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Ⅹ 集まる想い
153. 奥様は推理する
しおりを挟む「……あの子、もしかしたら恋をしていたのかもしれないわね」
奥様の口からこぼれたのは、思いもしない言葉だった。周囲から音が失われる。
――メリッサさんが、恋?
恋なんてしていただろうか。そんな様子は――……。
駄目だ、わからない。否定できるほど、私はメリッサさんを知らなかったし、見てもいなかった、らしい。
愕然とした。一緒にいたときは間違いなく友人だと思っていたというのに。
ただ、一般的な話として、恋をしていた可能性はあった。政略結婚を運命づけられている貴族だからこそ、恋に対するあこがれは強いのだ。
だから、それが動機という可能性も低くはないけれど。
「でも――誰に……?」
メリッサさんが排除したのはミュリエル様だった。その事実から考えれば、相手は王太子殿下しか考えられない。でも。
「王太子殿下、ではないと思うわ」
私の違和感を汲んでか、奥様は言った。
「どうしてです?」
「伯爵令嬢でしょう、あの子。殿下のお相手として身分が足りないのは、誰の目にも明らかだもの。おそらくだけれど――」
メリッサさんはミュリエル様かレイラ様のどちらかを排除できればよかったのではないかと奥様は言った。ミュリエル様がいなくなれば、半ば強制的にレイラ様がセーファス様の婚約者になるし、すると公爵家のベイル様のお相手に妥当な家がなくなるから、と。
いや、なくなりはしないけれど。ただ、十も年下となれば、メリッサさんが入り込む余地もできると考えたのではないか、ということらしい。
「……え?」
結局、メリッサさんが誰に恋をしていたかというと。
「ベイル様に、あ、ええと、エイドリアン伯爵に恋をしていたと……?」
「ええ、おそらく。公爵家か侯爵家の養女になれば、王太子殿下と婚約もできるでしょうけれど、彼女、どちらの家にも接触していないでしょう? となると初めからアディーラ公爵家を継ぐエイドリアン伯爵を狙っていたと思う方が自然なのよね」
衝撃だった。
――もし。
もし、私がフェーニランド伯爵と会わず、現実を見ようとしなかったら。そうしたら、メリッサさんは己の野望を叶えていたかもしれなかった。
卑怯な手でミュリエル様を陥れ、ベイル様を手に入れ、結婚していたかもしれなかったのだ。
動いてよかった。それから、私の目を覚まさせてくれたフェーニ伯爵に、改めて感謝する。
「あくまでも推測よ。動機は明らかにできなかったけれど――これで一応、あなたのお願いは叶えられたかしら」
奥様の言葉ではっとする。
二人の有罪は確定した。このままベイル様とメリッサさんが婚約関係を続けることはないだろう。ひいては、ベイル様がメリッサさんのせいで不幸になることは、もう、ないはずだ。
「奥様、その……色々とありがとうございました」
「一番頑張ったのは、あなたの味方たちよ。お礼はその子たちに言ってお上げなさい」
「それでも奥様に感謝しない理由にはなりません」
「なら、どういたしまして、と言っておこうかしら。……ふふっ、楽しみになさって。あとであなたの味方たちにも、会わせてあげるから」
結局、味方が誰なのか、奥様は教えてくれない。
お礼は言いたいと思う。けれど、今の私が会えるような人物だとは到底思えなかった。味方というのがレイラ様だったとしても、レイラ様は侯爵令嬢で、私はしがない平民。身分差というものは、言葉以上に大きな影響力を持っているのだ。会えば余計な問題を生むだろう。
私は何とも答えられず、ただ奥様に曖昧な笑みを返した。
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