恋愛下手な恋愛小説家が恋をしてみました

sakaki

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レクチャー

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俺:泉田智樹(せんだ ともき)には趣味がある。元々多趣味な方だから、ファッションも好きだし映画鑑賞も読書も好きで、スポーツもよくやる。夏にはボディボードやって、冬にはスノボやって、こないだはボルダリングをやってみたらこれも結構面白かった。けど、今一番ハマってる趣味はお隣さんだ。お隣の緑川更紗(みどりかわ さらさ)さん。この人と話す事、一緒にお茶する事、ホントに時々だけど二人で出かける事、これが楽しみで仕方ない。
まぁとどのつまり、俺はお隣さんのことが好きなのだ。

(「もうすぐ家に着くので、そちらにも伺いますね」っと)
エレベーターの中で鼻歌を歌いながらメールを打つ。全くスマホを使いこなせていないお隣さんは未だにLINEが使えないのでメールだ。
あと数十秒で着くのにわざわざこんなメールを送るのは、お隣さんのびっくりした顔が見たいから。
お隣さんはいつも何かに怯えたようにビクビクしているので、チワワとかハムスターとか、なんかそんなものに似てる。慌ててる時とかテンパってる時とかは特にそう見えて可愛いから、時々からかいたくなるんだよな。
ちなみに今日は、お隣さんに髪の乾かし方をレクチャーしに行く約束だ。なんでもお隣さんは、髪を切って以来、どうしようもないほどの寝癖に困っているらしい。髪を切ってあげたのは俺で、ぶっちゃけ、お隣さんがヘアセットなんてしないだろうってことは予想してたから、乾かすだけでいい感じになるようにしといたつもりだったんだけど・・・お隣さんはそもそも髪も乾かさないで寝てしまうらしい。ってか、ドライヤーすら持ってないってのは流石に予想の斜め上だった。
ってわけで、今日はおすすめのドライヤーをプレゼントがてらレクチャーに行くことになったんだ。
またお隣さんの髪に触るいい口実が出来て俺的には超ラッキーってとこ。
お隣さん家に着き、そのままドアに手をかける。インターフォンを押してもどうせ気付かないだろうからって、お隣さんから勝手に入っても良いって許可を貰ってるんだ。警戒心でガチガチだった最初の頃に比べると、すっげー心を開いたよなぁ。
浮かれまくりでドアを開けた俺は、次の瞬間叫び出しそうになった。
タイミングの悪いことに、玄関には先客がいたからだ。
物書きの仕事をしているお隣さんの担当さんで、確か名前は三倉さん。お隣さんに片思いしてる俺としては、今のところ唯一無二の超絶要警戒人物だ。
頻繁にお隣さんのところに出入りしてるし、お隣さんもこの人のことをすっげー信頼してて頼り切ってる。・・・いや、そりゃ担当さんなんだから当たり前なのかもしれないけどさ。
けど、それより何より、三倉さんってすっげー男前で仕事バリバリな感じで大人の余裕があって・・・なんかこう、同じ男として負けた感がハンパないんだよ。
「あ・・えっと・・お仕事中ッスよね~」
俺は精一杯笑顔を作って後ずさりする。出直すって言ってみたけど、三倉さんは俺に中に入るよう促した。
「すんません。お、お邪魔しま~す・・・」
俺は小さくなって頭を下げた。三倉さんの俺を見下したような視線と、人を顎で使うのが板に付いてるその雰囲気の所為で、なぜか妙に遜ってしまう。ダサいぞ、俺! あ~あ、ホント来るタイミング悪かったな。あとちょっとズレてりゃ会わなくて済んだのに・・・。浮かれきってた気持ちを床に叩き付けられたような気分だぜ。
「おい」
「は、ハイ!?」
零れそうになる溜息を飲み込みながら靴を脱いでたら、三倉さんに声をかけられてめちゃくちゃビビった。なに? 何? 何か怒られんの、俺? 思わず身構える。
「良ければ手伝ってやってくれ。どうせ煮詰まってるだろうからな」
「へ?」
吐き捨てるようにそれだけ言って、三倉さんは去って行った。手伝うって何を? 全っ然訳分かんないんですけど?
と思ってたら、謎はすぐ解けた。
部屋に入って1秒で即行分かるくらい、お隣さんは悩んでた。三倉さんの言う“煮詰まってる”ってヤツだ。
「あの~・・・こんちは~」
そぉ~っと歩み寄ってお隣さんに声をかけてみる。
お隣さんは涙目で、なぜかAVを握りしめていた。


