silvery saga

sakaki

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四話前編

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***

太陽照り付ける灼熱の砂漠。足を進める度に砂に捉われ、一歩一歩と歩み進めるだけでも重労働だ。加えてジリジリと陽に焼かれれば、止めどなく汗は流れて益々体力は奪われていた。
「暑ぃーーーーーーっ!!!」
ギラギラと輝く太陽に向かってリギィが叫ぶ。犬が対応調節をするためにそうするように、舌を出して短く呼吸を繰り返した。
「分かり切ってることを改めて言うんじゃねーよ、ガキ」
汗だくの髪をグシャグシャとかき上げながらブラムが苦々しく言い捨てる。
あまりの暑さで火を使うのが嫌なようで、彼にしては珍しくタバコを吸うのも控えている。その所為で余計にイライラしてしまっているような気もするが、怒られそうなのでツッコまない。
「リギィはお耳さんがふわふわだから体感温度が高いのかもしれませんね」
タオルで汗を拭っていたユアンが微笑む。
いつもは何があっても涼しい顔をしているが、流石にこの暑さでは少しぐったりしているように見える。
うなじに滴る汗が妙に色っぽくて、リギィの体感温度とやらは更に上がった。
「ニヤニヤして見てんじゃねーよ」
「痛ってぇ!」
ブラムに尻尾を引っ張り上げられ、リギィの目に涙が滲む。
一緒に旅を始めてもうしばらくになるが、この男のユアンに対する独占欲の強さというか過保護っぷりは一向に変わらない。むしろ増幅の一途を辿っているように思える。無頓着すぎるユアンなのでこのくらいが丁度良いのかもしれないが。
「なぁ、ホントにこの先に街なんかあるのかよ?」
恨みがましくブラムを見上げ、リギィが尋ねる。
「酒場で仕入れた情報だ、間違いねぇよ。この先のライラックって街にトイパル座がいるはずだ」
ブラムは片眉を上げて憮然と言い放った。一行の目指す次なる目的地は砂の街ライラック。ブラムがいつもの如く酒場での情報収集にて入手した情報によると、この街に名の知れた巡業一座であるトイパル座が逗留中だというのだ。トイパル座の一員には随分と芸達者な虎がいるらしい。
「ま、だたの虎かもしれねぇけどな。確かめる価値はあるだろ」
聊か乱暴な手つきでブラムがリギィの頭を撫でる。
「お兄さんだといいですね」
「うん!」
ユアンにも優しく微笑まれ、リギィは大きく頷いて見せた。
そう、トイパル座を見に出向くのは何も単なる観光目的ではない。
この旅の今のところの唯一明確な目的である、リギィの双子の兄捜しのためなのだ。獣人族も虎もこの辺りでは非常に珍しい。だからこそ、当てなく探すよりも地道に情報収集をするべきなのだとブラムが言っていた。その成果がトイパル座というわけだ。
「なぁなぁ、このまま歩き続けたら死んじゃうよ~。ちょっとくらい休もうよ~」
束の間辿り着いたオアシスでの水分補給中、リギィはへたり込んで弱音を吐いた。
「甘ったれんな」
「いてっ」
眉を顰めたブラムに尻を蹴られ、リギィは思わず前のめりに転んだ。
「ここで無駄な時間食っちまったら最悪砂漠で野宿すんだぞ? 冗談じゃねぇっての」
砂漠の夜は急激に冷える。ただでさえ不慣れなこの環境で十分な備えもなしに野宿をするのは避けるべきなのだと、真っ向からの正論で責められた。
「そうだけどさぁ」
言い返せず、リギィは口先を尖らせる。ブラムの言い分は勿論分かる。分かるのだが、ここを離れれば、街に着くまでのしばらくの間はまた先ほどまでのような日干しにされるような思いをする羽目になるのだ。
出来れば少しでも長く、このひんやりとした感触の緑の芝部と冷たい水の湧き出る泉を堪能していたいと思うのは至極当然のことではないだろうか。
「流石に・・・少し疲れましたね」
