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Ⅵ 決断は遅きに失し
84. 実はテンション高いでしょう、お父様
しおりを挟む翌日、お父様が帰宅した。
私は何事もなかったかのように暴動の鎮圧を喜び、お父様の尽力を称えた。
私の隣りではお母様が気まずそうにしていたけれど、わざわざお疲れのお父様に報告することでもない。そもそも別に誰が悪いという話でもないのだから。ただ私がちょっと傷ついただけの、ただそれだけの話なのだから。
幸いお父様は、お母様の様子には気づかなかったようだ。お父様は、体を休めることよりもお前たちと話して癒されたいとおっしゃって、私とお母様を連れて談話室へと移動した。
そこでお父様は鎮圧までの経緯について語ってくれた。
暴動は起こったその日から、小規模なものから大規模なものまでいたるところで繰り返され、王宮の兵士たちは休む間もなく駆り出されていた。
厄介なのは全力で叩くわけにはいかないという点。兵士たちが武器を持ち出せば、あっという間に死傷者が膨れ上がるし、何より友好の証としてやってきた彼らを安易に攻撃するわけにはいかなかった。
ゆえに兵士たちは素手やただの棒を片手に、移民たちが手にしている包丁や鍬、箒などをあしらいながら一人ずつ拘束していく。それは非常に危険で、時間のかかる大変な作業だった。
けれど、すぐにそんな余裕はなくなってしまう。どこから手に入れたのか、移民たちが武器を持ち出したからだ。
それでも何とか小競り合いを続けること数日。誰もが最悪の決断――武器を用い武力でもって鎮圧をするしかないと覚悟したその時、一人の救世主が現れた。
ボロボロのマントを纏い、フードを深くかぶったその人物は、暴動が激化した街中を駆けまわったという。
――光の女神。
気づけば、その人物はそう呼ばれるようになっていた。
光の女神は数々の奇跡を起こした。
彼女が立ち止まった場所からは怪我人が消え、彼女が走り抜けた道にいた生き物は、どんなに気性の荒い雄牛であってもたちまち大人しく、穏やかになるのだという。
「――というのは、だいぶ詩歌的に変えられてしまっているが、内容としては誇張でもなんでもなくてね」
「それはまた……すごい方なのですね」
「その真相は、彼女がたぐい稀な神秘の使い手だったということのようだ。国の者も移民も問わずに治療をしていたし、暴動を率いていた隻腕の移民に、神秘による義手を作り出してやったりもしていた。神秘を使って冷静さを取り戻させる方法も知っていたようで、興奮して戦いをやめられなくなっていた現場を鎮めることも彼女がした」
特に、冷静さを取り戻させるために使った神秘が圧巻だったという。そのときに近くにいた人々は、周囲に広がった美しい神秘の光を見て、彼女を光の女神と呼ぶようになったそうだ。
「そんな彼女が双方に言ったのだ。この背後には隣国、タバダン王国の謀略があると。踊らされてはならないと。もちろん陛下たちもその可能性を視野にいれていたが、彼女の言葉がきっかけで本格的な調査が決まった。移民側も、分け隔てなく治療をしてくれた光の女神様がおっしゃるのならと、交渉のテーブルについた」
結果、移民側には一時的な暴動の自粛が呼びかけられ、国は本格的な調査に乗り出した。タバダン王国からの人や物、情報の流れはもちろん、それと並行して移民に対する国民の振る舞いも調べ上げられたという。
「残念ながら、すべてがすべてタバダン王国の謀略というわけではなく、実際に我が国の者たちの中に非道を働いた者もいたのだが、それも彼女のおかげで落としどころを見つけることができたのだ」
体面的にも、庇護下にある国民のためにも、非を認識してなお簡単には折れられないのが国というものだ。間に光の女神が入ることによって、交渉はスムーズに進んだ。
「タバダン王国の件についてはまだ完全解決とは言えないが、ガンブラント移民の暴動は収束した。これで友好関係が壊れて戦争が始まるといったような最悪の事態は免れたわけだ。だから二人とも安心するといい」
もし彼女がいなければ、暴動は武力で制圧するしかなかった。けれど、それをしてしまったら、ガンブラントとの友好関係は完全に壊れていただろう。
ゆえに、彼女は紛れもない、リングドル王国の救世主だった。
――けれど。
それはヒロインではない人物が国の危機を救うというイレギュラーを生んだ。
もともとこの乙女ゲームをプレイしたことない私でもわかる。今回の出来事が完全にストーリーから外れてしまっているということだけは。
危機を救ったのがヒロインでないのでは攻略対象の好感度も上がらない。乙女ゲームとしては欠陥品だ。
私が動かなければ、国が滅んでしまうかもしれないと思っていた。滅ばなかったとしても、友好国との関係が悪くなったり、何らかの代償が必要になると思っていた。
とんだ思い上がりだった。私がいなきゃいけないなんてことはまったくなかったのに。
「……よかったじゃない。国は滅びなかったんだから」
国が滅んでいたら、セーファス様たちは処刑されていたかもしれないし、国政を担う侯爵家の令嬢である私も、どんな扱いをされたかわかったものではない。
それを思えば今回の出来事は、これ以上ない最良の結果だった。
ただ、私の心だけが晴れない。
私は一体なんなんだろうって思う。何のために、ヒロインに転生したんだろうって。
私がいなくてもリングドル王国は滅びない。
なら、役立たずの私が、ここにいる意味なんてあるのだろうか。
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