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青崎真司郎とお祭り

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街を歩いていると妙に騒がしいことに俺は違和感を覚えた。まるでパレードでも始まるかのような雰囲気だ。
「なあ星宮、今日祭りでもあんのか?」
「祭り? んー、そんなのなかったと思うけど。」
「そっか。」
気のせいだろうか? と思いつつも納得のいかないまま目的地に着く。といっても星宮と2人きりでデートスポットへというわけではなく、この1ヶ月通い続けた病院だ。 もしデートスポットだったら今頃堀川に闇討ちされているところだろう。
「今気づいたけど俺が入院してたのもこの病院だから俺すごい比率でここにいるわ。」
「そうなんだ? まあ病院っていったらここだからね。全40階建ての街が経営する大病院。」
軽くこの病院について星宮から教えてもらっていると知った顔が奥の方からこちらに走ってくる。もちろん白松だ。
「おまえら来るのが遅えよ!」
「おう白松、退院おめでとう。」
「いいから早く行くぞ。始まっちまうだろうが。」
「行くってどこに行くのよ?」
「今日行くとこなんて1つしかねえだろうが。
上位ランカー戦だよ!」

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上位ランカー戦。上位ランカーと呼ばれるランキングトップ20の中に入っている者同士が行うランキング戦のことであり、その様子は観覧無料の席が設けられたり、テレビ中継されたりなど一大イベントとして知られている。
「上位ランカーってのは常にランキング戦を挑まれ続けてて、予約制なんだ。だから予約一杯同士の上位ランカーの戦いは滅多に起きない。今回も1年半ぶりくらいだ。」
「上位ランカー戦今日だったんだ。すっかり忘れてたわ。」
一年半ぶりということは俺の記憶上には存在していない。だが星宮たちの様子から察するにこのイベントは誰もが注目するもののようだ。 人の波に流されていくと目の前には超巨大な建物が現れた。
「……あの、会場ってまさか。」
「ランキング戦やるんだから場所はシステムに決まってんだろ。」
「システムって中入れるもんなんだ!?」
軽い衝撃だよこれ。俺完全に孤立された謎の塔ってイメージだったんだからね? 俺のファンタジーを返せ。
システムからはずらりと長蛇の列が伸びている。どこのジェットコースターだよマジで。
これを並びきらなければならないとはなかなか忍耐力が必要そうだ。というか、この人数が入る会場ってどんだけ馬鹿でかいのだろう。そんなことを考えていると俺はある匂いに気がついた。
「……金か。」
よく見るとセレブそうなおじさまおばさまは列からはみ出て係員に誘導されている。大方VIP席にでも案内されるのだろう。
「賭けだ。上位ランカー戦は莫大な金が動く賭け事でもある。あんなリッチそうに歩いてる爺さん婆さんも帰りには借金抱えてビクビクしながら歩いてるかもな。」
「そりゃさぞかし楽しそうなイベントだ。」
奥に行くVIP客を見ながら俺は呟いた。
あそこまで堂々とギャンブルを行えるということはこの街が関与しているということか。
「何難しそうな顔してんだよ。それより今日の試合はちゃんと見ておいたほうがいいぞ?ランキング5位 常坂雄馬(とこさかゆうま) 能力ブラックホール。 ランキング12位 通山綱吉(とおりやまつなよし) 能力ハリケーン。2人とも力でねじ伏せるのを得意とするタイプなだけに激しいバトルになるぜ。」
「詳しいなおまえ。」
「そりゃ強い奴に勝つにはまず相手を知らなきゃならねえからな。上位ランカーには結構詳しくなった。」
目的のための努力なら何だって惜しまず出来るのは白松の最大の長所かもしれない。俺はそんなことを思った。
「おまえも、何を企んでるのか知らねえけど今日の試合は役に立つんじゃないか?」
不意に白松が耳元で囁いた。その瞬間俺の鼓動は速くなり、体に緊張感が走った。
「何のことだ?」
「……別に。おまえがしらを切りたいならそれでいい。俺は星宮のように無神経に何もかもを知りたがりはしないさ。」
「ちょっと。2人で何話してるの? そーゆーのすごく気になるんだけどな。」
「何でもー? ただ星宮って若干ツンデレが入ってて美味しいよなって話してただけだ。」
不服そうな顔をする星宮に白松はテキトーなことをいって誤魔化す。
俺はその様子を見てもいつものようには笑えずにいた。

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ーーー青崎たちから少し離れた場所。
「ターゲットを捕捉しました、隊長!」
「青崎……真司郎!!」
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