ユアンがポツリと言う。そしてリギィの傍らに腰かけ、ふうと溜息を付いた。
「よし、休憩してから行くか」
ブラムがパンッと手を叩き、そんな提案をする。先ほどまでとはものの見事に意見を翻している。
リギィの懇願よりもユアンの一言。その威力の違いは明らからしい。
「なんか腑に落ちねーの」
不満あらわにブーイングしてみる。ブラムには額を弾かれ、ユアンにはくすくすと笑われた。

***
まだ暫く続く予定の道すがらに備え、ブラムとユアンは水筒に泉の水を汲んでいた。リギィはと言えば、呑気なことにも虎の姿になって隣の小さい方の泉で水浴びをしているようだ。
「本当にきれいな水ですね」
真透明な水を手に掬い、ユアンが感心したように呟く。
「オアシスとしてはかなり小規模だけどな。遠くから見えたときは蜃気楼かと思ったぜ」
ブラムは冗談交じりで言いながら、本日一本目となる煙草を取り出した。
水分補給も勿論重要だが、ブラムに取っての休憩はやはりこの一服だ。体中にニコチンが染み渡るような心地に満足しながら、煙とともに溜息を吐き出した。
「どうせならデカい河川でもあれば、俺らもリギィみたいに涼めたのにな」
生き生きとして犬かきをしているリギィを見ながら言うと、ユアンも笑いながら頷いた。
「確かに気持ちよさそうですね」
「まぁ俺たちはこれで我慢だな」
ブラムは冷たい水で濡らしたタオルをギュッと絞り、ユアンの首筋に当てた。
「ん・・気持ち良い」
ユアンは反射的にぴくんと身を震わせた後で蕩けるような笑みを浮かべる。思い掛けず色っぽい表情を見せられ、ブラムは煙草の灰を落としそうになった。
「ブラムはライラックという街には行ったことがあるんですか?」
ルート確認をすべく地図を広げたブラムにユアンが尋ねる。
「遠征で一度な」
ブラムは頷き、既に古ぼけている騎士時代の記憶を辿った。
「結構デカい街だったはずだぜ。色んな見世物もあるし、観光都市って感じだな」
端的に説明をすると、ユアンは感心したように頷く。こういう時の好奇心に満ちたユアンの瞳はキラキラと輝いていて一際綺麗だ。
「トイパル座というのも有名なんでしょう? すごく楽しみです」
子供のように素直にはしゃぐユアンが可愛くて、ブラムは思わず顔を緩ませた。
(本当なら大きな街は極力避けるべきなんだろうけどな)
ふとした不安に駆られ、密かに苦笑する。
はしゃいでばかりはいられない理由がブラムにはあった。何せブラムは手配書をばら撒かれている身の上。人が集まる場所に行くことはそれなりのリスクがある。失踪した近衛騎士団長が自分だとバレれてしまえば一騒動だろう。
それに、大きな街ともなれば当然ながらその地区を取り仕切っている教会があるはずだ。
もしもユアンのことを・・・聖女ロザリアのことを知っている人間にでも出くわしてしまったら、
(ユアンにあんな顔させんのはもう御免だからな)
シスターハンナの一件を思い出し、ブラムは眉を顰めた。
「ブラム?」
ユアンが心配そうにブラムの顔を覗き込む。
「あぁ悪い。ボーっとしてた」
誤魔化すように笑って見せると、ユアンは苦笑しながらブラムの髪に触れた。
「暑さのせいで朦朧としてるんですか?」
冗談交じりに言いながら、額に冷たいタオルを当ててくれる。そのひんやりとした感触と、目前のユアンの笑顔が実に心地良い。
(ちょっと引き寄せたらチューできそうだな)
つい先ほどまで渦巻いていた不安などあっという間に消え失せて、そんな下心がむくむくと擡げる。実行しようとユアンの腰に手をまわしたが、ユアンの視線は別のところへと移されてしまった。
「あ」
銀色の瞳を大きく見開き、ユアンが首を傾げる。一体どうしたのかと尋ねれば、ユアンは困ったような顔をして答えた。
「ブラム、リギィがいません」
「は?」
ユアンの指差した方向、つい先ほどまでリギィが泳ぎ回っていたはずの小さな泉を見やれば、確かに誰もいない。
