170 / 188
Ⅺ 青い鳥はすぐそこに
159. 懐かしくて懐かしい日々?
しおりを挟む村はずれの森には所々霜が降り、冬の名残りを残していた。
帰ってきてすぐ耕し始めた家の裏の畑もまだまだ固く、冷たく、使えそうになかった。しばらくは領主様のところでもらったり村で買ったりした保存食でやり過ごすしかないだろう――などと考えながらドアを開け、換気をする。それから。
「ひゃっ、冷たっ」
戸口近くに汲み置きしていた水で顔を洗うと、凍りそうなほど冷たかった。
半分寝ぼけている自分が悪いとはいえ、心臓に悪い。もうすぐ春なんだから、そろそろこんな冷たくなくてもいいでしょ、とくだらない悪態をついた。
今回の、入れ替わりにまつわる事件の顛末は、奥様からの手紙で知らされた。
まず、リングドル王国の国民には、伯爵家の令嬢と現当主の弟が、己が欲のために神を冒涜し、他者を害した、と公表された。ただし、詳しい罪状は明かされていない。
それから、二人には重い刑罰が下された。
メリッサさんに命じられたのは指定修道院での奉仕。犯罪者を隔離し、労働に従事させるための修道院で、生涯出ることは叶わない。
また叔父のウィガーラには、北部の永続開拓が命じられた。凍てつく大地を耕し続ける上に自給自足という二重苦だ。
いずれも更生は視野に入れられていなかった。二人は命ある限り、働き続けることになるという。
また、今回の件は家の不祥事とも見なされ、ドビオン伯爵家自体にも厳罰が下された。領地は没収。加えて多額の賠償金が請求されている。
ただ、爵位は男爵にまで落ちるものの、ドビオン家という家名はそのまま残されることになった。
気になるベイル様の婚約については、アディーラ公爵がその日のうちに破棄したそうだ。
これに関しては事情が事情だけに、同情はあれども非難する人はおらず、表面上は問題になっていない。それが一番の心配だったのでほっとした。
それから驚いたことに、国外追放した(ことになっている)マリについても、国に戻ってきても捕えることはないとの宣言がなされたという。
奥様や侯爵様からは、今回の裁判では私のことには触れられないだろうと言われていたので驚きだった。何でもセーファス様自らが進言し、そう宣言することになったのだという。
驚愕だ。我を忘れるほど怒り狂っていたのにと思うと、とても信じられなかった。
「さて。まだ播種はできないよね。今日も神秘の修理かな」
畑のチェックを終え、家の中へと戻った。
室内は、神秘の器具によって部屋の半分近くが占領されている。このほとんどが修理待ちのものだ。いずれもご領主様から依頼されたものだった。
リングドル王国からの帰り道、私はご領主様のお屋敷に立ち寄った。
冬の寒さが厳しい時期だったこともあり、ご領主様のご厚意でしばらく滞在させてもらうことになったのだけれど。
ただでお世話になるのは心苦しい。ということで、神秘の器具の修理を申し出た。初めのうちはよかった。一個、二個と順調に修理を終える。けれど、「ぼっちゃま」は一体どれほどばら撒いたのか。直しても直しても終わりは見えなかった。
ご領主様いわく修理に手が回らず、手つかずのまま、しまいこんでしまっていたからだそうだ。
絶対に違うと思う。これは絶対に、総数の問題だと思う。
とはいえ、フェーニランド領のあるこの国は小国で、修理技師の数が少ないのは確かだった。加えて一つの修理にかなりの時間がかかるのが普通であるから、手をつけられなかったというのも理解できる。
春が近づき、村に帰ることを決めたあとも、これをこのまま残してはいけないと思った。ご領主様も同じ考えだったのだろう。私に、すべての修理を依頼した。もちろん全部は持って行けないので、ひとまずは半分ほどだけれど。その都合で馬車(と御者)を借りられたのは幸いだった。ちょっと得した気分だ。
ご領主様の依頼は、私にとっても渡りに船だった。村での収入をどうしようかとまだ決められていなかったから。といっても、稼いだお金は九割九分ベルネーゼ侯爵家への返済にあててほしいと伝えてあるため、しばらくの間手元には、微々たる金額した入ってこないけれど。
とにかく、そんな経緯で以前同様の生活をしている。神秘の器具を直したり、畑を耕したり、村に行ったり――。
「……はしてないか。あれ? ホント? 本当に最近、村に行ってないっけ?」
ここに戻ってきてから何度村に行っただろう。帰ってきた翌日に、食料の買い出しに行ったことは覚えている。けれど。
すっと血の気が引いた。
慌てて上着を引っ掴み、家を飛び出す。
村に戻ってきてから、すでに十日ほどがたっていた。
この村の人たちはみんな心配性で、私があまりにも長く顔を出さないと、村人たちが押し寄せてくるのだ。もう九日も村に行っていない。これは今日にも押し寄せてくるところだったのではないだろうか。
いや、バッソさんが一度家まで種を届けにきてくれている。だからきっと大丈夫――。
---------
そろそろストックが切れてしまいそうですm(__)m
夏バテのせいです(←言い訳)
自分の中ではもう少しで完結なのですが、文章にするとまだだいぶあって……。
すみません、またペースが落ちるかもしれませんが、どうぞ最後までお付き合いください。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる