21 / 31
花瓶
しおりを挟む
夕食の時間。
フィオラはふらふらとしながら食堂に向かった。
やたらと広い食堂の、やたらと長いテーブルの席になんとか座る。
昼食の時はフィオラの分の食器だけだったが、今は二人分の食器が用意されていた。言うまでもなくニコライの分だろう。
程なくしてニコライが食堂に現れた。先に席に着いていたフィオラを見て表情を固くする。
「悪い。遅くなったな」
それだけ言うと、無言のまま食事が始まった。
ヒューゴのしごきに疲れ切っているフィオラは、食べ物を口に運ぶことに必死だ。壁際に立つヒューゴが、フィオラの一挙手一投足に眉をぴくぴくさせていることなど気付きもしない。
『フィオラ』
レイに呼ばれてフィオラが顔を上げ、レイを見上げる。 レイは何か言いたそうに、ちらちらとニコライに視線を向けていた。
何だよ。と、フィオラは眉を顰めてしまってから、レイから頼まれ事をされていた事を思い出した。
「……あ」
「……あ?何だ?」
思わず呟いたフィオラに反応して、ニコライがフィオラを見る。
「あっ、と……えと、庭の花を部屋に飾りたいんだけど……」
「……好きにすれば良い。ヒューゴ、ゲーギに伝えておいてくれ」
ヒューゴがニコライに応えるように頷いた。
ゲーギとは、あの庭師の事だろうか。 フィオラは茶色い熊のような男を思い出して笑いそうになった。
『フィオラ、花瓶もです』
レイが焦ったように言う。
そんなに花瓶を気に入ったのか。
フィオラにとってはどうでもいい事だが、ここで断ればレイはまた気に入った花瓶を見に覗きに行くのだろう。 姿が見えないとしても、きまりが悪い事には違いない。
「それと、公爵の部屋の花瓶を貸してくれる?その花瓶に花を飾りたいんだけど……」
『白地に金の意匠です』
すかさず、レイが追加注文してくる。面倒臭いがそれも伝えた。
「ああ、そう……白地に金のやつ」
「……え」
「え?」
びくっと肩を揺らして、ニコライがフィオラを凝視した。 睨むように凝視され、フィオラもびくっと肩を揺らす。
ニコライは、よく睨んでくる男だと思っていたが、まさかこんな事で睨まれるとは思っていなかった。花瓶を借りるのがそんな驚く事だとは思っていなかったのだ。
だが、ニコライのこの反応を見る限り、不味い事を言ってしまったような気がしなくもない。
もしかしてニコライの大事な物だったのか、それとも貴族の間では主人の物を借りる行為は問題があるのかとフィオラは戸惑う。
「もしかして、不味い事だった?別に無理とは言わないけど」
「あ……いや、そうでは……何故……いや、花瓶くらい好きに使ってくれ」
ニコライは、はっとした様子でそう言ったが、動揺をしているのかカトラリーを取り落としている。
「旦那様?」
ニコライの態度を不審に思っているのはフィオラだけではなかったようだ。ヒューゴが新しいカトラリーを渡しながら声を掛けた。
「何でもない……ニコライ、俺はもう休む。フィオラ、あなたはゆっくりしてくれていい」
そう言い残し、ニコライは食堂を後にした。
ヒューゴは訝しげな目でフィオラを見やり、何か言いたげであったが、何も言わずニコライの後を追った。
「な、何だったんだ?」
フィオラはレイを見る。
だがレイに分かるわけないのだろう。レイは無言で肩を竦めていた。
フィオラはふらふらとしながら食堂に向かった。
やたらと広い食堂の、やたらと長いテーブルの席になんとか座る。
昼食の時はフィオラの分の食器だけだったが、今は二人分の食器が用意されていた。言うまでもなくニコライの分だろう。
程なくしてニコライが食堂に現れた。先に席に着いていたフィオラを見て表情を固くする。
「悪い。遅くなったな」
それだけ言うと、無言のまま食事が始まった。
ヒューゴのしごきに疲れ切っているフィオラは、食べ物を口に運ぶことに必死だ。壁際に立つヒューゴが、フィオラの一挙手一投足に眉をぴくぴくさせていることなど気付きもしない。
『フィオラ』
レイに呼ばれてフィオラが顔を上げ、レイを見上げる。 レイは何か言いたそうに、ちらちらとニコライに視線を向けていた。
何だよ。と、フィオラは眉を顰めてしまってから、レイから頼まれ事をされていた事を思い出した。
「……あ」
「……あ?何だ?」
思わず呟いたフィオラに反応して、ニコライがフィオラを見る。
「あっ、と……えと、庭の花を部屋に飾りたいんだけど……」
「……好きにすれば良い。ヒューゴ、ゲーギに伝えておいてくれ」
ヒューゴがニコライに応えるように頷いた。
ゲーギとは、あの庭師の事だろうか。 フィオラは茶色い熊のような男を思い出して笑いそうになった。
『フィオラ、花瓶もです』
レイが焦ったように言う。
そんなに花瓶を気に入ったのか。
フィオラにとってはどうでもいい事だが、ここで断ればレイはまた気に入った花瓶を見に覗きに行くのだろう。 姿が見えないとしても、きまりが悪い事には違いない。
「それと、公爵の部屋の花瓶を貸してくれる?その花瓶に花を飾りたいんだけど……」
『白地に金の意匠です』
すかさず、レイが追加注文してくる。面倒臭いがそれも伝えた。
「ああ、そう……白地に金のやつ」
「……え」
「え?」
びくっと肩を揺らして、ニコライがフィオラを凝視した。 睨むように凝視され、フィオラもびくっと肩を揺らす。
ニコライは、よく睨んでくる男だと思っていたが、まさかこんな事で睨まれるとは思っていなかった。花瓶を借りるのがそんな驚く事だとは思っていなかったのだ。
だが、ニコライのこの反応を見る限り、不味い事を言ってしまったような気がしなくもない。
もしかしてニコライの大事な物だったのか、それとも貴族の間では主人の物を借りる行為は問題があるのかとフィオラは戸惑う。
「もしかして、不味い事だった?別に無理とは言わないけど」
「あ……いや、そうでは……何故……いや、花瓶くらい好きに使ってくれ」
ニコライは、はっとした様子でそう言ったが、動揺をしているのかカトラリーを取り落としている。
「旦那様?」
ニコライの態度を不審に思っているのはフィオラだけではなかったようだ。ヒューゴが新しいカトラリーを渡しながら声を掛けた。
「何でもない……ニコライ、俺はもう休む。フィオラ、あなたはゆっくりしてくれていい」
そう言い残し、ニコライは食堂を後にした。
ヒューゴは訝しげな目でフィオラを見やり、何か言いたげであったが、何も言わずニコライの後を追った。
「な、何だったんだ?」
フィオラはレイを見る。
だがレイに分かるわけないのだろう。レイは無言で肩を竦めていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる