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第一章 魔王様拾っちゃいました!
第三話 目指せ! ランクアップ#1
しおりを挟む「よぉ、中々頑張っているようじゃねぇか」
いつもどおりギルドハウスに入りカウンターへと近づいた時、酒場スペースからガルカさん達が声を掛けてきた。
「ギガント・ボアを日帰りで討伐して来たって? あのハゲ親父が仰天する絵面なんて初めてみたぜ」
「おまけに肉まで解体してそのまま持ち帰っておっさんに説教されるなんて、おめえら芸人の素質もあるんじゃねぇのか?」
覚悟はしていたけど、やはり知れ渡っている。
うん、まぁ……。解体したギガント・ボアの肉塊を袋に入れたまま背負ってギルドまで持ってくれば当然目立つし、トーマスさんが呆れるのも無理はない。
そりゃ、ギガント・ボアの肉にはそれなりに需要があるし、そこそこの値段も付く。
ただサイズに比例して量も増えるワケだから、荷車か手押し車を使って城門の辺りで処理するのが普通。
それを背負って丸ごと持ってくるなんて前例もないワケで。
というか血の染みが浮き出てる大袋を背負って入ってくれば、そりゃ誰でも驚いて当然って話。
いや、常識的に考えれば駄目だってわかりそうなモノだったけれど、わたしもテンパってたんだろうなぁ……。
「多芸多才とは、余のためにあるような言葉故な」
一方のアイカさんはどこ吹く風。からかいの言葉に手を振って答えている有様だ。
「お主らも精進するが良いぞ」
「かーっ! 言ってくれるねぇ」
最初の頃こそ白眼視されていたアイカさん(とわたし)だったけど、今では軽口が飛び交う仲になるぐらい打ち解けている。
もともと探索者には実力第一主義的な考え方の者が多い。
一番わかりやすい基準がいわゆるランクなので、低ランクの間は馬鹿にされがちだけど一度実力を見せれば一目置かれるようになる。
二人で――うち一人は戦闘力としてはアテにならないわたし――ギガント・ボアを狩ったと聞けば、皆が好意的になるのも当然の成り行きだ。
「よう、姉ちゃん! 早くランク上げろよ!」
好意的どころか人気者になっている感まである。
「そうしたら一緒に一仕事やって、また一杯やろうぜ!」
なにしろアイカさんは、人見知りなんて単語とは真逆な性格の持ち主だ。探索者になってからの行動たるや、わたしの目が回るレベルで活発に。
日中は実績稼ぎのギルド仕事をこなし、夕方には入浴と必要品の買い物。
夜になればギルドの酒場コーナーで他の探索者達と飲み交わす。
最初は『よくわからないイロモノ姉ちゃん』みたいな反応だった他探索者達も、一度二度アイカさんの奢りがあれば、一転して好意的な反応へと変化する。
そうやって一度こっちのペースに持ち込んでしまえば、後はこちらのもの。
口調こそやや尊大ではあっても、言葉に嫌味の無いアイカさんのペースに瞬く間に飲み込まれてしまう。
「いやぁ、最初に見た時には『なんなんだ、コイツは?』とか思っていたが、意外と話せる相手だったんだな」
「俺も魔族ってどうなんだよと思っていたが、先入観って奴だったナァ」
探索者って人種は実に単純な連中が多い。
傍から見ればその日その日を刹那的に生きているように見えるだろうけど、だからこそ横の繋がりを重視している。
今日誰かが野垂れ死ねば、それは明日の自分。気心の知れた仲間と言うのはなによりも大切なのだ――もっとも、それはつい先日までのわたしには実感できなかったことだけど。
「良い良い。余は寛大である故な。それにお主らの気持ちもよくわかるしな」
鷹揚に頷くアイカさん。
「それにしてもガルカよ。杯が進んでおらぬようだが、どうした?」
いつもは派手に杯を傾けているガルカさんが、今日は珍しく控えめにしていることに気がついたアイカさんが肩を叩きながら話掛ける。
「ここは余の奢り故、遠慮する必要はないぞ?」
「タダ酒は実に美味い、それが安酒でもな」
