奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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魔力がないということ

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『フィオラ。横領とは泥棒みたいなものです』 

 口を開けたまま疑問符を浮かべているフィオラに、レイがこそっと補足する。 

「なっ……!!じゃあ、そのせいで公爵は公爵になって、えっと……宰相にはなれなくて、魔法騎士団に入団したの?」 

「それは、違います。宰相が投獄されたのは半年ほど前の事で、団長が入団したのは更に前、四年くらい前の事だったと思います」 

 どちらにしても、身内が犯罪を犯して捕まってしまった事には変わりない。 
 周知の事とはいえ、あまり良い話ではない。自分が話したという事は内緒にしてくれとフィオラは念を押された。 
 そうか。と、頷いてみたものの、フィオラは「ん?」と、首を捻る。 

「でもさ。それって、捕まったのはおじいちゃんだけで、孫である公爵は大丈夫だったの??」 

 宰相が横領したとなれば、それは国のお金を盗んだということでもある。個人が罰せられるだけで済む話だろうか。 

「そりゃ、団長が告発したんですから!だから、お咎めなしなんです」 

 なぜか新人騎士がドヤ顔で言う。 
 やはり、つばは飛んだ。
 さり気なくそれを拭うフィオラに何かを察したのか、中堅どころの護衛がこれまたさり気なくフィオラにハンカチを差し出した。 

「自分のおじいちゃんを……?」 

「そうです!例え身内であろうと、悪を見逃さない。流石団長です!」 

 ハンカチで顔を拭うフィオラに何も察しない鈍感な新人は、嫌がらせのように構わずつばを飛ばし続ける。 
 腹から声が出ているのは、流石、騎士と言うべきか。 
 今聞いた話は初めて聞く内容のはずなのだが、フィオラはどこかで聞いたような気がして「あれ?」と、首を傾げた。 

「ちょ、お前っ、静かにしろ!」 

 まだ語り足りないのか、勢いに乗って立ち上がりかけた新人を、慌てて両側の二人が押し留めていた。
 そして、人々が行き交う広場の様子を窺い声をひそめる。 

「領地であっても、平民には正確には情報は伝わっていないのが事実なんです。先代宰相は領民の前では善良な領主だったらしいんで……だから、中には団長を悪く言う人間もいる」 

「しかも、その横領を静観していた者も含め、加担した使用人を解雇したもんだから……」 

 二人は、何ともいえない表情で説明してくれた。 

「ほぼ全員解雇したって事?あ……だから、冷酷な公爵?」 

 顔を見合わせ、苦い顔で護衛たちが頷く。 
 それならば、フィオラも思い当たる節があった。 

 だから屋敷には使用人がいないのか。 

 何も知らない領民からしたら、罪もない実の祖父を投獄し、気に入らない使用人はすぐに解雇する暴君の様に映るのだろう。 
 だからフィオラを使用人だと思い込んだ食堂の女将は、フィオラを不憫に思ったのかもしれない。


「どうして噂を否定しないんだろ」 

「初めは前公爵の罪も含めて説明したそうですよ。でも、今はまだ……領地では難しいかもしれないですね」 

 罪を犯したことが信じられないほど、前公爵は領民に信頼されていたということだろうか。 

「悪い事をしたのは祖父さんなのに……なんか、可哀相だな。でも、魔法騎士団の皆は公爵を慕っているんだろ?」 

 フィオラはニコライが不憫に思えた。
 それでも、真実を理解している者が身近にいるのは救いだ。 そう思ったのに、護衛たちは何とも言えない表情で顔を見合わせる。 

「え……違うの?」 

「いやいや!違うと言うか……その……」 

 最年長の護衛が言葉を濁す。 

「もう!はっきり言ってよ!」 

 言わないなら言わないでいいから、態度に出さないで欲しい。 気になるじゃないか。 フィオラは、ぷうと頬を膨らませた。

「そうですね……一応、お嬢様にもご理解頂いていた方がいいでしょう……」 

 フィオラにせっつかされる形で、「私どもはそう思ってません」と、前置きをし、護衛が口を開いた。 

「一般的に、魔力を持たない人間をこの国ではよしとしません」 

 それはフィオラでも知っている。 仕方のないことなので素直に頷く。

「それは、当然、魔法騎士団であっても……領民であっても……です」

「………」 

 今更、何を言うのかと思っていたフィオラは絶句した。

 もしかして、騎士団でも立場が悪い? 
 悪い噂が消えないのも、魔力無しの私を妻に迎え入れようとしているから? 

「お嬢様!でも、我々は……ここにいる我々は、違いますから!」 

「そうです!我々は団長から直々に頼まれてここにおります」 

「いや、頼まれなくとも、来てますって!」 

 護衛たちは、顔面蒼白になるフィオラに、慌てて言い募る。 
 フィオラはゆっくりと視線を上げ、護衛たちの顔を一人ひとり見つめた。 皆、フィオラを案ずるような眼差しをしている。新人騎士は口を真一文字に結び黙っていたが、その瞳は潤み、拳をぷるぷるとさせている。 

 護衛が、この四人なのも…… 
 屋敷に使用人が少ないのも…… 

 私の所為だ。 

 それだけ、魔力を持たない人間を受け入れられる人間が少ないという事だ。
 いや、これでも多いのかもしれない。 

 フィオラは、改めて自身の立場に言葉を失っていた。











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