喜楽

喜楽 １ ゴーレムと魔力

１０

「もう！　フェル母さん！」
　向きになるアサギを見て、フェルは吹き出す。
「ごめんごめん冗談よ。でも、ちょっと残念だったかな」
　アサギが何か言おうとするより早く、フェルは立ち上がる。 
「さてと…… 今日は疲れたわね。もう寝ちゃう事にするか……」
　フェルはアサギの方を見て、片目を瞑りにんまりと楽しそうに笑った。
「二人とも早く寝なさいよ。先に寝るから後よろしくね……おやすみ」
　フェルは風牙とアサギの二人の顔を交互に見て大きな欠伸をしていたが、唖然としている二人を残し部屋を出てい
く。部屋の外からフェルと龍鬼の話し声が聞こえる。九とソラ話をしているのかもしれない。
「いつもの事なんですけどねぇ……」
　風牙は溜息を吐くと、アサギと顔を見合わせ苦笑いをした。そんな所に、フェルと話し終わった龍鬼が台所に顔を出す。
「何が楽しいんじゃ?」
　楽しそうにしている二人に釣られて、笑いながら龍鬼は部屋に入ってくる。
「何でもないですよ。ご隠居は、まだお休みになられないんですか?」
　風牙は、微笑みながら龍鬼を見上げる。
「煙草入れを忘れたんでな、取りに来たんじゃ」 
　龍鬼はテーブルの上に置きっぱなしの煙草入れを手に取ると、煙管を煙草入れの中に仕舞う。
「さて、わしも寝ることにするかのお」 
　龍鬼は風牙とアサギに、おやすみを言うと部屋を出ていく。
「さっ、片付けて、今日は寝ましょうか」
　風牙はテーブルの上に置いたままになっている湯飲みなどを片付け始め、アサギも片付けを手伝い始めた。
「うん……今日は、いつもより勉強出来なかったなぁ」
　アサギは片付けが終わると、テーブルに近付き開きっぱなしの本を見ると少し残念そうに本を閉じ、部屋の隅にある本棚に本を戻す。
　家の中の明かりが全て消えたのは、その後少ししてからだった。