「アイツどこ行ったんだ?」
「いつの間にいなくなっちゃったんでしょう?」
忽然と姿を消したリギィに、二人は顔を見合わせた。

***
リギィは吊るされていた。
(なんでオレ、こんな目に合ってるんだろう)
虎の姿のまま左足を縛られ木にぶら下げられているためろくに動くこともできず、だらんと力を抜いて風に揺られるのみだ。
一人楽しく水浴びをしていたリギィは突然網に掬われた。咄嗟のことに驚いてしまい、人間の姿に戻るのも忘れて網の中でもがいていたらそのままあっという間に攫われてしまったという訳だ。
「あ~あ、ユアン心配してるだろうなぁ」
誰に当てるともなしに呟いてみる。オアシスにいた時にはまだ日は高かったが、今はもう空がオレンジ色になりかけている。
突然いなくなってこんなにも長い時間戻らないともなれば、きっとユアンは自分の身を案じて探してくれているだろう。
ユアンの不安そうな表情が過り、リギィは目を潤ませた。
「ブラムも、また助けに来てくれるかなぁ」
以前人体収集家のパーキンスに捕まった時に颯爽と駆け付けたブラムの雄姿を思い返す。一見するとユアンの事しか頭に無さそうだが、ブラムはあれで結構面倒見が良い。盗賊や魔物と遭遇した時も、何だかんだと言いながらユアンだけでなくリギィのことも守ってくれているのだ。
「いや、待てよ」
突如ハッと思い立つ。
「ブラムのヤツ、ユアンと二人っきりになりたいからってこれ幸いとオレのコト放っておくんじゃ・・・」
嫌な予感にサーっと青ざめる。
「クッソ―、ブラムの薄情者―!」
叫びながら精一杯の力を振り絞って暴れる。
括りつけられている枝が少し撓ったが、小虎の軽い体重では折れるには至らず。リギィの身体がバンジージャンプのようになっただけで何の解決にもならなかった。
「うぅ・・」
絶望に涙が零れ、項垂れる。
その時だった。
「なんつー言い草だよ、人聞き悪ぃな」
嗅ぎ慣れた煙草の匂いと共に呆れたような声が頭上で響く。風を切るような音と同時に、吊られていた左足が自由になってリギィは落下した。
「リギィ、大丈夫ですか?」
ふんわりと抱きとめてくれたのは大好きな匂い。ブラムとユアンが助けに来てくれたのだ。
「うわーん!!ユアンー!!」
「はいはい、怖かったですね」
虎の姿のまま縋り付いて甘えるリギィをユアンが苦笑交じりに宥める。そんな状況を良しとしないのは勿論ブラムだ。
「動くな、縄ごと叩き切ってやる」
「ちょ、待って、離れます!すぐ離れます!!」
ギラリと光る刃を見せつけられ、リギィは大慌てでユアンから飛び退いた。
「ったく・・・」
ブラムが舌打ちしながらそのまま剣を振り下ろす。
「ひぃ!!」
縮み上がって怯えるリギィだったが、痛みは全く感じずにぐるぐる巻きになっていた足の縄だけが解かれた。
(ホントに殺されるかと思った)
ようやく人間の姿に戻れたが、あまりに脅かされた所為で心臓はバクバクだ。
「ボーっとしてねぇでさっさと行くぞ」
ブラムがリギィの尻を蹴る。誰の所為で腰が抜けていると思っているのか。
「ここはもうライラックの街のすぐ近くみたいなんです。あと一息ですから頑張りましょう」
ユアンがしゃがみ込み、にっこり微笑んでリギィを元気づける。ついでに縄で擦り剥けてしまった左足も回復魔法で治してくれた。やっぱりユアンは優しい。
「はぁーあ、酷い目にあったなぁ」
ブラムが差し伸べてくれた手を取ってようやく立ち上がるリギィ。さぁ出発だと意気込んだ時、叢がガサゴソと蠢いた。
「「ダメー!!」」
「うわっ!?」
小さい影が二つ飛び出し、リギィに飛びつく。勢い余ってリギィは尻もちをついてしまった。
「なんだこのガキ?」
ブラムが怪訝そうに言う。
リギィにしがみついているのは小さな子供。それも同じ顔をした男女の双子だ。
「迷子でしょうか?」
ユアンも困惑したように首を傾げる。
「この子はあげないもん!」
