天使が魔王の嫁になる話

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堕つる灰

天の核

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 「魔王、あれは誰?」
 医療棟に巣くう悪魔であるサリエルはベッドに眠る灰色の少女について聞く。
 「いつも通りだ。おかしくはあるまい?」
「そうだ、おかしいことではない、しかしあれは堕天する直前、どうしろと?」
 顔色声色共に平坦だが、疑問符の意図が何故かはっきりと分かる、そんな話し方でサリエルは更に問う。
 「しかし、天使のサンプルは私としてはとても貴重だな、実験として悪魔である私と交尾でもさせるか?」
 「君は女性だろう?」
 「女性的な身体でない。」
幼い身体をゆらゆら揺らしてそう答える。ジョークのつもりなのだろうが、魔王はあまり面白いとは感じなかった。
 「兎に角、どう管理するかは魔王次第だが、この場所を使うなら許可を取れ。」
 「善処しよう。」
患者が居ないからと許可なしに寝かせた魔王を咎めるように叱るサリエルの思考には、魔力点滴を行っているにも関わらず一向に満タンにならない天使の魔力量に対する疑問がチラついていた。魔王は堕天する前の状態で無理やり呪いの塊を抜き出したと言っていた。見た目は紛れもなく天使のその少女の中身は既に魔獣のような強大な魔力に支配されているのではないかという懸念を飲み込み視線を魔王に戻す。
 「魔王、我々は天界とは戦争中だ、魔王城の中心部に堕天してきた天使、というのは、一つの核兵器という見方が出来ないか?」
 「神が、兵器として天使を堕天させてここに降ろしたと?」
 「広い地上の中で、ピンポイントで此処に降って来るとは思えないな。」
 「つまり言いたいことは?」
 「彼女が堕天しきった時、何が起こるはずだったのだろう?という事。先程から魔力点滴を行っているが一向に満タンにならない。アレは強力な核爆弾だと、アレが墜ちたら魔界は大変なことになるかも知れないと、そうは言えないか?」
  魔王は神に対する不信感をさらに深める 。それが本当だとしたら、神は天使をモノとして捉えているということだ。消費もいとわず大量の弾薬として取られているのなら、危険であるし何より、
「胸糞が悪い。考えたくもないな。」
「だろう?対策を今の内に立てておきたい。会議を開いておいたほうが良さそうだとは思わないか?」
「ふむ…」
「今必要なのは、焦りと、思考だ。」
魔王は一呼吸おくと口を開いた。
 「会議を開く、今日の十時から、予定は一時間、素早く終わらせる。場所は大広間、そう幹部に伝えて欲しい。私からも招集をかける。」
 「プレゼン資料くらい作っておけ。」
魔王は頷いた。
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