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第三章 過去に蠢くもの
第二話 勇者の矜持#0
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この世界には、主に四種の高度文明を有する種族が存在する。
一つは人族。
もう一つは魔族。
エルフやドワーフ・獣人といった少数種族をまとめた幻種族。
そして、オーク族。
オーク族の成り立ちはそのほとんどが神秘のベールに包まれており、どのように誕生し、発展を遂げ、文化を築き上げたのかその全てが謎である。
そして最大の神秘が、西方連山の奥深くにあるオークの王国『ザラニド』の存在だ。
極めて閉鎖的なその国は『存在する』ということだけは知られているが、内情は全く不明である。
人族に対しても魔族に対しても完全な鎖国体制を敷いており、一切干渉することはない。
人族と魔族が戦争を繰り広げている間も不干渉を貫き、故意であれ偶然であれ『ザラニド』近隣に踏み込んだ者は例外なく排除してきた。
人族は激しい不快感を示したもののオーク族は極めて強力な種族であり、魔族との戦争も順調に進んではいなかったため具体的な対応は何もできなかった。
ちなみに魔族の方は特になんの反応も示さなかったが、腕試しとばかりにオークの領域へとちょっかいを掛ける者があとを絶たず、当時の魔王は人族相手よりも厳重な警戒網を作る必要があったという。
なお、この鎖国体制は幻種族に対しても厳格に適用されていたと記録されている。
人族は『ザラニド』と接触しようとし、外交努力を続けた。
オークが強力な種族であることは数度の小競り合いから広く知られており、助けを借りることができれば大きな力となるとわかっていた。
しかし『王国』と『騎士団』は魔族との戦争に全力を注いでいる最中であり、とても手が足りないため交渉は主に教会の聖職者達に委ねられることになる。
『王国』は教会組織の善性はともかく交渉力は評価していたし、『騎士団』は当たり前のように盲信していた。
なにもかもこちらの都合よく進むワケがないにしても、ある程度は譲歩を引き出せるだろうと考えていた。
しかしその交渉の全てが、全くの徒労に終わることとなる。
当然、だとしか言いようがない。
偉大なる教会様が、オーク族に提示した『人族と同盟を結ぶ』見返りが、『恐れ多くも偉大なる神々への信仰をオーク族にも認め、教会や聖堂の建造を認める』というものだけなのだから正気ではない。
しかもそれが、自分達が授けた最大の栄光だと心底信じていたというのだから、当時の教会がどれだけ栄華を極め驕り傍若無人に振る舞っていたのか。少なくとも今の見る影もない教会組織と同一のものとは信じられないほどだ。
もちろん、その大変にありがたい申し出は拒絶されるどころかきれいさっぱりと無視され、以後は交渉を行うことすら拒絶される有様に。
この後始末は後々まで王国に深い傷を残し、騎士団では政変とでも呼べるレベルのお家騒動が発生することとなる。
これを機に教会は王国内での影響力を著しく失い、忠実な下僕であったはずの騎士団からすら距離を置かれることとなる。
結果没落の危機に怯えた教会は、失点を挽回すべく魔族に対して更に強硬な手段を主張するようになり、権力者どころか一般民の人心すら失うことになるのだが。
『ザラニド』に関しては徹底して他種族を排除するオーク族であったが、その逆に関しては驚くほど緩い。
つまり自分たちの領域へと他種族が足を踏み入ることは許さないが、オーク族が他種族の領域へと出かけることには一切の制限が掛かっていなかった。
そのため数は少ないものの、人族や魔族の領域内でもオークを見かけることがある。
大半は商人とその護衛であり、国家として人族と交流を持つつもりはなくとも、交易相手として付き合うのは問題ないということなのだろう。
商隊が行き来すれば、当然それを狙う不届き者もいる。オーク族は規律に厳しい種族であるが、それでもはみ出し者は存在した。
主に商隊を狙い、時には辺境の村を襲うならず者のオーク達。
幾度となく護衛や衛士との衝突が発生し、人もオークも少なからぬ被害を出している。
だがこの件に関して『ザラニド』はまったく関与しようとはしなかった。
オークのならず者を取り締まることもせず完全に放置し、人族からの申し入れも完全に黙殺していた。
逆に人族が捕らえたオークのならず者を極刑に処しても放置。引き渡し要請すらなく、完全に人族のやり方に任せていた。
『ザラニド』はいかなる形でも人族との関わり合いを持つ気はないし、そのためなら同族すら見捨てる。
