silvery saga

sakaki

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番外編:崩壊寸前

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この日の宿はとても年季の入った・・・いや、ここは敢えてはっきり言おう。崩壊寸前の建物だ。
何せ既に宿屋としては使われていないらしい。
旅人も滅多に来ないという小さな田舎町なので仕方のないのだろうが、あまりにも客が来ないので商売は成り立たず、現在は殆どただの空家のような扱いになっていたのだという。
そこにやってきた極々珍しい旅人がブラム・ユアン・リギィの3人である。
宿屋は無いのかと町人に尋ね回ってようやくここを紹介して貰えた。とっくに隠居暮らしをしているらしかった店主には「野宿の方がマシかもしれない」とすら言われたが、ブラム達にとっては屋根と寝るところがあればそれでいい。
一応個室で、しかもシャワーまでついているというのだから十分というものだ。初めは錆が出たため慌てたが、無事にお湯も出たし。
(下手したら床抜けるんじゃねーの・・・?)
変色している床をそっと足で確かめながらブラムは苦笑する。
シャワーも浴び終え、今は寝る前の一服を嗜んでいるところだ。
ベッドにはこの部屋には似つかわしくない新しめの寝具が畳んである。元からあったものがあまりにもホコリとカビにまみれていた為、店主が気を回して自宅から運んでくれたのだ。
(ま、ボロ宿でも泊まれりゃ最高ってな)
布団を整え、よし、と満足げに頷く。
頃合いを見てユアンに夜這いをかけに行こうと企むが、それには及ばなかった。
コンコン。控えめなノックの音。
まさかユアンから来てくれるとは嬉しい誤算だ。ブラムは上機嫌で出迎えた。
「お前それ・・・どうした・・?」
扉の前に経っていたのはやはりユアンだったが、その姿は予想の斜め上を行っていた。ずぶ濡れなのだ。
「それが・・・」
部屋に招き入れると、ユアンは沈んだ面もちで訳を話し始めた。
「床から水!?」
序章の時点からブラムはギョッとする。ユアンの部屋、ベッドのすぐ傍らの床から突然水が噴き出したのだという。しかも浸水などという緩やかなものではなく、まさに「噴き出した」状態。水道管でも破裂したのか、大量の水が勢いよく床を突き破ったらしい。この時点で部屋もユアンもびしょ濡れだ。
「水の勢いが止まらなくて、咄嗟に魔法で凍らせてみたんですけど・・・」
水が噴き出している大元の部分を凍らせればひとまず水は止まるのではないか。ユアンはそう考えたらしいのだが・・・
「加減が出来なくて・・・お部屋・・・全部凍ってしまって」
泣きそうな顔で頭を抱える。
回復魔法や浄化魔法ならお手の物のユアンなのだが、その他はどうにも苦手らしいのだ。いまいち手加減が出来ないらしい。以前トイパル座のアンジェがやっていたような魔法の曲芸のようなことは絶対に無理だと言っていた。
(うわぁ・・・隣は氷漬けか・・・)
想像すると背筋が冷たくなる。もしもその場にいたら、今頃は氷のオブジェの一員になっていたことだろう。
(やっぱボロ宿はダメだな)
煙草を吹かしながらそんなことを思うが、
「今日はブラムの部屋に一緒に泊めてくれませんか?」
ユアンにそんなお願いをされたのですぐに考えは変わった。
(ボロ宿最高!)
心の中では力強くガッツポーズ。
「そのまんまじゃ風邪引くし、シャワーで暖まって来いよ。着替え貸してやるから」
外面的にはあくまで紳士的にそんな提案をした。

(さて、どれにしようかな~っと)
素直にシャワーを浴びに行ったユアンのために着られそうな服を見繕う。華奢なユアンにとってはどれもぶかぶかだろうから、出来るだけ細身のものを・・・選ぶわけもなく、寧ろ出来るだけゆったりしたデザインの物を選んだ。
シャツにしては長めだから、ということにしてワンピースのように一枚で着て貰おう。襟ぐりが大きく開いているので、肩幅の狭いユアンではすぐにずり下がってしまうかもしれないが、まぁ不可抗力だ。
「タオルと服、ここに置いとくぞ」
「はい、ありがとうございます」
ブラムの下心など知るよしもないユアンは、扉越しでも律儀に頭を下げているようだった。

