奴隷落ちを免れた令嬢は生きるために奮闘する。~いつかまた、アネモネの咲く丘で会いましょう〜

珠音

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夢の中??

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 ずるい、ずるい。と、言うばかりでは話が始まらないし、進まない。 
 フィオラにじろっと睨まれ、キンバリーはずびっと鼻をすすった。 

「夢の中だから、言ってもいいっすよね」 

 決して夢の中ではないのだが、少し落ち着いたキンバリーはぽつぽつと話し始めた。 

 基本として、人は一つないし二つの魔力元素を持って生まれる。そして、体内にある元素は、生涯変わることはなく、その量が増えることもない。 
 平民であるキンバリーは、平民としては珍しく貴族に匹敵するほどの魔力量を持って生まれた。 
 この国では、魔力さえあれば平民であっても門戸は広い。その為、魔力量が多少でも多い平民は皆、王宮の魔法騎士を目指した。何しろ王宮所属ともなれば、お給金は平民が貰うそれの数倍となる。 
 キンバリーが王宮所属の魔法騎士を目指したことも、さほど珍しい話ではなかった。 

「……んで?それの何が、ずるいのさ?」 

 キンバリーを見る限りでは、目指した通りの魔法騎士になれていると思う。 

「話はここからっす」 

 話の腰を折るなと言わんばかりにキンバリーはフィオラを睨んだ。フィオラは、レイと視線を合わせて「そうですか」と、肩を竦める。 

「団長は……団長になる前は、俺とそれ程変わらなかったはずなんす!」 

 魔力重視のこの国のこと。魔法に秀でていれば、自ずと幼少の頃から話題に上る。それで言えばニコライは、さして目立つ存在ではなかった。 

 気紛れで魔法騎士を志願した貴族のお坊ちゃん。 

 キンバリーから見たニコライの印象はそんな感じだった。 

「へー……、あんたはニコライを敬ってるんだと思ってたけど?」 

「そう思い込まなくちゃ、やってられなかったんす!!今は夢の中だから何を言っても許されるんす!」 

「夢の中ではないけどな?!」 

 フィオラは念の為つっこみを入れてみたが、当然の如くキンバリーは聞いてはいない。 
 平民にも門戸を開いている王宮魔法騎士団であるが、しかし少しでも能力が劣れば平民など簡単に切り捨てられてしまう。キンバリーは、それはそれは必死で技を磨いたのだという。 
 それなのに魔力量も大したことのない、ぽっと出のニコライがあっという間に団長にまで成り上がった。 

「絶対……何か裏で取り引きとかがあったんす!貴族ってのは汚いもんなんす!」 

「ああ、だからずるいってこと?へー……じゃあ、ニコライは実力はないってことなんだ?」 

「……あるっㇲ」 

「あるんかいっ!」 

 じゃあ、ずるくないじゃないか。 
 真面目に話を聞こうとしていたフィオラは、結局はただの嫉妬だということに馬鹿馬鹿しくなってきた。 

「だって……魔力量は大差ないはずだったのに……元々の実力が違ったんだ。凄い人だったんだって思い込まなくちゃ、死ぬ思いで頑張って来た自分が惨めになるっㇲ」 

 だから、ニコライを盲信しているフリを??何故??凄いなら、ただ素直に凄いって思うだけで良くないか?? 

 キンバリーという人間が、本当に分からない。 

 フィオラの頭には疑問符が飛びまくっていた。 

「あんた……ひねくれてるって、よく言われないか??」 

「俺だって、よく分かんねぇんすよ!でも団長のあんな、属性もよく分かんないような魔法の使い方……きっと、悪魔と取り引きしてるに違いないっす!」 

「悪魔って……」 

 とうとう悪魔まで出て来たよ。 
 キンバリーの言い分に、フィオラは苦笑した。 キンバリー自身、ニコライに対しての本当の感情は分かっていないらしいが、嫉妬していることは間違いないようだ。 

「そんなにニコライを嫌ってるのに、何で私と結婚させたいわけ?」 

「どこにいるかも分からないあなたと結婚出来るわけがないから」 

「ん?」 

「好きな女と破談になればそれで良いんす。何で団長ばっかり幸せになるんすか」 

「んん?」 

 つまり、ニコライの幸せを妬んだ結果、フィオラを消そうとしたということか。それも、さもニコライを想っている風を装って。 

「あんた……やべー奴だって、よく言われないか??」 

 ここまでのやり取りを見ていたレイが、したり顔で『ふむ』と、頷いた。 

『フィオラ、どうやら……これは、フィオラの責任かもしれませんね』 

「はっ?!何でだよ?!」 

 キンバリーが見ているのも構わず、フィオラはレイに向かって声を上げていた。 

『あなた……彼に何を教えたか、覚えてます?』 

 レイの言う、彼というのはニコライのこと。 
 フィオラは数年前にニコライと出会い、そして魔法の基礎を教えた。 フィオラとしてはニコライに教えてやるつもりは毛頭なかったのだが、あまりにもニコライがしつこかったので渋々といった感じだった。 

「あー、覚えてるけど。それが?」 

『フィオラにも使える魔法を教えたのですよ?』 

「だから、覚えてるってば」 

『……つまり?』 

「え、つまり……?あっ!魔力量も、属性も関係ないや」 

 魔力を持たないフィオラが使える魔法。
 正確には魔法とは言わないのかもしれないが、と、いうことは、方法さえ知っていれば誰でも使えるようになる。と、いうこと。しかも、訓練次第でどこまでも力を伸ばせる。 

「ちょっと……さっきから一人で何を言ってるんㇲか」 

 空を見上げて独り言をしているフィオラを、流石に訝しんだのかキンバリーが微妙な顔をしていた。 

「あ、ごめん、ごめん。何か、ニコライが強くなったのって私が教えたからみたい」 

「はっ?!何すかそれっ?!やっぱり悪魔と取り引きしてたんすね!」 

「おいっ!」 

 フィオラは悪魔ではない。フィオラに教えたレイの正体は、正直どうだか分からないが。 

「昔、ちょっとだけ基礎を教えてあげただけだ」 

「ずるいずるいっ!!」 

 うっかり言ってしまったフィオラに、キンバリーが騒ぎ出す。 

「本当に基礎だけなんだよ。それをどうするかは、本人の努力次第でさ……ニコライが凄いって言われているなら、本人が頑張ったってことだろ」 

「それなら、俺にも教えてくれても良いじゃないっㇲか!!ずーるーいー!!」 

 キンバリーが床に転がり、じたばたと駄々をこね出した。 

 面倒臭いことになった…… 

 次からは、少し考えてから発言しよう。 
 フィオラはひとつ利口になったという。









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