「あげないもん!」
ユアンとブラムをキッと睨み、子供たちが怒鳴る。リギィ自身も益々何のことだか分からない。
「それはうちの獲物だよ」
双子が現れた草陰から、今度は一人の男が姿を見せた。
「なんだお前?」
「この子たちの保護者の方ですか?」
ブラム、ユアンが戸惑いながらも尋ねる。
青年は冷たい視線を二人に向けた。
「横取りされちゃあ困るなぁ」
不敵な笑みを浮かべ、持っていた鞭を振りかざす。空気を裂くような音が響き、撓る鞭がユアンを襲った。
「おいおい、いきなり何なんだよ」
ブラムがぼやきながら、瞬時に鞭をバラバラに切り刻む。そして青年の懐に飛び込むと、その腕を引いて後ろに捩り上げた。身動きが取れないようにと、先ほどまでリギィが括りつけられていた木に力任せに押し付ける。
「何モンだ、てめぇは?」
「くっ・・」
一層凄みのある声でブラムが問いかけると、青年は苦々しく睨み付けた。
と、思いきや
「いいねぇ、アンタ強いじゃん。カッコいいし」
「は?」
瞳を輝かせてそんなことを言う。
当然ブラムは唖然とした。
未だ双子にのしかかられたままのリギィもキョトン。ユアンも言葉を失って驚いている。
ブラムが押さえ込んでいた力を弱めると、青年はくるりと体の向きを変えて自らブラムの背に腕をまわして抱きついた。
「惚れちゃったかも」
発せられたのは驚きの一言。
「・・・ジョーダン」
ブラムは石化。
「ほ、惚れっ!?えぇーーー!?」
リギィは驚愕の雄たけびを上げ、
「・・・・」
ユアンは相変わらず絶句している。
「俺はアンジェ。こっちの双子はレナとラウルって言うんだ。よろしくー」
気を取り直して、とばかりに青年が先ほどまでとは打って変わった笑顔で自己紹介をする。
「レナです」
「ラウルです」
双子の子供は未だリギィの腕をそれぞれ片方ずつ捕まえたままで恥ずかしそうに頭を下げる。
「アンタら旅人だろ? だったらうちの宿舎に泊ればいいよ。ここからちょっと行ったとこにある、ライラックって街の外れにあるんだ」
アンジェはもはやブラムしか目に入っていないようだ。アンタらと言っている割にはブラムだけに話しかけている。
「ライラック!じゃあ丁度いいじゃん、オレ達も行くつもりだったんだし」
リギィがパァッと目を輝かせて両手を上げる。不可抗力とはいえいきなり手を振りほどかれてしまったレナとラウルは不満そうだ。
「うちの宿舎というと?」
ユアンがレナとラウルの頭を撫でながら尋ねる。
レナとラウルは嬉しそうに笑い今度は二人でユアンの手を繋いだ。
「わがトイパル座の宿舎さ。旅人なら、俺たちの名前くらい聞いたことあるだろ?」
ユアンの問いにアンジェが誇らしげに答える。
「トイパル座?お前らが?」
ブラムが顔を歪めて聞き返す。すぐさま“すごいでしょ~”などと言われてまた抱きつかれている。
「オレ達の目的ドンピシャじゃん!やったな、ブラム」
リギィはまたも両手放しで喜んだ。あまりの偶然に、自分が攫われた理由などすっかりどうでも良くなってしまったようだ。
「じゃあ決まりだね、案内するよ。行こうぜ、ダーリン♪」
アンジェは上機嫌でブラムの腕を組んで歩き出す。
ブラムはげんなりしてされるがままになっている。
「泊まるとこ決まって良かったよな、ユアン」
リギィは鬼の居ぬ間に、とばかりにユアンに歩み寄って言う。
「えぇ、そうですね」
ユアンは何処か苦笑交じりに頷いた。

***
アンジェの案内により辿り着いたトイパル座のアジトは、随分と年季の入った旧館だった。
「見た目はボロいけどちゃんと手は入れてあるから心配無用だよ。風呂もキッチンもちゃんと使えるし」
アンジェはヘラヘラと笑いながら住めば都なのだと言った。
「ねぇねぇ、ユアンたちのこと皆に紹介しようよ」
「しようよ」
レナとラウルがこぞってそんな提案をする。
