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sakaki

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今日から新学期。
長い夏休みにすっかり寝惚けた頭は、退屈な始業式にはとてもじゃないが堪えきれない。
校長の長話などは特に、この世で一番いらないものの一つだろう。

眠たそうな生徒たちの横顔を見やりつつ、国語教諭:御剣咲夜(みつるぎ さくや)もまた、堪えきれず大きな欠伸を漏らしたところだ。
隣りに立っていた同僚に怪訝な顔をされてしまったのを笑って誤魔化し、改めて壇上に目をやる。
今学期から新任となる教師たちの紹介が始まっていた。

割と有名な名門校であるこの帝城高校には、生徒にせよ教師にせよ事務員にせよ、滅多に外部からの中途編入はない。
能力なり外見なりで、絶対的権力者である理事長先生に余程気に入られるくらいしか方法はないだろう。
この学校運営はあの女王様の道楽のようなもの・・・咲夜はいつもそう思っていた。
なぜ自分の雇い主をそこまで言い切れるのかと言えば、理事長が咲夜の実姉だからだったりする。

一体今度はどんな教師が女王様のお眼鏡に適ったのか、咲夜は楽しみに思いながら値踏みするように壇上に立つ人物を見つめた。
本来ならば生徒たちよりも一足先に朝礼で紹介されているはずなのだが、咲夜は未だお目にかかっていない。
何せ遅刻ギリギリで登校し、始業式にようやく間に合ったような状況だったのだから。

自己紹介をしている新任教師の麗しい容姿に、生徒たちは早くも色めき立っているようだ。
だが咲夜はと言えば、新任教師の姿を見るなり、その名前を聞くなり、呆然とした。
(・・・ウソだろ・・)
見覚えがある・・・どころではない。
忘れもしなかった。3年ぶりのその顔、その声。
(ミコ・・・)
掌にじっとりと汗が滲む。
過去の記憶がフラッシュバックし、途端に頭の中は真っ白になっていた。

その新任教師・・・養護教諭:綾華美琴(あやか みこと)は咲夜の幼馴染の甥にあたる人物で、高校・大学の後輩でもある。
3年前に美琴が海外留学をするまでの間は親しい友人関係にあった。
だが、この3年間は一度たりとも会っていないどころか、連絡も取っていない。
帰国していることすら、全く知らなかったのだ。まして突然同僚になるなど、想像できたはずがない。



始業式も終わり、担任を務めるクラスのHRも終えた咲夜は、自室代わりの国語教諭室にいた。
苛立ちながら煙草を吹かし、スマートフォンの画面を睨む。
「お前知ってたんだろ? 教えとけよ!」
スカイプで通話している相手は幼馴染であり美琴の叔父である杉崎藤乃(すぎさき とうの)だ。
画面に表示されているその姿は実に美しい女性だが、彼は列記とした叔父、男性だ。
藤乃は不機嫌そうな咲夜の顔を見ると、楽しそうに笑った。
『サプライズよ、サプラ~イズ。その様子じゃかなり驚いたみたいね』
完全なる確信犯・・・咲夜はがっくりと項垂れた。

『で、どうだったのよ? 感動の再会は。』
心底面白がっているような口調で尋ねてくる。
咲夜はまた一つため息を漏らした。
「ご期待通り、顔色一つ変えずに“は・じ・め・ま・し・て”っつわれたよ。“御剣先生”ってな」
苦々しく言ってのける。
藤乃はまた声を上げて笑った。一体何がそんなに楽しいというのか・・・。
『ま~た・・・素直じゃないわね~、ミコちゃんも』
「ある意味素直だろーよ・・・」
藤乃に反して咲夜はさらに肩を落とした。

藤乃の言うような“感動の再会”のはずがない。
美琴にとって咲夜は、きっと最も会いたくなかった相手に違いないのだから。

『咲夜も素直に“会いたかったぜ、美琴!”って抱きしめてあげればよかったじゃないの』
藤乃の軽口はさらに続く。わざわざ声色を変えての熱弁だ。
「ンなことできるか!!」
煙草を灰皿に押し付け、青筋を立てて怒鳴る。
藤乃は腹を抱えて笑った。
『んじゃ、アタシはそろそろお仕事だから。その切ない想いの丈は帰国してからゆっくり聞いてあげるわよ』
楽しげに手を振って通話は終了・・・。最後まで藤乃のペースだった。
藤乃は今欧州にいる。仕事だとは言っているが、大半の目的はバカンスだろう。
全くいいご身分だと、咲夜はスマートフォンを乱暴に遠ざけた。
「“会いたかった”なんて、言う資格ねぇって・・・」
誰に当てるともなしに、ため息とともに呟く。
2本目の煙草に手を伸ばしつつ、咲夜は提出された宿題のチェックに取り掛かった。


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