されたのは、異世界召喚のはずなのに、なぜか猫になっちゃった!?

弥湖 夕來

文字の大きさ
69 / 83
新しい召喚者と国宝級魔術持ち

-5-

しおりを挟む
「お帰りなさい、マリー。
 お泊りしてシャンタルとのパジャマパーティー楽しかった? 
 どんなおしゃべりしてきたのかしら? 
 恋バナ? 」
 
 王宮の執務室に入ると、ジルさんが待ちかまえていたかのように迎えてくれた。
 
 うわっつ、ジルさん一晩でげっそりやつれている。
 いつもの綺麗なお顔が、見る影もない。
 そりゃそうか。
 
 召還者が三人使い物にならなくなったんじゃ、他の手をって考えて寝ている時間もなかったんだろう。
 
「ごめんなさい、クララック卿。
 冗談言っている時間はないの。
 鳥の王がすぐそこまできているって! 」
 
「なんですって! 」
 
 ただでさえぼろぼろのジルさんの顔色が真っ青になる。
 
「クララック卿、大変です! 
 とっ、鳥の王が王都の南側の城壁に現れました」
 
 同時に補佐官の人が、書状を持って駆け込んできた。
 
「大変っ! 
 被害は? 
 騎士団は? 
 魔女や神官には連絡したの? 
 陛下は、ご存知なの? 」
 
 これでもかってほどの速さでまくし立てる。
 
「はい、結界を張ってありましたから、まだ今の所は持ちこたえております。
 ただいま、第一から第三までの騎士団が総出で向かいました。
 近衛は王太子殿下の出立を待ち待機中です。
 神官様方への連絡はクララック卿の指示をいただければすぐに出せるように待機させております」
 
 さすがはジルさんの下で働いている補佐官さん、ジルさんのやりたいことはすべてお見通しで、指示される前に手配を済ましていた。
 
「殿下が出るんじゃ、あたしがここにいるわけにいかないわよね。
 準備して! 
 それから、魔女シャンタル。
 各地の魔女に連絡をお願い」
 
 言いながらジルさんはシャンタルさんを振り返る。
 
「襲われているのが南だから、南の中継所は使えないわ。
 それ以外の場所からね」
 
 それだけ言って、書き物机に戻ってペンをとると、凄い勢いでペンを走らせる。
 
「はい、指示書と協力要請書よ」
 
 何通かの書類をあっと言う間に書き上げて差し出す。
 
「後はね…… 
 あたしの代理はロイロック殿下にお願いして。
 マリーはギュスターヴを呼んで預けて。
 恐らく一部の魔女や魔導師と一緒に、前戦後方に向かわせることになるから、念の為護衛をつけてくれる? 
 みんな気が立っているだろうから、猫ってだけで矢表に立たされかねないから。
 それからね…… 」
 
 これでもかってほど、あちこちに指示を出して、最終的にわたしに向き直る。
 
「それじゃ、あたしは行くけど…… 
 マリー、ごめんなさいね。
 いい子でギィの言うことを聞いてね。
 少し怖い思いするかも知れないけど、ギィの言うこときいていれば大丈夫だからね。
 いい子にしていたら、新しいキャットタワーでも猫用のドレスでも何でも買ってあげる」
 
 それだけ言うと、忙しそうに出て行ってしまった。
 
「じゃ、悪いけど、わたし達も行くわね」
 
 ジルさんから渡された書類にざっと目を通して、シャンタルさんも立ち上がる。
 
「あのっつ、わたしは? 」
 
 皆が忙しそうに立ち働くのに、わたしだけ暢気に寝ていていいのかな? 
 何かお手伝いできることがあれば、やるんだけど。
 せっかくシャンタルさんの使い魔にしてもらったんだし、何かできる事あるよね。
 
「マーサは、待っていて。
 クララック卿も言っていたけど、ギュスターヴ様がすぐにくると思うから…… 
 ギュスターヴ様の言葉わかるわよね? 」
 
 確認するようにシャンタルさんがきいてくる。
 
「うん、聞くだけは。
 わたしの言っている言葉は、多分シャンタルさんに通訳してもらわないとわからないかも知れないけど」
 
「それならいいわ。
 ギュスターヴ様の言うこと聞いてね。
 それがわたしの指示。
 タピー、いくわよ! 」
 
 タピーを連れてシャンタルさんも出て行った。
 
 ジルさんもシャンタルさんも、同じことを言っていたから、多分ギィさんについていけばいいってことだよね。
 問題は…… 
 わたしにギィさんの居場所がわからないってこと。
 そもそも、この建物の中自体をよく知らないし、ギィさんがここで暮らしているのか仕事をしているのかもわからない。
 それ以前に、廊下に出てうろうろしていて誰かの目に止まったら、絶対に追い回されて放りだされそうだし。
 
 どうしようかな? 
 