「ブラムの服、僕にはこんなに大きいんですね」
ユアンが髪を拭きながら、部屋に戻ってきた。案の定肩が出てしまうようで、何度も位置を直している。「やっぱり体格が違うんですね」などと照れくさそうに笑っているその姿は想像以上。惜しげもなく露わになっている上気した首筋や太股には釘付けにならざるを得ない。可愛らしい恋人が自分の服に包まれているなど、正に男の浪漫そのものだと言えるだろう。
「えーっと・・・俺はあと一服してから寝るから、先にベッド入ってろよ」
思い切りぐらついている理性をなんとか保つべく、ブラムは再び煙草に手を伸ばした。
「分かりました」
ユアンはこれまた素直に頷いたが、ベッドではなくブラムの傍らにやって来た。
「じゃあ、おやすみなさい」
恥ずかしそうに目を閉じて、少しだけ顔を近づけてくる。毎日の恒例であるおやすみのキスのおねだりだ。・・・毎日恒例なのだが、このシチュエーションではまた格別。
(っだぁぁぁぁあ、もう!)
理性がガラガラと音を立てて崩れていく。いっそ、わざとやっているのではないかとすら思う。いや、わざとならどんなに良かったことか。
「えっ・・・ブラム?」
突然抱き上げられて困惑しているユアンには、勿論そんな意図は無かったのだろう。だがもう、限界だ。
「触りたい」
「え?」
ユアンをベッドに押し倒し、熱っぽく囁く。ユアンは目を丸くして驚いている。
「え? あ、あの、ブラム?」
太股を撫でられ、ブラムの言う「触る」という意味にようやく気付いたらしい。たちまち真っ赤になってブラムの手を抑えようとする。
「あの、待っ」
「待ってやらない」
ユアンの言葉を遮り、ブラムは意地悪く微笑んだ。ユアンの唇の端に軽いキスを落とし、次は耳元で囁く。
「まだ冷えてるトコがないか、ちゃ~んとチェックしないとな」
「っ・・・」
ユアンの体がビクリと震える。最近知ったが、こうしていつもよりも少し低めの声で囁かれる事にユアンは弱いらしい。たちまち瞳を潤ませて、物欲しそうにすら見える表情に変わる。そんな顔をされるから、益々ブラムの自制も効かなくなってしまう。
(ホント可愛い・・・)
耳と首に口付け、手のひらでは滑らかな太股の感触を存分に味わう。吸い付くような肌触りだ。特に内股の柔らかさなど、いつまででも触れていたくなる。
「ん・・・くすぐったい・・・です」
ユアンが身を捩る。ブラムの指先は太股からもう少し上に移り、下着の裾に忍び込もうとしていた。
「くすぐったい、ね。あぁ、ユアンはこっちが好きなんだっけ?」
わざと意地悪く言い、今度は胸元に唇を這わす。
「ゃ、違・・っ」
否定するユアンだが、服越しにでも既に固くなっていることが分かる突起に触れてやるとすぐに言葉を詰まらせた。
片方の手では尚も下着すれすれのところを撫でながら、もう片方の手で胸を擽る。
「・・っ・・ん・・」
ユアンは口を押さえて、声が漏れそうになるのを必死に堪えている。耳まで真っ赤になっているのが可愛い。
「声、なんで我慢するんだ?」
問いかけ、ユアンの手にキスをする。口元から手を退かせて、唇を噛んでしまっていないかを確かめた。指先で辿ってみるが、どこも傷ついていないようでひとまずホッとする。
「だって・・・恥ずかしい・・」
潤んだ瞳でユアンが答えた。目も真っ赤で、怯えたように震える姿がまるでウサギのようだ。
「その恥ずかしい声が聞きたいのに」
からかうように言って、ユアンの唇を指の腹で撫でる。柔らかい弾力が心地良い。
「・・・ブラム」
今度はユアンがブラムの手を取る。そしてブラムの唇を見つめながら切なそうに呟いた。
「キス、して・・」
最後の方は殆ど聞こえないほど微かな声だ。けれどこんなにも甘い懇願はきっと他にはないだろう。
ブラムはユアンの望み通り、その唇にキスをした。徐々に重なり合っていくのが分かるくらいにゆっくりと、味わうように。
一度目が名残を惜しむように離れると、またすぐに二度目のキスをする。今度は啄むような軽い口付けだ。三度目、四度目も同じく、重なってはすぐに離れるのを繰り返した。
「ん・・・」
不意に、唇にひどく遠慮がちな舌の感触を感じる。
(・・・煽るのが上手すぎだっての)
ブラムはそれを絡め取るようにして、今度は早急すぎるほどの深い口付けを交わした。
ユアンの口内を犯すように蹂躙し、熱い舌を強く吸い上げる。
角度を変えて舌を絡ませる度に、お互いの混ざり合った唾液で濡れた音が響いた

