奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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留置室

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 フィオラは、勢いで三階に向かっていた。 
 こういう時、屋敷の使用人が少ないというのは都合が良い。誰に咎められる事なく、フィオラはとことこと階段を上る。 

「レイ。キンバリーがどこにいるか分かる?」 

『どうして、私が知っていると思ったのです?』 

 一階、二階が広ければ、当然三階も広い。 思いの外、部屋数も多そうだ。 階段を上りきったところで、フィオラは廊下を見渡した。 
 三階は主に使用人が使うらしく、他に比べると部屋の扉や廊下、壁の作りが簡素だった。 
 こういう時、屋敷の使用人が少ないというのは都合が悪い。どこに何があるのか、誰にも訊けない。 
 しかし、フィオラが迷ったのは、その一瞬だけだった。 すぐに廊下の奥に人の気配を感じた。と、いうか、話し声がする。ちょっと賑やかなくらいだった。 

「あ、そっか。見張り」 

 キンバリーを閉じ込めているなら、それを見張っている者がいるはず。
 しかし、それにしては少し賑やか過ぎやしないか。 訝しく思いながらフィオラは、声のする方へとそっと歩を進めた。 

「……まったく、もう。何で俺等がこんなことまでしなくちゃなんないんですか!」 

「まあ、まあ。これも、物のついでだと思えばいい」 

 廊下の奥の方にいたのは、フィオラが外へ出た時に護衛をしてくれていた内の二人。 

『何でしょうね。扉を取り付けているみたいですね』 

 レイに言われてよく見ると、どうやら部屋の扉を直しているらしく、真新しく見える扉を部屋に取り付けているところだった。 
 大きな声で文句を言っているのは、確かベスターという男だったはず。 それを宥めているのは、一番年上のウォーリーだ。 
 何をやっているんだろう。と、思わずボケッとしていると、二人はフィオラがいることに気が付いた。 

「おや、お嬢様。こんなところで、どうされたのですか?」 

 ウォーリーがさして驚いた様子もなく身を屈め、まるで幼子を相手にするような声色でフィオラに尋ねた。 実際、フィオラは幼児体型である。子供だと思われていても仕方がなかった。 

「あ、えーと……キンバリー、どこ?」 

 ウォーリーの対応にフィオラもつられて子供の様な話し方になる。レイが『ぶふっ』と、吹き出した。 

「キンバリー、ですか?」 

 ウォーリーが、きょとんとして目を瞬かせた。 この時フィオラは、吹き出したレイに不機嫌そうな顔を向けていた。ウォーリーにそれがどう映っていたのかは定かではない。 

 そういえば、面会は禁止されてるかもしれないんだった。 

 追い返されるかな。と、訊いてしまってから思ったが、ウォーリーは苦笑しながら隣の部屋を指差した。 

「キンバリーなら、隣の留置室に引っ越しましたよ」 

「引っ越し?」 

「まあ、色々とありまして」 

 フィオラは首を捻る。 
 部屋を覗くと、成る程ここが留置室かと納得した。
 狭い空間に、固そうなベッドが一つ。 
「色々」が何なのかは分からないが、この二人が留置室の扉を取り付けているところだったということは分かった。 

「ところで、その隅にある鉄の塊みたいな物は何?」 

 フィオラは部屋の隅に不自然に置かれていた塊が気になって仕方がなかった。
  板状の物をぐしゃぐしゃに丸めた様な形のそれは、置き物にしても不細工な感じだ。 

「これは『色々』の内の一つです」 

「何、言ってんですか。これが『全て』でしょうよ」 

 苦笑しているウォーリーに、不機嫌を隠す事なくベスターがつっこみを入れた。 そして、その表情のまま、ベスターはフィオラに言った。 

「お嬢様。まさかとは思いますが、キンバリーの面会に来たわけではないですよね?」 

 そのまさかなのだが、やっぱり禁止されているのだろうか。 どう答えるべきかフィオラが言い淀んでいると、ベスターが大袈裟なくらい大きな溜め息を吐いた。 

「悪い事は言わないです。お嬢様はあんな奴と関わらない方が良いです。そもそも、会ってどうするのですか、気分が悪くなるだけですよ?」 

 被害を被ったフィオラよりも、何故かベスターの方がキンバリーに対して怒っているような気がする。 

「ただの、ちょっと陽気な団長おたくだと思っていたのに、あんな訳の分からない奴だとは思わなかった!」 

 鼻息が荒くなってきたベスターを、ウォーリーが宥めながらフィオラに困り顔を向けた。 

「ベスターはキンバリーと特に仲が良かったので、少々気が立っているんですよ。うるさくて申し訳ございません」 

 裏切られた気持ちが拭えないようで、困ったもんです。と、ウォーリーが眉尻を下げた。 そう言った後、ウォーリーはふと真面目な顔になった。 

「ですけどね、お嬢様。ベスターの言う通り、キンバリーと会ったら嫌な思いをするかもしれません。もし、面会に来たのならお止めになった方が良いです」 

 それまで、暇つぶしくらいの気持ちでいたフィオラだったが、そこまで言われると逆に気になってきた。 それに、面会は特に禁止されているわけではないらしい。 

「そんなに言うなら、会ってやろうじゃない!」 


 どうして、そうなったんだろう。 


 何故か、俄然やる気のようなものをみせているフィオラに、ウォーリーとベスター。それと、レイの表情は、そう物語っていた。








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