まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅸ もう後悔なんてしない

134. 肉屋の想い①

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「あったわねぇ、そんなことも」
「お近くに?」
「いたいた。でももうよく覚えてないのよね。いえね、あのお貴族様は今もよく来るしわかるわよ? でも侍女はねぇ」
「じゃあ、近くで不審な人を見たりとか」
「やだぁ、見てたらお貴族様に伝えてるわよ。きっと礼金がもらえたと思うもの」
「そうですか……」
「そうそう。じゃあ、またね、看板娘ちゃん」
「あ、はい! ありがとうございました」

 肉屋での最終日。世間話と称して聞き込みを進めていた。なんだかんだ言って話に付き合ってくれるお客さんが多くてありがたい。欲しい証言は得られていないけれど。
 お客さんを見送って一息ついたところで視線を感じた。はっと顔をあげれば、すぐ横に肉屋の店主が立っている。

「あ、あの、なにか……?」
「――俺らには聞かねぇのか?」

 私は少し驚き、肉屋の顔を見返した。
 この二日間、よく視線を感じるとは思っていたけれど、まさかずっとそんなことを考えていたのだろうか。

「いや、違うな。あんたの事情、話す気あるか?」

 今度こそ本気で驚いた。これは話せば協力してくれるという意味だろうか。
 確かに、実は気にかけてくれていたんじゃないか、とは思い始めていた。古着屋にどこに行っていたのかと聞かれたあたりから、私の店主たちに対する見方が変わって、そう感じることが増えていた。
 これまではずっと、彼らのことが怖くて、視線を合わせられずにいたから気づかなかったけれど、いざ視線を合わせてみると、彼らは、バッソさんやドードーさんたち村の人と同じように、私を案ずる目をしていたから。――今も、また。

「俺らはみんな、あんたが何かの事件に巻き込まれたんじゃねぇかって思ってた」

 それはそうだ。いなくなったことに気づいていたなら、そう思うだろう。特にパン屋の周辺には頻繁に出没していたのだから気づかないわけがない――けれど、どうだろうか。単なる孤児を、盗人を、そこまで気にしていたかどうかは疑問だ。

「あんた、あのお貴族様の侍女がいなくなった騒動のことを聞いてたみたいだが、あんたが王都に行ってたってのと関係してんのか? 今もその問題を引きずってんのか?」

 王都に行っていたのとは関係している。けれど、問題を引きずっているのかと聞かれたら、たぶん、違う。
 いや、違わないのだろうか。これは私の冤罪で終わった話で、私が首を突っ込まなければ、収束していたはずの問題だけど――首を突っ込んだから、問題を引きずってると言えなくもない、かもしれない。

「あんたは町の子だ。貴族じゃねぇ。あのご夫人の側にいるのだって本意じゃねぇってんなら力を貸してやる」

 私ははっとした。肉屋が心配しているのは、私が貴族の問題に巻き込まれ、奥様に連れ回されているのではないかということだ。
 この勘違いはよろしくない。奥様は私の恩人だ。

「違います。大丈夫です。私がお願いして一緒にいさせてもらっているだけなので。それに、これは一時的なもの。自分が町の子なのはよくわかってます」

 慌てて否定した。肉屋は少しだけ疑わしそうに私を見たけれど、すぐに納得したのか頷いてくれた。

「わかった。じゃあ、次だ。あんた、三年前のこと、どこまで知ってる?」

 話の流れが変わって、私は気持ちを改めた。私が知っていることはあまり多くない。奥様からは話を聞けているけれど。

「子爵様の侍女が、織物屋の前でいなくなったって」
「そうだ。子どもとぶつかって侍女が倒れて、お貴族様が医者の手配を指示している一瞬の間にいなくなっちまった――ってことをお貴族様が言ってな、それで騒ぎになった。この町はお貴族様いてこそだからな。誘拐だなんだと悪評が広まったら、町がつぶれるってんで、町じゅう総出で探したんだ」

 騒ぎになったとは聞いていたが、それほどの大事になったのかと私は驚いた。
 いや、ディダは貴族でも滞在できる安全な町、というのを売りにしている町だから、侍女と言えども誘拐があったとなれば大問題で、大事になるのも当然かもしれない。

「で、夜になって、お貴族様の勘違い、というか早とちりだったって話が伝えられて、騒ぎは収束した。ただな。その話が伝わるまでの間に、町にいる女や出入りした女については徹底的に調査しててな――気づいたんだ。あんたがいないって」

 そんなにすぐに発覚したのか。いや、この時点でマリがいなかったという情報は初かもしれない。ミュリエル様が私と同じ感じだったなら、きっと意識は失っていたはずだ。この話で、事故ではなく事件だという可能性を示すくらいはできるだろう。

「……いないってわかって、どうしたんですか?」
「どうもしねぇよ。町じゅう捜したあとだ。これ以上は俺らにはどうにもできねーし。他のやつらに話してるうちに、お貴族様の早とちりって話も伝わって来たしな。だから、そのまま忘れて元の生活に戻った。以上」

 どうにもできないなどと言ってはいるが、実際のところ、肉屋は私をかばったのだ。報告しないという方法で、私を守ろうとしてくれていた。
 侍女がいなくなったと騒ぎになったタイミングで、少女が一人いなくなったなどと話そうものなら、無関係であっても罪をなすりつけられる可能性は高かった。

 店主たちにとって私は厄介者でしかなかったはずだ。けれど彼らはそんな私のことも町の人間とみなしてくれていた。ありがたいような申し訳ないような気持ちで胸がいっぱいになった。

 肉屋は私が思っていたよりも、ずっと思慮深く、思いやり深い人だった。
 今も、こういう話をしながら、私の言葉を待っているのだ。侍女服を着て再会した孤児。そんななりでこの場所に戻ってきたからには、なにか事情があるのだろうと。

 頼らせてもらっていいだろうか。私も、この町に暮らしていた人間として。

 
 
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