ちなみにレナはユアンと手を繋いでいるが、ラウルはブラムが肩車をしている。あまりにもアンジェがベタベタと抱きついてくるので、少しでも制止できればというブラムの苦肉の策だ。
「オレもトイパル座の人たちに会ってみたい!」
リギィが満面の笑みで言う。攫われて獲物と言われていた癖に全く危機感がない。
「そうですね、泊めていただけるならきちんとご挨拶をしないと」
ユアンもリギィに同意した。
「じゃあ皆を呼んでくるよ。待っててねん、ダーリン」
ハートマークをまき散らしながらバタバタと建物の奥へと入って行くアンジェ。
「ダーリンじゃねーって」
ブラムはげんなりしながら溜息を付いた。

「はぁーい、じゃあメンバー紹介!」
館の中に通されるなり、アンジェのテンション高い声が響いた。
「まずは団長のミラ。猛獣使い」
「よろしくな、旅人よ」
意外なことにも、トイパル座の団長は女性だった。バニーガールのような恰好をしているが、筋肉質で逞しい体格をしているし身長もブラムと同じくらいありそうだ。
先ほどアンジェが持っていた鞭も猛獣使いである彼女のものだったと聞き、切り刻んでしまったブラムは取りあえず謝罪をした。
「次、怪力男のシルバ。その気になったら家一軒くらい持ち上げちゃうよ」
「よろしく」
シルバは天井に頭が付きそうなほどの大男だ。服の上から見ても明らかほど強靭な肉体をしている。その立派な筋肉に目を輝かせたのはリギィだ。
感動しきりという風に“すっげー”を連発し、早速どうすれば鍛えられるのかと教えを乞っている。
「次はブラディ。曲芸師で、レナとラウルの教育係も兼ねてる」
「はじめまして」
ブラディは見たところトイパル座の中では年長者のようだ。その眼差しは実に穏やかで、父性を感じさせる。レナとラウルが駆け寄れば、軽々と二人同時に抱き上げた。
驚くべきことに、この幼い二人も立派なトイパル座の一員として活躍しているらしい。
「次、大食漢のサンハム。驚異の早食い・大食いで食べられないものはない」
サンハムは限りなく円形に近い体型をしている。“食べられないものはない”という言葉は誇張ではないようで、今まさに口にしているものもどうにも食べ物には見えない。
「最後、早着替えのジョニス。衣装係も兼ねてるよ」
「どうも~」
ジョニスは細かいウェーブのかかった髪とカラフルなメガネ、服装も奇抜でかなり個性的な外見をしている。“早着替え”という芸がどんなものなのかがピンと来なかったが、百聞は一見にしかず。ジョニスが一瞬にしてシックなタキシード姿に変わったため目を見張った。
「キミ可愛いねぇ。どう、メイド服とか着てみない?」
「え?」
ユアンに歩み寄って手を握り、ギラギラした眼差しでそんなことを言う。
ブラムは即刻警戒態勢。手を離させてユアンを背に隠した。
「ホントに見れば見るほど可愛らしい。僕の服を着るために生まれてきたようだよ。男の子にしとくのが勿体ないね」
ブラムに引きはがされてもなお、ジョニスはユアンを嘗めるように見つめてうっとりと語る。ブラムはやかましいと吐き捨てたが、トイパル座の面々は何だか妙にキョトンとしている。
「男だったんだ・・・。てっきり女だと思ってたよ」
トイパル座一同を代表してアンジェが呟き、他の面々も同意する。
「ふ~~~ん」
「な、なんでしょう?」
値踏みするような目つきでアンジェに見られ、ユアンは戸惑い露わにした。
「ブラムの恋人なのかと思ってたけど、男なら違うね」
くるりとブラムに向きなおり、また腕に絡みつく。
「だってブラムってノンケでしょ?匂いで分かるの♪」
「まーな」
確信的に問われて素直に頷く。
匂いで分かるという主張に何となく恐怖を感じつつ、“だからくっついてくるな”と言わんばかりに押しのけた。
「えー、そうなのか?」
リギィが納得できないと声を上げる。
てっきりシルバの筋肉に夢中なのかと思っていたが、一応こっちの話も聞いていたらしい。
「だってさぁ」
