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覗き窓
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キンバリーがいるという隣の留置室を見ると、成る程、二人が取り付けていたのと同じ様な扉があった。鉄格子が嵌められた覗き窓がある。
こんな頑丈そうな扉が、どうして壊れたのだろう。 もしかしたら、キンバリーが暴れたのか。
「そこから覗くだけにして下さい」
「………」
ベスターに言われて、フィオラは覗き窓を見上げた。
「……どうぞ」
覗き窓を見上げていたフィオラの足元に、ウォーリーがどこから持って来たのか、そっと木箱を置いた。
なんと察しのいい男なのか。
フィオラの身長では覗き窓に届かなかったのだ。
「……ありがとう」
フィオラは恥ずかしさ半分でお礼を言うと、フィオラの膝丈程の木箱を踏み台にして窓を覗き込んだ。
隣の留置室と内装は同じらしく、中には固そうなベッドが一つ。そこにキンバリーは横になっていた。
こんな所に入れられてさぞや反省して項垂れているかと思えば、そんなことはなさそうだ。すやすやと寝息を立てている。
「……寝てる」
「本当にムカつきますよね!」
ベスターが「ふんっ」と、鼻を鳴らし、「がんっ」と、音を立てて扉を蹴り飛ばした。
反省している、してないに関わらず、こんな賑やかな所でよく寝ていられるものだ。
しかし、扉を蹴り飛ばされては流石に目が覚めたのか、キンバリーは「ふがっ?」と、鼻を鳴らして目を開けた。
寝惚けた様子で辺りを見渡したキンバリーと、覗き窓から様子を観ていたフィオラはばっちりと目が合ってしまった。
「この悪女めっ!どうやって生きて帰ってきたのかは知らないが、残念だったな!団長は、お前とは結婚しない!赤の魔女と結婚するんだ!」
「「「……へ?」」」
目が合った途端キンバリーがフィオラを睨み付け、喚き出した。
寝起き直後によく舌が回るもんだと感心しつつ、だがしかし、その内容にはフィオラだけでなくウォーリーとベスターも目が点である。
「え、と……何だって?」
「残念だったな!」
「そこじゃなくて……」
「団長は、お前とは結婚しない!」
いや、そこでもなかったんだけど。
律儀に聞き返した事に返してくれたが、残念ながら聞きたかったのはそこではない。どこから、魔女の話が出て来たのかであった。
「え、と……公爵が、そう言ったの?」
「いや、言ったのは俺だ」
「は?」
どやっ。と、胸を張るキンバリーに、フィオラは状況が飲み込めない。
確かにおかしな契約書を交わしてはいるが、ニコライがそれをキンバリーに伝えるとは思えなかった。
振り返ると、ウォーリーとベスターも戸惑い半分といった様子で何とも言えない顔をしていた。
「魔力なしの分際で、団長に取り入ろうとするとは……お前の様な人間は生きる価値もない!」
「っ!キンバリーっ!!お前は、本当にっ……いつから、そんな事を言うような奴に……」
キンバリーの心ない言葉に耐え兼ねたのか、ベスターが扉を「がしゃんっ」と、激しく叩く。
フィオラだけでなく、ベスターもこの場にいることに気付いたキンバリーは、呆れた顔を扉の向こうに向けた。
「ベスターか、お前こそどうかしてる。団長が望まない結婚を強いられて……しかも、無能な醜女を押し付けられてるんだぞ。どうして、平気でいられるんだ?」
「……キンバリー」
扉を挟んでのやり取りだったが、恐らくこのやり取りは初めてではないのだろう。
ベスターは一度口を開きかけたが、直ぐにぎゅっと口を結ぶ。そして、諦めた様に、すんと表情を無くした。
「団長は優しいから、お前の処分はしないそうだ。団長の事は諦めて、おとなしくここから出て行け」
フィオラに視線を戻したキンバリーが、当たり前の様に言う。
いったい誰の何の処分の話をしているというのか。キンバリーは自分の立場を理解していないらしい。
ベスターの、裏切られたと感じる気持ちがよく分かった。
ニコライがフィオラの護衛に選ぶくらいだ。きっと、キンバリーは今までは魔力で人を判断するような人間ではなかったのではないだろうか。 ウォーリーも、ベスターも、きっとそういう人間なんだろう。
だけど、キンバリーの本音は。
ここでの発言が真実、キンバリーの心にあるものだとしたら。
「……今のあんたが、本性なんだね?」
「本性?何を言ってるんだ?俺は、ずっとこうだ」
それを聞いたベスターが、顔を歪めた。
手前勝手に優劣を決め、その人間の価値を測る。 そんな世界はおかしいと、フィオラはずっと思っていた。
ここに来て、もしかしたら、そんなふうに考えているのは自分だけではないのではないかと思えるようになっていたのに。
ああ、そうか。
ベスターは、悔しかったのか。
それが自分の慧眼のなさに対してなのか、それともキンバリーの変化に自分が気付けなかったことに対してなのか。それは、分からない。