それがオーク達の、『ザラニド』の揺るがぬ方針であった。
そう……今までは。
一つは人族。
もう一つは魔族。
エルフやドワーフ・獣人といった少数種族をまとめた幻種族。
そして、オーク族。
オーク族の成り立ちはそのほとんどが神秘のベールに包まれており、どのように誕生し、発展を遂げ、文化を築き上げたのかその全てが謎である。
そして最大の神秘が、西方連山の奥深くにあるオークの王国『ザラニド』の存在だ。
極めて閉鎖的なその国は『存在する』ということだけは知られているが、内情は全く不明である。
人族に対しても魔族に対しても完全な鎖国体制を敷いており、一切干渉することはない。
人族と魔族が戦争を繰り広げている間も不干渉を貫き、故意であれ偶然であれ『ザラニド』近隣に踏み込んだ者は例外なく排除してきた。
人族は激しい不快感を示したもののオーク族は極めて強力な種族であり、魔族との戦争も順調に進んではいなかったため具体的な対応は何もできなかった。
ちなみに魔族の方は特になんの反応も示さなかったが、腕試しとばかりにオークの領域へとちょっかいを掛ける者があとを絶たず、当時の魔王は人族相手よりも厳重な警戒網を作る必要があったという。
なお、この鎖国体制は幻種族に対しても厳格に適用されていたと記録されている。
人族は『ザラニド』と接触しようとし、外交努力を続けた。
オークが強力な種族であることは数度の小競り合いから広く知られており、助けを借りることができれば大きな力となるとわかっていた。
しかし『王国』と『騎士団』は魔族との戦争に全力を注いでいる最中であり、とても手が足りないため交渉は主に教会の聖職者達に委ねられることになる。
『王国』は教会組織の善性はともかく交渉力は評価していたし、『騎士団』は当たり前のように盲信していた。
なにもかもこちらの都合よく進むワケがないにしても、ある程度は譲歩を引き出せるだろうと考えていた。
しかしその交渉の全てが、全くの徒労に終わることとなる。
当然、だとしか言いようがない。
偉大なる教会様が、オーク族に提示した『人族と同盟を結ぶ』見返りが、『恐れ多くも偉大なる神々への信仰をオーク族にも認め、教会や聖堂の建造を認める』というものだけなのだから正気ではない。
しかもそれが、自分達が授けた最大の栄光だと心底信じていたというのだから、当時の教会がどれだけ栄華を極め驕り傍若無人に振る舞っていたのか。少なくとも今の見る影もない教会組織と同一のものとは信じられないほどだ。
もちろん、その大変にありがたい申し出は拒絶されるどころかきれいさっぱりと無視され、以後は交渉を行うことすら拒絶される有様に。
この後始末は後々まで王国に深い傷を残し、騎士団では政変とでも呼べるレベルのお家騒動が発生することとなる。
これを機に教会は王国内での影響力を著しく失い、忠実な下僕であったはずの騎士団からすら距離を置かれることとなる。
結果没落の危機に怯えた教会は、失点を挽回すべく魔族に対して更に強硬な手段を主張するようになり、権力者どころか一般民の人心すら失うことになるのだが。
『ザラニド』に関しては徹底して他種族を排除するオーク族であったが、その逆に関しては驚くほど緩い。
つまり自分たちの領域へと他種族が足を踏み入ることは許さないが、オーク族が他種族の領域へと出かけることには一切の制限が掛かっていなかった。
そのため数は少ないものの、人族や魔族の領域内でもオークを見かけることがある。
大半は商人とその護衛であり、国家として人族と交流を持つつもりはなくとも、交易相手として付き合うのは問題ないということなのだろう。
商隊が行き来すれば、当然それを狙う不届き者もいる。オーク族は規律に厳しい種族であるが、それでもはみ出し者は存在した。
主に商隊を狙い、時には辺境の村を襲うならず者のオーク達。
幾度となく護衛や衛士との衝突が発生し、人もオークも少なからぬ被害を出している。
だがこの件に関して『ザラニド』はまったく関与しようとはしなかった。
オークのならず者を取り締まることもせず完全に放置し、人族からの申し入れも完全に黙殺していた。
逆に人族が捕らえたオークのならず者を極刑に処しても放置。引き渡し要請すらなく、完全に人族のやり方に任せていた。
『ザラニド』はいかなる形でも人族との関わり合いを持つ気はないし、そのためなら同族すら見捨てる。
それがオーク達の、『ザラニド』の揺るがぬ方針であった。
そう……今までは。
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