ユアンとブラムをチラチラと意味ありげに見やる。当然ながらブラムにはリギィが何を言わんとするのか分かった。
「うっせぇな。ユアンは特別なんだよ」
バツが悪いながらもきっぱりと言い捨て、ブラムはリギィの額を小突いた。

***
「ここだ」
団長のミラに誘われ、一行は館の中にある一室へとやって来た。リギィを攫った事情を説明するからと言って案内されたのだ。
「あまり大声は出すなよ」
団長に忠告され、一番大声を出しそうなリギィは口を塞いでコクコクと頷いた。
室内には入らず、廊下からそーっと覗き込む。
「わぁ、かわいい」
思わずという風に、まずユアンが呟いた。
部屋いっぱいほどの大きさの檻の中には一頭の虎が横たわり、その周りには小さな小さな影が3つ。まだ模様もない生まれたて赤ちゃん虎のようだ。
「あたしの相方のゴードーが見ての通りでね。暫く舞台に立てないもんで、その代わりを探してたんだ」
「そこに丁度良くリギィがいたって訳か」
合点がいったブラムも頷く。
同時に例の虎がリギィの兄ではなかったと判明したことにもなったが、こんな空振りも想定内だし、仕方がない。
「すっげー可愛いなー。なぁなぁ、抱っことかできねぇの?」
当のリギィも落胆の片鱗すらなく、赤ちゃん虎にすっかり夢中なようだ。
「残念だが抱くのはまだ無理だ。今はゴードーの警戒心も強いしな。部屋に入るのもあたしくらいしか許さない」
「なんだ、そっかぁ・・・」
団長に渋い顔をされ、そこで初めてがっくりと肩を落とした。
「さっきはすまなかったな。なかなか手荒なことをしてしまったようで」
改めてという風に謝罪する団長。
「まぁ、キミの虎姿は小さすぎて舞台映えしないしな」
そんなことを言いながらリギィの肩をポンと叩いた。
「むー、小さくて悪かったな」
謝っている割には酷い言い草で、リギィは頬を膨らませる。
確かに先ほど見たゴードーの精悍な姿と比べれば、リギィの小虎姿はちっぽけかもしれない。ブラムは思わず笑ってしまい、リギィにギロリと睨まれた。
「トイパル座といえば、確か、あのゴードーという虎さんが一番有名なんでしょう?」
ユアンが心配そうに尋ねると、団長は大きく頷く。
「その通りだ。ゴードーのショーを楽しみに見に来てくれる客も少なくはない」
肩を竦め、ため息交じりにさらにぼやいた。
「代わりに何か目玉を作りたいんだが、どうも良い案がないのだよ」
「あ、団長。俺、良い案思いついたよ」
そこで口を挟んだのはブラムにくっついてやって来ていたアンジェである。ハイハイ、っと挙手をして得意気な顔をしている。
「魔法対決なんてどう? ユアンと俺の」
「え?」
思わぬところで名前を出され、ユアンは目を見開いた。
「おいおい、なんでそうなるんだよ」
ブラムも戸惑う。
だがアンジェはにんまりと笑みを湛えたままでユアンを指さした。
「だってユアン魔法使いでしょ?しかも結構強いはず」
“とんでもない魔力の匂いがする”と、魔法の使えないブラムやリギィにはピンと来ない理由を付けられる。
「ふむ、確かに面白いかもしれないな」
意外にも、団長は乗り気とも取れるこの反応。
「いやいやいや、ダメだろ」
「そうだよ、ユアンはトイパル座の一員じゃないじゃん!」
ブラムとリギィは慌てて反論を始めた。さながら“ユアンを守る同盟”の結成だ。
「うちに泊めてあげるんだから、恩義は示してほしいよね~?ね、団長」
猫なで声でアンジェが囁く。
勝手に連れて来ておいて何を言い出すのかとツッコみたいところだが、それより早く団長が頷いた。
「それもそうだ。働かざる者食うべからずとも言うしな」
真っ赤な口紅を引いた唇が上機嫌に弧を描く。
もしかしてとんでもないところに連れて来られてしまったのではないか・・・ブラム、リギィ、ユアンは今更ながらに青ざめるのだった。
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