フィオラは、レイがもし、キンバリーと同じ様に、突然今までと全く違う価値観を持っていたと知ったら、裏切られたという気持ちと同時に、自分を責めてしまう気がした。
こんな頑丈そうな扉が、どうして壊れたのだろう。 もしかしたら、キンバリーが暴れたのか。
「そこから覗くだけにして下さい」
「………」
ベスターに言われて、フィオラは覗き窓を見上げた。
「……どうぞ」
覗き窓を見上げていたフィオラの足元に、ウォーリーがどこから持って来たのか、そっと木箱を置いた。
なんと察しのいい男なのか。
フィオラの身長では覗き窓に届かなかったのだ。
「……ありがとう」
フィオラは恥ずかしさ半分でお礼を言うと、フィオラの膝丈程の木箱を踏み台にして窓を覗き込んだ。
隣の留置室と内装は同じらしく、中には固そうなベッドが一つ。そこにキンバリーは横になっていた。
こんな所に入れられてさぞや反省して項垂れているかと思えば、そんなことはなさそうだ。すやすやと寝息を立てている。
「……寝てる」
「本当にムカつきますよね!」
ベスターが「ふんっ」と、鼻を鳴らし、「がんっ」と、音を立てて扉を蹴り飛ばした。
反省している、してないに関わらず、こんな賑やかな所でよく寝ていられるものだ。
しかし、扉を蹴り飛ばされては流石に目が覚めたのか、キンバリーは「ふがっ?」と、鼻を鳴らして目を開けた。
寝惚けた様子で辺りを見渡したキンバリーと、覗き窓から様子を観ていたフィオラはばっちりと目が合ってしまった。
「この悪女めっ!どうやって生きて帰ってきたのかは知らないが、残念だったな!団長は、お前とは結婚しない!赤の魔女と結婚するんだ!」
「「「……へ?」」」
目が合った途端キンバリーがフィオラを睨み付け、喚き出した。
寝起き直後によく舌が回るもんだと感心しつつ、だがしかし、その内容にはフィオラだけでなくウォーリーとベスターも目が点である。
「え、と……何だって?」
「残念だったな!」
「そこじゃなくて……」
「団長は、お前とは結婚しない!」
いや、そこでもなかったんだけど。
律儀に聞き返した事に返してくれたが、残念ながら聞きたかったのはそこではない。どこから、魔女の話が出て来たのかであった。
「え、と……公爵が、そう言ったの?」
「いや、言ったのは俺だ」
「は?」
どやっ。と、胸を張るキンバリーに、フィオラは状況が飲み込めない。
確かにおかしな契約書を交わしてはいるが、ニコライがそれをキンバリーに伝えるとは思えなかった。
振り返ると、ウォーリーとベスターも戸惑い半分といった様子で何とも言えない顔をしていた。
「魔力なしの分際で、団長に取り入ろうとするとは……お前の様な人間は生きる価値もない!」
「っ!キンバリーっ!!お前は、本当にっ……いつから、そんな事を言うような奴に……」
キンバリーの心ない言葉に耐え兼ねたのか、ベスターが扉を「がしゃんっ」と、激しく叩く。
フィオラだけでなく、ベスターもこの場にいることに気付いたキンバリーは、呆れた顔を扉の向こうに向けた。
「ベスターか、お前こそどうかしてる。団長が望まない結婚を強いられて……しかも、無能な醜女を押し付けられてるんだぞ。どうして、平気でいられるんだ?」
「……キンバリー」
扉を挟んでのやり取りだったが、恐らくこのやり取りは初めてではないのだろう。
ベスターは一度口を開きかけたが、直ぐにぎゅっと口を結ぶ。そして、諦めた様に、すんと表情を無くした。
「団長は優しいから、お前の処分はしないそうだ。団長の事は諦めて、おとなしくここから出て行け」
フィオラに視線を戻したキンバリーが、当たり前の様に言う。
いったい誰の何の処分の話をしているというのか。キンバリーは自分の立場を理解していないらしい。
ベスターの、裏切られたと感じる気持ちがよく分かった。
ニコライがフィオラの護衛に選ぶくらいだ。きっと、キンバリーは今までは魔力で人を判断するような人間ではなかったのではないだろうか。 ウォーリーも、ベスターも、きっとそういう人間なんだろう。
だけど、キンバリーの本音は。
ここでの発言が真実、キンバリーの心にあるものだとしたら。
「……今のあんたが、本性なんだね?」
「本性?何を言ってるんだ?俺は、ずっとこうだ」
それを聞いたベスターが、顔を歪めた。
手前勝手に優劣を決め、その人間の価値を測る。 そんな世界はおかしいと、フィオラはずっと思っていた。
ここに来て、もしかしたら、そんなふうに考えているのは自分だけではないのではないかと思えるようになっていたのに。
ああ、そうか。
ベスターは、悔しかったのか。
それが自分の慧眼のなさに対してなのか、それともキンバリーの変化に自分が気付けなかったことに対してなのか。それは、分からない。
フィオラは、レイがもし、キンバリーと同じ様に、突然今までと全く違う価値観を持っていたと知ったら、裏切られたという気持ちと同時に、自分を責めてしまう気がした。
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