それに対するガルカさんの返事は心底残念そうな響きが滲んだものだった。
「だが明日は朝早くてな。あまり深酒すると仕事に響く」
あぁ、なるほど。仕事の予定が入っているなら、深酒も夜更しもご法度。
無類の酒好きで知られるガルカさんから見れば、それはもう残念なことだろう。
「ふむ。それは致し方なしであるな」
アイカさんもがっかり顔。騒げる人数は多いほど良いって思考の人だからなぁ。
「こっからシビテム・セカンディウム行き商隊の護衛を、あの禿野郎にどうしてもって頼まれてナァ」
どうやら隣街に向かう隊商の護衛を受けたみたい。
隣町といっても辺境の話。片道ゆくだけで四日はかかる道程だったりするから、往復で八日。
現地での色々を考えれば十日は帰ってこれない計算だ。
「気は乗らなかったが、あぁも頼み込まれちゃあ断れねぇからなぁ」
腕を組みながら、どこか得意そうな表情を浮かべるガルカさん。
「頼りにされるってのも、良し悪しってモンだぜ」
うん? この流れは……。
「おい! 随分と勇ましいこと言ってるみたいだが」
流石『地獄耳』トーマスさん。この喧騒の中から自分の悪口を的確に聞き分けてる。その技術、わたしも欲しいナァ。
「なんでも良いから仕事をくれって頭をカウンターに擦りつけて来たのは、そもそもオメェだろうが! 気が乗らないってのなら、今からでも他の連中に割り振り直すぞ!」
うん、やっぱりそんな所かぁ……あまり街から離れたがらないガルカさんが、敢えて隊商の護衛だなんてなぁんか変だとは思ってた。
「あ、テメェ。それは秘密にしておくところだろ! 少しは人の顔を立ててくれてもいいだろうが!」
顔を白黒させながら抗議するガルカさん。対するトーマスさんの方はどこ吹く風だ。
「いっちょ前の顔したければ、酒場のツケを全額払いきってからにしろってんだ」
探索者の収入なんてその日次第だから、酒場スペースに関してはツケ払いが出来たりする。特に上限が決まっているワケではないけれど、あまり溜め込めば当然断られることになるから要注意。
「ぬぐぐぐぐ……」
まぁ、ガルカさんの稼ぎで言えばツケなんかとっくに返し終わってても不思議はないのだけど……この人、とある未亡人さんがやっている道具屋に有り金落としまくってるってのは有名な話。
色々と噂は立っているけど、個人的には微笑ましいなぁと思うぐらい。
「ほぉ! キチンと仕事もしておったのだな。感心感心!」
トーマスさんの言葉に、アイカさんが笑いながらガルカさんの肩を更に強くバンバン叩く。
「新人絡みも程々にし、勤労に励むが良いぞ!」
「……勘弁してくれよ」
ガルカさんが天井を仰いだ。
「あんな大声で無茶言ってる奴がいれば、一言言ってやるのが先輩の義務ってモンだろう?」
まったくもっておっしゃるとおり。
新人探索者が、いきなり高ランクから始めさせろなんて騒いでいたら、そりゃ他の探索者の顰蹙を買って当たり前。文句の一つもで言いたくなるワケで。
「ふむ。どちらにせよ余のランクなどいずれ上がるのは確定している故に、彼奴の手間を省いてやろうという親切心であったのだがなぁ」
冗談めいた答えだけど、多分本気なんだろうなぁ……アイカさん。
「その自信だけは、心底羨ましいぜ。こちとら『鉄』までランク上げるまでとてもそんな余裕は無かったからなぁ」
はぁ、とため息を漏らすガルカさん。
「ま、いいさ。という訳で俺はそろそろ帰る。明日からの仕事は、冗談抜きで失敗できないからな」
そう言いながらよっこらせと席から立ち上がる。
「お前らもあまり遅くまで騒いでるんじゃねーぞ」
まったくもっておっしゃるとおり。
明日は明日の仕事があるのだし、こちらもそろそろお暇しないと。
「ハッハッハ! 余はお主らほど軟弱ではないからな!」
ジョッキ片手に更に盛り上がっているアイカさん。
はぁ……。宿に連れ帰るには、ちょっと骨が折れそう……。
* * *
「おぅ、お前らか。丁度良い」