「ベッドシーンのお勉強・・・ッスか」
お隣さんに事情を聞き、俺はひたすら呆気に取られた。
AVやらエロ漫画やらエロ小説やら、あとは昔のポルノ映画やらが大量に机の上に並べられている。三倉さんに用意された資料らしい。
「複数の作家が短いお話を書いて・・・えっと、オムニバス形式? というので、僕も参加させて貰うことになったんですけど、それで、そのテーマが決まってるらしくて、それが・・・あの・・・」
お隣さんは泣きそうな顔で説明してくれる。そのテーマとやらがエロなのだ。
「僕、そんなの書いたことなくて・・・経験もないし・・・それで、勉強しろって三倉さんが色々持ってきてくれて・・・でも、僕こういうの観たこともないし・・・なんか色々すごそうだし、どこから取りかかっていいか・・・」
お隣さん、ものすごーくどんよりしてる・・・。
確かにお隣さんこういうのに疎そうだし、ジャンル幅広くてハードめなのが山積みされてるし・・・うわ、コレとかタイトルからしてかなりヤバ・・・じゃなくて!
思わず品々見入ってしまってちょい反省。
「とりあえず、観てみたらどうですか? なんなら俺も付き合いますし。ほら、コレとか試しに」
俺が手に取ったのは、R指定の映画だ。流石にAV一緒に見ましょうとは言えないけど、これくらいなら平気だろ。
お隣さんは物凄く不安そうな顔をしつつも頷いてDVDを受け取った。

ドライヤーの使い方レクチャーはひとまず後回しになっちゃったけど、お茶入れて二人並んでDVD鑑賞なんて、まったりしてていいじゃん・・・なんて思ったのは、初めのうちだけだった。
この映画、めっちゃくちゃエロいんですけど!? なんかさっきからほぼあえぎ声オンリーなんですけど!? 好きな子と二人っきりでこんなの観てたら、何か流石に色々ヤバいんですけど!?
「・・・・・・」
居たたまれない俺は、自分を落ち着かせるためにお茶を啜った。んで、こっそりとお隣さんを盗み見る。お隣さんはすごく真剣に観てた。正に“お勉強”って感じで。
あぁ、なんか俺だけ不純だ。お隣さんは仕事のためにこんなに真面目にしてるってのに。
「キスって、どんな感じなんだろう・・・」
一人反省してる俺を後目に、お隣さんがポツリと言う。声に出して呟いてしまったのは無意識だったらしく、俺の視線に気付くなりハッとしたように真っ赤になってしまった。ヤバい。めちゃくちゃ可愛い。
「さっき経験ないって言ってましたけど、もしかしてキスも?」
「え? あ、えっと、あの、はい・・・」
期待を込めて尋ねると、お隣さんはますます真っ赤になって頷いた。
マジかよ・・・。そりゃ、普段のお隣さん見てれば慣れてる訳ないとは思ってたけど・・・。
お隣さんのあまりの初心さにドギマギする。少し荒れ気味の色素の薄い唇に目が行って、思わず唾を飲み込んだ。
「なんなら、俺が教えてあげましょうか?」
キスも、それ以上のことも、お隣さんがまだ知らない、俺がお隣さんにしたいと思ってる色々な事。
「え、いいんですか!?」
俺が直球でぶつけた下心に、お隣さんは嫌がるどころか瞳を輝かせた。
えぇ? ウソ? いいんですかって、寧ろ俺の方がいいんですか!? 告白だってまだしてないのに!?
「あの、じゃあ早速今からでも・・・?」
「へ!? あ、ハイ! 勿論!!」
善は急げと言わんばかりのお隣さん。恥ずかしそうだけど嬉しそうな笑顔が堪らなく可愛くて、俺は大きく頷いた。
集中出来るようにってDVDの再生も止めて、意外なほどにお隣さんはノリノリだ。こんなにすんなりうまくいくなんて思ってなかった。いや、すっげー嬉しいんだけど。
「メモと・・・あ、ボイスレコーダーの方がいいかな。ちょっと持ってきますから待ってください」
やる気満々の俺だけど、お隣さんはせかせかと準備をしてる。あれ? なんか雲行き怪しくないか? 浮かれた気分が落ち着いてくると、何やら徐々に違和感が・・・。
「はい、じゃあどうぞ、お願いします」
ボイスレコーダーのスイッチを入れ、お隣さんが深々と頭を下げる。手には紙とペン。これは、もしや・・・
「やっぱり映像で観るだけより、実際の話を聞く方が参考になりますよね! 三倉さんにもお願いしたんですけど何で俺がそんな話しなきゃならないんだって怒られて・・・泉田さんが教えてくれるって言ってくれてすごく助かります」
インタビューかよ!? 教えるってそっち!? ホントに言葉通りにそのまま受け止めちゃったの!? 
お隣さんは地獄に仏とばかりに喜んでいる。いや、喜んでくれて何よりなんだけど・・・だけどぉ・・・

結局、この後散々赤裸々に恥ずかしい話をして聞かせた。
半分自棄だった・・・。
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