫人方を喜ばせる『お遊び』と割り切っているからできる服装だ。
 俺は薬指に嵌まっていた指輪を外すと、グリゼルタに差し出した。

「これ、預かっといて」

 グリゼルタは黙ってそれを受け取った。

「ごめんな、お客さん割と鋭くて、こういうところも良く見てるから」

 半オーナーとしての雑事が多いこともあり半分以上は店に出ていないが、一応まだ接客もしていることもあり、嫁さん貰ったことは客には内緒だ。

「ううん、いいの。
 お仕事だもの仕方ないじゃない」

 グリゼルタはそれを受け取ると自分の指輪がある隣の指にはめる。

「作ってもらっただけで嬉しい」

 それを目の前に上げ返す返す眺めながら嬉しそうに顔を綻ばせた。

「侯爵様ね。
 例え偽装でもわたしとのマリッジリング作るのは嫌だったみたい。
 でも結婚式の時にはどうしても必要でしょ? 
 だから、あの女のために作った物を使ったんですって。
 どうりでサイズが合わない筈よね。
 元々他人の指に合わせて作られたものだったんだもの」

「それ、誰から聞いた? 」

「ん? 伯爵さ、お義兄様から」

「全く、余計なことまで教えやがって」

 俺は息を吐く。

「そんなつまんないこと、早いとこ忘れちまえよ」

 グリゼルタがそんなことを何時までも悩む必要なんかない。
 もちろん、俺は忘れるつもりはないけど。

「うん、そうする」

 グリゼルタは俺の手をとると指輪のあるべき場所にキスを落す。

「でも、だからって浮気は絶対駄目だからね」

「ああ、わかってる」

 釘を刺すように言ってからグリゼルタは金色の鎖を取り出し俺の首にかける。

「指輪の替わり。
 これなら目につかないところだからお客様にわからないでしょう? 」

 グリゼルタは幸せそうに目を細める。
「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 グリゼルタの声に送られて俺は階下へ降りていった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜

鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。 (早くない?RTAじゃないんだからさ。) 自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。 けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。 幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。 けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、 そもそも挽回する気も起こらない。 ここまでの学園生活を振り返っても 『この学園に執着出来る程の魅力』 というものが思い当たらないからだ。 寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。 それに、これ以上無理に通い続けて 貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより 故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が ずっと実りある人生になるだろう。 私を送り出した公爵様も領主様も、 アイツだってきっとわかってくれる筈だ。 よし。決まりだな。 それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして…… 大人しくする理由も無くなったし、 これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。 せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。 てな訳で……… 薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。 …そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、 掲示板に張り出された正式な退学勧告文を 確認しに行ったんだけど…… どういう事なの?これ。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...