翌日ギルドの建物に入るなり、風通りの良さそうな頭を撫でながらトーマスさんが声を掛けて来た。
「お勧めの仕事があるぞ。報酬も高いし、コイツを終わらせればそこの姉ちゃんもランクアップできるぜ」
ふむ? なんとも美味しい話だけど……わたしは知っている。
トーマスさんがお得な話を振ってくる時は、必ず裏があると。
面倒なが枕言葉についてくるってことを。
「ほぅ?」
アイカさんの眉毛がピンと上がる。
「あと一月ほどは、退屈な仕事をこなす必要があると思っておったのだが」
もちろんそんな事は知らないアイカさんにとっては単純にお得な話にしか聞こえないのだろう。興味津々、めちゃくちゃ食いついている。
……仮に面倒事だと予感しても、あの人なら変わらず食いつきそうな気もするけど。
「ま。この仕事がなければお前さんの言う通りだったがな」
アイカさんの反応に、トーマスさんがニヤリと笑う。
「金も良いが、早々のランクアップは聞き逃がせないだろう?」
「ランクアップも良いが、報酬も高い方が良いに決まっておる」
アイカさんの返事に、トーマスさんはポカンとした表情を浮かべている。
「派手に奢ったり飲み食いしておるせいか、あまり財布事情はよろしく無くてな。儲かるに越したことはない」
「儲かるって……ゴブリンの一件で相当稼いだだろうに」
呆れたようなトーマスさんの口調。
「そりゃ一生遊んで暮らせる程ではないかもしらんが、結構な金額だったろう?」
「アレは全部エリザに預けた! 今の所は仕事で稼いた分しか使っておらぬ!」
正直、自分のお金は自分で管理して欲しい(だって責任重大過ぎる!)のだけど、アイカさんに任せておくとなんだか凄い勢いで使い尽くしそうなのも確か。
とは言え、わたしがそれだけ大量の財産を持って歩くわけにもゆかないので、ギルドの預かりサービスを利用している。
ギルドが潰れでもしない限り預けた物は完全に管理されるけれど、その代わりに月額手数料が凄く高い。
あの安宿においておける物じゃないし、商会の銀行を利用するにはわたしのランクは低すぎる。
普段なら絶対に利用しないけれど、物が物だけにやむをえない。
「そ、そうか。まぁ、お前らの問題だからあまり深くは言わんが……とりあえず、仕事内容自体は簡単だ。単なる畑の捜索だからな」
果てしなく嫌な予感が深まる。
畑探しってもうその響きから探索者の仕事とは思えないし、それでもギルドに仕事として回ってきているということはこれはもうただごとではない。
「畑を探すぅ? 意味のわからん話だな」
すかさずアイカさんのツッコミ。こういう時は実に助かったり。
「もちろん単なる畑じゃねぇ。ちょいと遵法精神のイカれた魔術師の、ちょいと洒落にならんやらかしでな」
トーマスさんの言葉に、わたしは額を抑える。
「そのくそったれ野郎は、よりにもよって街中でマンドラゴラを栽培していたってな。本人はすぐにとっ捕まえたんだが……」
マンドラゴラは魔法にも錬金術にも薬にも重要な物で、そして呪われた森の奥深くでしか見つからないというシロモノだからその価値はとてつもなく高い。
しかも森で自生しているマンドラゴラは極めて危険で、引き抜けばその叫び声を聞いた者全員が死ぬという強力な呪いを持っているのだからとんでもない。
発見難易度が高い上に植生場所も危険。さらには収穫すら命がけとくれば、その価値は天井知らず。
であれば、栽培しちゃおうと考える愚か者が出て来るのも仕方ない。しかも栽培そのものは実に簡単だったりする。
だけど畑育ちなマンドラゴラの持つある特性から、その栽培は厳しく制限――というか禁止されている。
「中々強情な奴でなぁ。全部白状する前に死んじまいやがった」
さらっと黒い事を言われたけど、ここは敢えて聞こえないふり。絶対に関わり合いなんかもちたくないから。
「あと一ヶ所隠し畑があるのは分かってるんだが、肝心の場所がわからねぇ……そして時期的に考えて、そろそろ成長しきっていても不思議はない――あとは分かるな?」