 なんて思っていたら、突然ドアが開いた。
 
「マリーちゃん! 
 良かった、ここにいたのね」
 
 軽い足音とともに声を掛けられる。
 
 この声、コゼットさんだ。
 
「ね? シャンタルさんに聞いたんだけど、あなた、回復魔法使えるって本当? 」
 
「にゃ(多分)」
 
 軽く頷いてみせる。
 
 コゼットさんとは使い魔契約していないから、多分言っていることわかんないよね。
 
「ジルさんの怪我を治したのもあなただったのね」
 
 コゼットさんが残念そうに溜息をついた。
 
「……ごめんね。
 もっと早くにわかっていたら、いろいろ教えてあげられたのに」
 
 そう言いながらわたしを抱き上げる。
 
「ところでマリーちゃん。
 回復魔法の術式わかる? 」
 
 コゼットさんが顔を覗きこんで訊いてきた。
 
「にゃん(ううん)」
 
 言葉は理解してもらえないだろうから、大げさに首を振って見せた。
 
「……だよねぇ。
 あなた、あの時無意識に魔力使っていたみたいだもの。
 とにかく、半日であなたに『回復魔法』を習得させろって、ギュスターヴ様からの依頼なの。
 時間がないから、急ぐわよ」
 
 コゼットさんがわたしをそっと床に降ろした。
 
「えっと、マリーちゃん、どうやって今まで魔法使っていたか憶えてる? 」
 
「にゃ(全然)」
 
 その問いに首を横に振る。
 
「じゃ、時間をあげるから、その時のこと思い出してくれる? 
 相手がどんな状態で、その時自分がどう思って、どう行動して、体のどこに変化があったのかとか、全部」
 
 コゼットさんが早口でまくし立てた。
 
 えぇとぉ。
 
「人間なら、術式覚えてそれを具現化させれば早いんだけど、そもそも術式唱えられないしね」
 
 続けて言う。
 
 術式ってなんだろう? 
 呪文みたいなものなのかな? 
 
 えっと、じゃなくて。
 なんだか、コゼットさん切羽詰っているっポイから、ここは言うこと聞いたほうがいいよね。
 
 なんだっけ、わたしがジルさんの怪我を治した時の状況。
 あの時は確か…… 
 
 傷から来る熱にうなされたジルさんに寄り添って。
 何にもできないけど、せめて熱だけでも下がればって思って、躯をくっつけていたら…… 
 そう、何となく躯が特に手の先がぽかぽか暖かくなって…… 
 
 それ以上は憶えてないや。
 なんか、すっごく眠くなって、あろう事か苦しむジルさんよそに熟睡しちゃったんだよね。
 
 なんて考えているとまた手の先がぽわんって暖かくなった。
 
「これよ、これ! 
 この印! 」
 
 コゼットさんがいきなり声をあげた。
 
 印? 
 何のことだろ? 
 
 少なくともこの躯、茶トラだから背中に縞模様があるけど、それのことじゃないよね。
 なんかもっと特別なものだと思うんだけど、そんなのあったっけか? 
 
 あるとしたら、毛の中とか口の中とか耳の内側とかなんだろうけど。
 そういや、わたしの右手の肉球、掌に当る真ん中の大きなのに桜の花弁みたいなピンクの模様があったけど、まさかこれのことじゃないわよね。
 肉球の色が斑になるのって、模様ありの猫ならよくあることだし。
 
 自分に右手を目の前にもちあげて確認する。
 
「ほら、マリーちゃん、集中切らさない」
 
 気を逸らした途端に、びしっと言われた。
 
 えっと、ジルさんの隣に寄り添って…… 
 
 考えながらもう一度最初からやり直す。
 ぽわって掌が温かくなったと思ったら、肉球の先に前にシャンタルさんに見せてもらったのと同じような、光の魔方陣みたいなのが浮かび上がっていた。
 ただ、色がかなり違うけど、これでいいのかな? 
 
「すご…… 
 一回でここまでできる? 」
 
 コゼットさんが息を飲み込む音がする。
 
 ということは、多分これでよかったってことだよね。
 
「本当なら、怪我人でも連れてきて実際に何度か実践してみるといいんだけど。
 怪我人なんてそう簡単にいるわけないし、今無駄に魔力使われると困るのよね。
 とにかく、マリーちゃん。
 その感覚をよく憶えておいてね。
 じゃ、そろそろ行きましょうか? 」
 
 コゼットさんがわたしを抱き上げると同時にドアがノックされる。
 
「どうかな? 様子は? 」
 
 ギィさんが突然顔を出す。
 
「終わりましたよ、今。
 多分現場に出ても大丈夫です」
 
 わたしを抱えたまま、コゼットさんが言う。
 
「もう? 
 まだ、二時間だよ。
 凄いな、早くても一日は掛かると思ったんだけど」
 
「今、一日って言いました? 
 わたしには半日で仕上げろって言っておいて」
 
 コゼットさんがジト目でギィさんを見る。
 
「そりゃ、一日は時間の猶予がなさそうだったからさ。
 今度の『王』はかなり大きそうだよ。
 それに場所が場所だからね、民の被害もかなり予想される。
 結果、それを守護する騎士団の被害も大きくなる。
 そろそろ応援要請が届く頃じゃないかな? 」
 
 何かを探るようにギィさんは目を細めて窓の方へ視線を向けた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...