雨の庭【世にも奇妙なディストピア・ミステリー】

友浦乙歌@『雨の庭』続編執筆中

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第四章 あの山の向こう

1・新しい発見とは。

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 リビングの大窓からの日差しが明るく、室内は穏やかに陰っていた。ダイニングテーブル越しに膝を突き合わせて、律歌と北寺は昨日走った道を指でなぞって確かめ合う。
「外に出るとどこを向いたって遠くに山が見えているし、山に囲まれた地形なのかなって思ってはいたけど、やっぱりそうだったわね」
「そうだね。北の山のふもとまではここから自転車で走って半日かかる距離だった」
 主婦たち三人組の家を越え、しばらく行ったところに菜の花畑があって、もっともっといくと山にぶつかった。
「東とか南までも行ってみる?」
「景色を見る限りじゃ、山があるだけのような気がするわね」
「それはおれも思うけど」
 律歌はふうとため息をつく。
「あてもなく行ってはみたものの……収穫は、北方面についてちょっと見知っただけね」
 ちらっと北寺の顔を見やると、励ますように微笑まれた。
「いい運動になったけどね。気持ちよかった」
「……徒労って言わないのは北寺さんの優しさかしら」
 付き合わせて申し訳なく思えてくる。
「いや、本当にだよ。りっかとサイクリング楽しかった」
「私は楽しくなんかないわ」
「おや、そう?」
 そう返されてよっぽどへこんだような顔をする北寺。
「そうよ――体が痛いわ」
「大丈夫? きつかったかな」
「ちがうっ、……そ、そうだけど、痛いのは構わないの。痛い思いしたのに何も見つからなかったことが……嫌」
 あれだけ走ったのだ。もっとすごい何かが見つかると期待していた。でも、現実はこんなもんか。
 沈黙して顔を伏せたままの律歌の頭頂部を、北寺が撫でてきた。律歌はその手を振り払って顔を上げる。すると、北寺は困ったように笑って言った。
「何も見つからなかったわけじゃない。――北方面について、ちょっと知っただろう?」
 慰めるためじゃなく、純粋な否定として。
「最北までは、こうなってるって」
「最北……」
 今、律歌と北寺の知りうる限り――まさしくこの小さな世界の最北端だ。
「……そうね。北の果てまで行ってきたのよね。私達」
 律歌が知りたいと思うことを、いつでも詳しく知っている北寺からのその言葉。彼もそうして一つ一つ、知ってきたのだろうか――? 
「うん。次はどうする?」
 北寺の問いかけに、もう顔を上げる。
「どっち方面に行ってもどうせ山にぶつかるなら、今度は山に一番近い方角から攻めていって、登ってしまうのはどうかしら」
「山登りするつもりで行くってこと?」
「そうなるわね。それで、山の向こう側まで行くのよ」
 北寺はふむふむと頷いて、
「ここから山に一番近い方角は――」
「南の方!」
 律歌が地図上を指さす。
「どれくらいの深さかはわからないけど、結構大きな山だったわよね」
 どの方向を向いてもそれなりの山に囲まれている。
「そうだね。山より向こうに行くには、山の中で野宿する必要はあるだろう」
「ええー、そーか、大変……」
「歩いて越えるんだから、そりゃね」
「うーん、じゃ、キャンプ用品買う?」
「必要になる可能性は高いし、まあ買っておいたほうがいいね。使わなければ捨てればいい」
「タダだし?」
「そう。タダだし」
 天蔵はアマトでゴミも回収してくれる。もちろん無料だ。
「マウンテンバイクで山登りかー。一度やってみたかったけど、準備が結構いるだろうなあ」
「ゆっくり準備すればいいじゃない。この筋肉痛もなんとかしたいし」
 天井を仰いでキャンプ用品の数を指折り数えている北寺に、律歌は完全おまかせモード。山を登るとなると、体力回復させねばなるまい。と、思ったものの。
「じゃ、体力つけてね、りっか」
 北寺がにっこりと微笑みかけてくる。
「……えー」
 山を登るには、トレーニングみたいなことをやらないといけないのだろうか。
「休むのも大事だけどね。でも基礎体力はつけたほうがいいよ」
 反論はもちろんない。だが、求められている体力量によっては自信がなかった。ただただ走らされる長距離走みたいなのは嫌いなのだ。
「数日に分けて持てる限りの荷物を持って行って、先に置いておくこともできるからさ。体力作りも兼ねて、しばらくは荷運びなんてのはどう?」
「荷運び?」
「そ。移動手段は徒歩か自転車しかないし、山の近くに店もないからね。でも天蔵でなんでも買えるわけだから、盗んでいく人なんていないだろう? だから先に置いておくのさ」
 荷運びしているうちに、体力もつくというのなら。
「まあ、それなら、頑張る」
「そうと決まれば注文しようか」
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