トーマスさんの言いたいことはわかる……わかっちゃう。
「マンドラゴラが、畑を抜け出すんですね」
問題の特性とは、栽培されたマンドラゴラは成長後一定期間内に収穫されなかった場合、自力で地面から抜け出してその辺一体を徘徊しだすということ。しかもご丁寧に叫びながら。
まぁ、所詮は養殖モノなので死に至るほどではないし、ある程度距離があれば頭痛やめまい程度まで弱化するので、天然モノほど危険ではない。果てしなく迷惑ではあるけれど。
「そういうこった……隠し畑を聞き出すのに失敗したのはこちらの落ち度だが、数日内に始末しないと領軍が介入すると言ってきた」
苦々しそうなトーマスさんの表情。
うへぇ。衛士ならまだしも、領軍が出張ってくるのは確かに面倒くさい。
特に騎士隊の連中ときたら、探索者を何かと目の敵にしてて、色々と因縁をつけてくるし。
「アイツラは治安維持には慣れてるかも知らんが、シティ・アドベンチャーは専門外だ。事態の収拾を付けるどころか、余計に拗らせることにしかならんのだがな」
そうそう。
騎士の皆様方が街中でヒントも無く探しものをするノウハウなんて持っている筈もなく。
となれば、やり方は一つしかないワケで……治安面はともかく住民の心情は著しく悪化する未来しか見えない。
どう考えても悪手だとしか思えないけど、偉い人の考えることってホント、わからない。
「ふん……随分と荒っぽい家探しをやりそうだな?」
腕を組んだ格好で、アイカさんが口を挟む。
「多少なりと効果はあるやも知れぬが、あまり賢いやり方とは思えん」
「それでもやるだろうさ。この街の治安を維持しているのは誰なのかをアピールするのに絶好のチャンスだからな――少なくとも連中はそう信じている」
どこか投げやりなトーマスさん。
「……ふむ。実にわかりやすい浅知恵よ。ここの領主は算盤を弾き過ぎて、現実というモノを些か失念しておるようだな」
クックックッと笑うアイカさん。
「まぁ、よい。どちらにせよお主らの問題であって余がどうこう口を挟むことでもないであろう。余らにとっては単なる仕事に過ぎぬ故に、気楽にやらせてもらうがな」
「違いねぇ」
トーマスさんがガハハハと笑う。
「上の連中は、面倒事を解決する為に高い報酬を貰ってるんだ。あのへんた――マスターには精々苦労してもらおうぜ」
* * *
ギルドの片隅にある談話用テーブル。そこでわたしは必要な道具を揃えて頭を捻っていた。
正直な話、マンドラゴラ畑の位置なんて容易に絞り込むことはできる。
ちょっとした情報収集と、数枚の地図。それだけの簡単なお仕事。
簡単なお仕事なんだけど……。
「ひーまーだーぞー」
わたしの机の横で、行儀悪くゴロゴロしているアイカさん。
「仕事を受けたのなら、すぐに行ってパパっと済ませようではないか!」
言いたいことはわかるんだけど、今回の仕事はそう簡単には行かない。
「済ませるのは良いですけど、前準備が必要なんです。色々と」
手伝ってもらいたい気持ちはあるものの、土地勘も無いであろうアイカさんに頼めることもない。
「とりあえずわたしは手が離せないので、そうですね……夕飯用に釣り場で大物でも釣ってきてください」
「よし! まかせておけ!!」
わたしの言葉が終るや否や、そう言い残すと止める間もなくアイカさんは部屋から飛び出して行った。
「え? あ、いや。ちょっと??」
言葉のあやというか、単なる冗談だったのにまさか本当に飛び出してゆくなんて……あー、うん。アイカさんにはうっかり冗談も言えない。
とは言え、わたしが忙しいのも事実だから、この件は取り敢えず置いといて作業を続けよう。
「さて……」
マンドラゴラを栽培するには大量の魔力が必要で、そのぶんだけ魔力結晶が必要だ。
高濃度の魔力結晶は簡単に手に入る物ではないし、自分で確保するには手間がかかり過ぎる上に確実性もない。
となれば、どうするか?
