まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

文字の大きさ
85 / 188
Ⅵ 決断は遅きに失し

83. 裏切りじゃないとはわかっているけれど

しおりを挟む
 

 暴動が鎮圧されたのは、発生からおよそ二週間後のことだった――らしい。
 というのも、屋敷にほぼ軟禁状態だった私がそれを知ったのは、鎮圧より五日も後だったからだ。



 その日、お母様の顔には久しぶりの笑みが浮かんでいた。私は不思議に思いつつも食事の席につき、お母様に尋ねる。

「お母様、ずいぶんと明るい顔をされていますけれど、なにかいいことでもあったのですか?」
「ふふっ、聞いてちょうだいミュリエル。もうすぐお父様が戻ってくるそうなの」
「お父様が?」

 私は驚いて、ついオウム返しにしてしまう。
 お父様はもう三週間近く――正確には二十日だけれど、その間まったく家に帰ってきていなかった。事情が事情だけに仕方ないと自分に言い聞かせていたので、驚きは一段と大きかった。

「そう。よかったですね、お母様」
「ええ、本当に――」
「やっぱり何週間も王宮に詰めっきりでは心配ですものね。お父様、戻ってきたら一泊くらいはできるのでしょうか?」

 とそこまで言ったところで、お母様がぎょっとした顔をする。さらにはメイドたちまでもが配膳の手を止め、奇異なものでも見たかのような視線を向けてきた。

「ええと、お母様?」
「ミュリエル、その……もしかして聞いてないのかしら?」

 言いづらそうに口を開くお母様。私はわけがわからず首を傾げた。

「暴動は……無事に鎮圧したのよ。それで、もうすぐ事後処理が一段落するから、明日あたりにお父様が帰っていらっしゃる、という話だったのだけれど……」
「暴動が鎮圧した……? それはいつ、でしょうか」
「……五日ほど前よ」

 私は言葉を失った。耳にした言葉が信じられなかった。

 確かに私は役立たずだ。けれど、ここまで完全にのけ者にする必要があっただろうか。メイドたちの反応からも知らなかったの私だけ、というのがわかる。というか五日もたっていれば、まさか知らないなどとは誰も思わないだろう。

 けど考えてみてほしい。怪我人の手当てすらできない上に、身を守るすべもない私にできたのは、周囲の負担を減らすために屋敷にこもることだけだった。情報源となりうるのは家族や屋敷に勤める人たちしかいない。
 私がこの三週間近く、一歩も外に出ていないことは周知の事実だ。誰も私に知らせなければ、とは思わなかったのだろうか。

 もちろん、わざとじゃないことはわかってる。単に私が知らないという事実に気づく者がいなかっただけなのだろう。他の人たちは皆、少なからず鎮圧に携わっていたため、外で嫌というほどその知らせは耳にしていたのだろうから。

 でも、わざとじゃないことが余計に私を傷つけた。
 学院でどんなに侮辱され、嘲笑われても、家族だけは味方だと信じていた。大切にされ、気にかけてもらっているから、なにかあれば教えてくれると信用していた。だからこそ、お母様やメイドたちのこの仕打ちに、私の心は大きく傷ついた。

 蚤の心臓か象の心臓かと問われれば象の心臓と答えるし、ガラスのハートか鋼のハートかと聞かれれば、鋼のハートだと答えるだろう。臆病だけれど弱くはない、というのが自分なりの自己評価だった。

 けれど、そんな私でさえ、これはないと思った。これはひどい。ひどすぎる。


 ――五日。


 みんなが喜びを分かち合い、安堵していたそのとき、私だけがそこにいなかった。いないことに気づいてさえもらえなかった。
 私は結局、学院だけでなく屋敷でも、ずっと一人だったのだ。

 家族にまで裏切られた気分だった。


「ミュリエル……」
「部屋に……戻ります、ね。少し、休みます」

 憐みを含んだお母様の視線も、メイドたちからの視線も耐え難くて、私は逃げるように食堂から飛び出した。


 廊下を速足で進みながら、何もできない役立たずな自分がいけないんだって、必死に言い聞かせる。
 頑張ったみんなに対して不満に思う資格なんて自分にはない。これは当然のことなんだって思おうとする。

 なのにすぐ、どうして私だけ、どうして私ばかりという気持ちが沸き上がり、抑えきれなくなった。
 自室に戻ってすぐ、私は枕を思いっきり殴る。
 何度も何度も殴りつけて――そして顔をうずめた。


 悔しい。悲しい。寂しい。つらい。

 でも、なによりも強く思ったのは、理不尽だということ。


 だって、私は好きでミュリエルになったわけじゃないんだから。
 きっと、ミュリエルが私ではなく、ゲームのままのミュリエルだったなら、こんな目にあうことはなかっただろう。そう思うと、この理不尽な世界がとても腹立たしかった。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...