恋みくじ

sakaki

文字の大きさ
3 / 5

五月病~恋みくじ3~

しおりを挟む
まったく、いつまで経っても見慣れない。
窓際でいつもとのメンバーと楽しそうに話している加藤高明(かとう たかあき)を見て俺は密かに溜め息をついた。
加藤のトレードマークだった赤い髪は、今は見る影もなく真っ黒だ。それがどうにも見慣れない。
ゴールデンウィーク明けに突如黒髪へと変貌していた加藤に、初めは周りの面々もひどく驚愕していたものだ。推薦入試でも受ける準備なんじゃないかとか、連休中に補導でもされたんじゃないかとか、色んな憶測も飛び交っていたけど、どれも違うことを俺は知ってる。

だって、あれは俺のせいなのだ。
・・・話はゴールデンウィーク前に遡る。


俺、大崎広武(おおさき ひろむ)は、弱みを握られたあの冬休み明けから現在に至るまで、加藤と付き合っているフリを続けさせられていた。もしかして加藤に付きまとっているらしい3年の女子生徒が卒業するまでずっとこの調子なんだろうかと思うと・・・・すげぇ嫌だ。
付き合っていることを周りにアピールするんだといって、学校にいる間は何かと加藤が構ってくる。これまではクラスの中でも地味なグループに所属してひっそりと暮らして来た俺にとっては、加藤達のグループに加わることは肌に合わないことこの上ない訳で、結構な精神的疲労を被っている。
だから連休はリフレッシュできる良い機会だったのだが・・・
「なぁ大崎、お前はゴールデンウィークどっか行ったりすんの?」
この日もまた加藤のグループに強制的に混じらされて弁当を食べている時、不意に加藤が予定を尋ねてきた。
「別にどこも行かない。連休だと雀の涙ほどでも参拝客増えるかもしれないから家族旅行とかもないし」
休みは家でゲームでもしながら寛ぐ。通年そんなもんだからと深く考えずに答えたら、加藤はニヤリと笑ってとんでもないことを言った。
「じゃあ俺遊びに行っていー? ヒマだし」
「は? いいわけないだろ」
俺は即座に断固拒否。そんなの絶対に御免だ。
「お前みたいな派手な頭でピアスじゃらじゃらつけまくったヤツなんかが友達だって言って来たらうちの親卒倒するわ。無理無理無理、ホント無理」
加藤を睨み、箸でその髪や耳を差し示す。鼻息荒く一気に捲し立てると、流石に加藤も言葉を失い、他の面子も苦笑いしていた。

そしてそんな話をした3日後、ゴールデンウィーク初日のことだった。
「広武くん、お友達が来てるよ~」
連休でもやはり暇そうな父親が俺の部屋をノックした。
誰とも何の約束もしていなかった俺の脳裏に咄嗟に過ったのは赤い頭のあの男で、思わず青ざめながら扉に駆け寄った。
ドアを開けると、親父の後ろに立っていたのは案の定加藤で、あれほど来るなと言ったのに!と文句を言おうとしたけど、実際は何の言葉も出なかった。
「じゃあゆっくりして行ってね~」
父親が上機嫌に言い残して去って行く。卒倒するどころか大歓迎という様子だ。
そこに立っていた加藤は髪を真っ黒に染め、ピアスなんて一つもつけず、服装だっていつもよりずっと大人しい、一目見て“真面目そう”という印象を与える風貌だった。
「おま・・・なん・・・な・・・」
お前その髪どうしたんだよ、なんでそんな恰好してんだよ、ってか、何しに来たんだよ。そう聞きたいんだが、如何せん口が上手く動かない。ビックリし過ぎて腰が抜けそうなくらいだ。
「大崎クンと宿題でも一緒にやろうかと思って。お前んちに来るドレスコードはこんなもんでいいんだろ?」
真っ黒になった髪をつまみながら、加藤がニヤリと笑う。その表情だけは、いつもの加藤そのまんまだった。

それから、ゴールデンウィークの期間中、加藤は毎日やって来た。
バイトがあるからと言ってすぐに帰る日もあったけど、毎日欠かさず来ては宿題をしたりゲームをしたり漫画を読んだり、俺の部屋で他愛もない時間を過ごした。
学校にいる時とは違ってからかうような態度もなく、悪ノリしてちょっかいをかけてくることもない。ただ一緒にいて、話をして、同じ時間を共にした。
それはまるで普通の仲の良い友達同士のようで、俺の方はすごく落ち着かなかった。
弱みを握られてなければ、加藤に付き合っているフリをしろなどという妙な命令を突き付けられてなければ、俺は加藤と関わることすらなかったはずだ。
こんなにタイプが違ってて、寧ろ苦手な部類だっていうのに・・・・加藤とこんな風に過ごすことになるなんて思ってもみなかった。
いつものように人の悪い笑みを浮かべて軽薄な態度を取る加藤のことは大嫌いだ。けど、こうして周りに見せびらかす必要もなく、自然体で過ごすのは・・・不思議と、嫌じゃない。
加藤はどうして、わざわざ髪を染めてまでうちに来たんだろう?
付き合っているフリをする必要のない休みの日にまで、どうして俺と一緒にいたんだろう?


壁に凭れていた加藤と不意に目が合う。見つめていたことに気付かれてしまった。俺は慌てて俯いた。
加藤はそれまで会話の盛り上がっていた人垣をかき分け、教室の端の席・・・つまりは俺の席に向かって歩いてくる。
「大崎、今日もお前んち行って良い? 」
自然な仕草で俺の髪に触れながら問いかける。勿論これも周りに見せつけるために違いないんだけど、少しだけドキドキしてしまった。連休が終わったあたりから、俺は何だか変なんだ。
「な、何しにくんだよ・・・?」
動揺していることを悟られまいと、加藤を睨みつけてみる。
「英語のよしゅー。大崎苦手だろ? 俺と一緒にやった方が捗るって。その代わり数学は大崎頼みだけど」
頬杖をついて俺の顔を覗き込むようにしながら加藤が答える。そうしながらもまだ片方の手で俺の髪を擽るように撫でているから、俺のドキドキは治まってくれない。
加藤の取り巻きが茶化すような声をかけてきたおかげでようやく少し冷静になったくらいだ。
「んじゃ、放課後な。大崎ちゃん」
加藤が離れて行くのを、俺はまた目で追いかける。赤毛の時よりずっと目立たなくなっているはずなのに、目の前の景色の中で俺には加藤だけが際立って見えるのだ。たぶん、加藤が何処に居ても見つけられるんじゃないかって気すらする。
やっぱり俺は変だ。これじゃまるで・・・・

いや、そんなはずない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おいしいお菓子

すずかけあおい
BL
紳士だけど変な攻め×世話焼き受け。 近所の変わり者の男性と話していたらなんでかよくわからないけれど部屋に誘われ、なんでかよくわからないけれど男性の部屋を片づけて、なんでかよくわからないけれど好意を持たれた。 〔攻め〕小桧山 硯 〔受け〕岡戸 理矢

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...