一番確実なのは低レベル魔力結晶を大量に用意することだけど、いくらなんでも悪目立ち過ぎる。
魔力結晶は重要な資源であると同時に危険物だから、低レベルの物でも買い集めなんかすれば嫌でも衛士や警士の注意を引くことになっちゃう。
あるいは地下マーケットで中レベル魔力結晶を買い集めても良いけど、これまた確実性に難があって難しい。
じゃぁ、どうする?
話は簡単。
その全てを行えば良い。
暇を見ては自分で魔力結晶を採取し、地下マーケットで集められるだけの結晶を買い集め、足りない分を街で買えばオッケー。
手間こそ掛かるけど、これで十分以上の魔力結晶を確保することが出来るって寸法。
ここまでくれば話は簡単。
「トーマスさ~ん。ちょっと教えて欲しいんだけど」
テーブルから離れ、カウンターにいるトーマスさんに話しかけた。
「なんだ? 特売セールの情報か?」
くっそぉ。いきなり魅力的な話をぶつけてくるなんて。流石はトーマスさんね。
「それはそれで後から聞かせてもらうけど、今は違うの。ちょっと商会の取り扱い商品についてね」
未練は残るけど、取り敢えず今は仕事優先。
「魔力結晶を中心に扱っている店の位置を知りたいの」
色々と利用価値のある魔力結晶だけど、販売できるのは許可された業者だけ。その店の位置をトーマスさんに確認する。
わたし自身はギルドでしか魔力結晶を買わないので、他の店のことはちょっと疎いのだった。
「しかし、そんなことを聞いてどうするんだ?」
一通り答えた後、トーマスさんが不思議そうに聞いてくる。
「まずは取っ掛かりから、ですかね」
なんとなく答えをぼやかしておく。別に隠し事をしたいワケではないけれど、確証の無いことを口にする気にはなれない。
テーブル戻って聞いた店の位置を地図上でマークする。
「これで半分、と」
次に必要なのは地下マーケットの情報だけど……こればかりはギルドでは手に入らない。
なぜならギルドは表立って裏側と接触することは出来ないから。
そもそもツテがないという話はもとより、これだけ大きな組織が裏社会に関わっているということになれば色々と面倒な問題になるのは、わたしでも簡単に想像できる。
でもちょっとした知り合いのいる探索者――つまりわたしが、あくまでも自分の仕事で裏の住人と接触する分にはギルドは無関係。事実はともかく、少なくともそう言い張ることはできる訳で。
あれ? これってわたし一人が貧乏クジ引いてるってことなんじゃ――いやいや。考えないようにしよう。
「あー。もう!」
事情があるとはいえこういう裏仕事こそギルドガードの仕事なんじゃないかと思うけれど、ブラニット氏をはじめとして探索者としては優秀でも交渉事はあまり得意じゃない人が多い。
まぁ、ギルドガードの仕事の中に探索者救助がある以上それも仕方ないけれど。
そもそも大抵の交渉はへんた――ギルドマスターが行えば解決するのだし。
「ホント、面倒な話よねぇ……」
この手の仕事は、報酬も良いしギルドへの受けも良い。ギルドからの仕事べったりで暮らしているわたしとしてはある意味ありがたい話ではあるのだけど、同時にとてつもなく面倒臭い話でもあるのだった。
「まずは行ってみないと始まらないか……」
話をすることそのものは難しくない。こちらから出向いて、街の裏側を仕切っている顔役にそれなりの『献金』をすればいいだけ。
以前の仕事でちょっとしたツテもあるし、後は相手の顔を潰さないように気をつけるだけ。
それにしてもまさか交渉スキルがこんなことにも効果あるとは……なんでもやってみるモノね。
「とはいえ、あんまり顔をだしたい所じゃないんだけどね」
好き好んで関わり合いを持ちたいとは思わないんだけど、ギルドが当てにならないからには自分でなんとかするしかない。
軽くため息を漏らしてから、わたしは目的の場所へと向かった。
「ここは子供の遊び場じゃねぇんだぜ」
わたしが彼らの店まで出向いて顔役と面会した時、最初に返って来た返事はコレだった。
「以前世話になったから顔は出してやったが、お前らと馴れ合ってるように思われてはこちらとしても迷惑なんだよ」
ふぅーっと手にした葉巻を大きく吸い込み、吐き出す。
