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Ⅹ 集まる想い
154. 思わぬご褒美
しおりを挟む休憩時間も終わりに近づき、議場に戻る奥様と別れる。サロンの隣にある控えの間に戻れば、変わらず十数人の侍女侍従が待機していた。戻っていないのは数人か。ひとまず役目を終えた人たちからは、穏やかに会話する声が聞こえていた。
と、そんな空気を切り裂くかのような鋭い声が廊下に響く。
「ベイル!」
よく通る青年の声。聞こえた名前にドキリとした。
「ああ、クリフォード。どうした。殿下から離れていていいのか?」
「馬鹿。お前を捜しに来たんだって。ったく、急にいなくなるんじゃねーよ。殿下は陛下と一緒におられるから問題ない。殿下がお前の姿が見えないのを気にされていたから来たんだ」
「そうか、すまない――」
声が遠ざかっていく。二人も議場へと向かったのだろう。
何気ないやりとりだった。けれど私の目からは自然と涙がこぼれ落ちる。
名前の後に聞こえた声はきっとベイル様のもの。その声を耳に刻み込む。
――ああ、ベイル様。
会ったわけではないし、姿を見たわけでもない。ただ二言三言、声が聞こえただけ。ただそれだけで私は、胸が一杯になった。
もう二度と、見ることも声を聴くことも叶わないと思っていたから。だから、声が聞けただけで、私には十分すぎるご褒美だった。
「あなた、大丈夫?」
どこかの家の侍女が心配げに声をかけてくれた。ハンカチを差し出してくれるが遠慮して、自分のハンカチで涙を拭う。
「……はい。ご心配、ありがとうございます。あの、申し訳ありません、私、少々水場に……」
「そうしたほうがいいわ。見ない顔だけど、どちらのお家かしら。伝えておきましょうか?」
「では――あ、いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。外に護衛がおりますから、そちらに頼みます」
お願いしようとして、ふと気づく。もうメリッサさんたちの有罪は確定していて、あとは刑罰がどうなるかというところ。もう、私のすべきことはなにもないのだ。それなら――。
「そう。では、気をつけて」
「はい。ありがとうございました」
私は静かに部屋を出た。もう、ここには戻らない。
急に私がいなくなっても、護衛たちはいるし、旦那様の側には侍従もいる。迎えの馬車にはメイドたちもいるだろうから、奥様も大丈夫だろう。私の姿が見えなければ、奥様ならすぐに状況を察するはずだ。
私は誰にも何も告げず、使いを装って王宮を出た。
今着ているドレスは後でご領主様に贈り返してもらえばいいだろう。申し訳ないけれど、お仕着せのときから着ていたアンダーウェアはもらっていきたい。
このシャツとタイツは、護衛を兼ねる侍女たちだけが身に着ける特別なもので、神秘の込められた銀糸が織り込まれていた。当然、高価なもので、初めは私も遠慮していたのだけれど。
奥様が私にそれを渡したのには意味があった。本来、これは護衛たちが神秘を使うときに、その流れを敵に読ませないようにするためのものだ。銀糸に込められた神秘には、体内の神秘の流れを隠してくれる効果があった。
それは、私の体内の不自然な神秘の状態を隠せるということでもあって。
確かに隠さなければ罪人という札を下げて歩いているようなものだった。だから奥様たちのためにも必要なものだと割り切って受け取った。
本当ならこれも返さなくてはならない。けれど、きっと今後、自力では手に入れられないものだ。だから、これだけは――。
国を出たら、手紙を書こう。それでダメだと言われたら素直にお返しし、これまでと同じように、村の中だけでじっと過ごしていればいい。村人たちはみんな、気にしないでいてくれるから。
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