キスを交わしながら、余裕無くユアンの服をめくり上げる。
直接胸元に触れてユアンの鼓動の早さに改めて気付かされた。恐らく自分も似たようなものだろうが。

「なぁ、ユアン・・・?」
荒い息をつきながら、もはや粉砕されているであろう理性を何とか必死にかき集めて問いかける。
ユアンも呼吸の整わない様子で、どこかぼんやりとした表情でブラムを見つめている。
「今日は、いつもみたいに”もうダメ”って言わねぇの?」
普段ならばそろそろ・・いや、おそらくとっくにユアンから限界を訴えられている頃なのだ。
「止めてくんねーと・・俺、そろそろ止まれなくなりそうなんだけど・・・」
冗談混じりで言い、余裕振った笑みを浮かべる。ブラムの中でユアンを大切にしたい気持ちとユアンを自分のものにしたい情欲とがせめぎ合っている。
「ブラム・・」
ユアンはそっとブラムの頬に触れた。
「あの・・・止めなくていい・・です」
ボツリと言う。
「もう・・・大丈夫、なので・・・」
段々と目を逸らして、
「ブラムのしたいように・・・して良い・・ので」
また一段と真っ赤になった。
(大丈夫って・・・俺のしたいようにって・・・)
ブラムもつられて顔が熱くなる。思わず生唾を飲んでから、改めてユアンの顔を覗き込んだ。
「その・・なるべく、優しくする、から」
「・・・は、はい」
数え切れないほどの場数を踏んできたブラムらしからぬ台詞を吐き、緊張した面持ちのユアンに再びキスを落とす。
その瞬間だ。
パキパキ、メキッ、バキッ、ドシッ、バキバキッ、ズシィィィィンン。
隣の部屋から明らかにただ事ではない音がした。
「な、なんだぁ!?」
「リギィの部屋ですね」
慌てて起き上がり、部屋の外に駆け出す。・・・と、
「「!!??」」
二人は目を疑った。リギィの部屋が・・・いや、リギィの部屋だったところが崩れ落ちている。宿が半壊しているではないか。
「うわぁぁぁぁん、二人ともぉぉぉぉ!!」
唖然としていると、瓦礫の下から虎姿のリギィが飛び出してきた。部屋はこの有様だというのに無事だったらしい。流石の頑丈さだ。
「天井がぁ、天井がぁぁ」
よほど怖かったのか、鼻水でグシャグシャになりながら泣くリギィ。どうやら眠っていたリギィの上に、突然天井が落ちてきたらしい。
ユアンの部屋は下から、リギィの部屋は上から崩壊したわけだ。
(ボロ宿怖ぇえ・・・)
ブラムはさっと青ざめる。
「あれ・・? なんでユアンそんな格好してんの?」
ようやく泣き止んだリギィがそういえばと首を傾げる。
ユアンは自分の部屋の有様を説明し、
「それでブラムの服を借りることになって・・・えっと・・・・」
経緯からつい先ほどのやり取りまでを思い出してしまったらしく、真っ赤になって固まってしまった。
ブラムは慌てて咳払いをする。
「や、やっぱボロ宿はダメだな! 今日も野宿だ野宿!!」
半ば自棄になって言い放った。
「絶対なんかしてただろ・・・」
リギィは呆れたように二人を見やった。

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