「仕事の話なら別に構わないでしょ」
顔役に対し、わたしは敢えてぶっきらぼうな口調で答える。
「ちょっと聞きたい事があってね……ここ数ヶ月ぐらいで、魔力結晶を買い集めてた魔術師がいたと思うのだけど」
裏の住人は舐められたら終わりなんて言うけれど、それは探索者も同じ。虚勢でもいいから強気で出る必要がある。
こういう時、アイカさんがいれば助か――あぁ、いや。話がややこしくなるだけか。
「はぁ? おめぇ……そんなこと聞かれて、ハイどうぞと教えられると思ってるのか?」
当たり前だけど簡単には教えてくれない。そりゃ、そんな事をポンポン教えたのでは、表でも裏でも商売になるワケがないし。
「ま、無理でしょうね」
「分かってるならさっさと帰りな。前の件もあるし、今回は黙って見逃してやる」
だからといって、ここで言われるままに帰ったのではこっちも仕事にならないのだ。
「代金なら払うわよ」
言いながら腰のポーチから金板一枚を取り出し、テーブルの上に置く。
「地下マーケットで買えない物なんて無いでしょ」
それを見た顔役の表情がすっと変わり、今までの高圧的な態度が消える。
「なるほど、からかいに来たってワケじゃないことはわかった。だが、こっちも商売上の信用ってモンがある。そこはわかるな?」
まったくもって白々しい……ともかく飴は与えた。次は鞭をくれてやる番。
「アナタの大事なお客様は、ご禁制のマンドラゴラ栽培に手を出して捕まった。しかも数日内には後始末の為に領軍が動き出す」
事実だけを淡々と伝える。
「それは、きっとアナタ達にはあまり愉快な結果にならないと思うのだけど」
「チッ……あの糞野郎」
わたしの言葉に、顔役は葉巻を乱暴に灰皿へとねじ込んだ。
「あんな貴重品、どこから手に入れやがったと思っていたが……ここ暫く領主の周囲が騒がしかったのもそのせいか」
どうやら例の魔術師は魔力結晶を買うだけではなく、栽培したマンドラゴラを売却していたみたい。
更に罪状が積み上がってしまったけど――まぁ、今更ね。
「つまりこっちは被害者ってワケだ。そしてこの金は――」
顔役の言葉に、わたしは軽く頷く。
「お見舞金、ということで。そして情報料は別に支払うわ」
更にもう一枚の金板をテーブルの上に乗せた。
「タダで顔役の手をわずらわせるつもりは無いわよ」
くーっ……勿体ない。あの金板は、例のゴブリン騒動の時に報奨として貰った物の一部。
必要経費ではあるのだけど、長年の貧乏生活が板についたのか身銭切るのは……つらい!
「クックックッ……相変わらず話せる姉ちゃんだなぁ、エターナルカッパー」
一方顔役の方はホクホク顔だ。なにしろ金板一枚は上に上納金として収めても、もう一枚は自分の懐に入るのだ。そりゃ愛想も良くなるってもの。
「いいだろう。そのクソッタレと取引した店は教えてやる。だが、そいつの活動拠点までは知らねぇぞ」
「それだけ教えて貰えればいいわ」
予定通り顔役が口を開き、メモに走り書きをする。
「いいか、俺達はマンドラゴラ栽培なんか知らねぇ。だが同じ街の住人としてギルドに協力してやっている。そこんところをよろしく頼むぜ」
「オーケー。協力に感謝するわ」
「ふん。困った時はお互い様、だろ」
メモを受け取りわたしは席を後にする。
とんだ茶番。全てが最初から予定調和の元で動いている。
向こうは情報なんて最初から渡して構わないのだけど、そうするしかなかったという形を装う必要がある――ただそれだけの話なのだ。
「はぁー……疲れた」
裏通りから大通りに戻り、大きく背伸びをする。
(そう言えば)
これだけ長い時間、アイカさんと別行動したのは初めてかもしれない。一体、どこでなにをやっているのやら。
ま。そのうち帰ってくるでしょ。
別に寂しいワケじゃないですよ? いや、本当に。
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目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
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