まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅺ 青い鳥はすぐそこに

160. 出戻りは私だけじゃない

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 村一番の心配性はバッソさんと干物屋のおばちゃんだ。何故か村のみんなからも私の保護者のように認識されている。まず二人に会うというのが最低限のノルマだった。

「リアちゃん! よかった、生きてたか」
「ぶっ倒れてんじゃねーかって、みんな心配してたんだぞ」
「そうよ。もうちょっと顔出しなさいな。寂しいからね」

 道すがら、村人たちが次々と声をかけてきた。こんなにはっきりと心配してくれる人なんてこれまでいなかったから、面はゆく感じる。

「あはは、ごめんごめん。ちょっと没頭しちゃってね。気をつけるよ」

 照れ隠しのように軽く答えれば、村人たちはやれやれと肩をすくめた。

「まったく。本当に気をつけろよ。バッソと様子を見に行くかと話してたところだったんだ」
「ごめん。あ、バッソさん、家いる?」
「いや。今日は聞き取りの日だから村まわっちまってるな。ま、どっかで会うだろ」

 聞き取りの日というのは、買い出しで必要なものを聞いて回る日のことだ。買い出しの日が近いのだろう。

「そっか、ありがとう」

 それなら先に干物屋だ。村人たちに手を振って歩き出すけれど。

「ああ、リアちゃん。あとな……」

 呼び止められて顔を向ける。けれど、おじさんは言葉を止めてしまった。

「なあに? どうしたの?」
「馬鹿だね、言い始めてから迷うかね。あのな、リアちゃん。一昨日からちょっと変わった子が来ててな。もしリアちゃんが、人と会うのが恐くないっていうんなら、一度会ってみるといいんじゃないかと思うんだけど。ふっ切れた顔しとるし、もう大丈夫なんだろう?」
「う、うん。でも、変わった子って……?」
「ああ――まあ、会ってみるのが一番だよ。今日は確か……お針さんとこにいたかね。ちょっと顔出しといで」
「そう? じゃあ、あとで行ってみるね」

 よくわからないけれど、おばちゃんたちがそう言うのなら、まずは行ってみるべきなんだろう。

 村人たちと別れたあと、私は当初の目的を果たすべく干物屋に向かった。
 ご無沙汰していたことを謝らなきゃと思っていたけれど、先に干物屋のおばちゃんからお叱りを受けてしまった。けれど、それも私を心配してのことだから、大人しく受け止める。そのまま埋め合わせをするかのように雑談をして過ごした。

 干物屋を出るころにはお昼になっていた。それからお針のお姉さんの家へと向かう。

 お針のお姉さんの家ではどんな人が待っているのだろう。たぶん私の知らない人だろうけれど、村人たちが警戒していないなら問題はない。それに神殿関係の問題も解決している。以前のように追手に怯える必要もなかった。

「お針のお姉さん、こんにちは」
「あら、リアちゃん! いらっしゃい。いいところに来たわね」

 お針のお姉さんは驚きながらも大歓迎してくれた。

「うんうん、元気そうね。ダメよ、こまめに顔出さなきゃ」
「ごめんなさい。あとで領都の話とかするから許して?」
「あら、それは聞きたいわね。あ、でも今はそれより」

 お針のお姉さんが部屋の奥へと視線を向ける。私もつられて見れば、紙漉きの神秘のかたわらに、青年が屈みこんでいるのが見えた。

「ウィル! ちょっとこっちにいらっしゃい」

 青年が手を止めて顔を上げる。それから眩しそうに目を細めた。
 ビクリ、と体が震える。怯える必要はないとわかっているのだけれど。
 青年は少し戸惑った様子でこちらにやってきた。予想通り見覚えのない顔だ。年頃は自分より少し上――いや、同い年くらいか。
 暗い室内から入口に近づくにつれ、青年の持つ色がはっきりと見えてきた。ダークブラウンの髪に榛色の瞳。整い過ぎた顔立ちは直視するのが辛くて、私はすぐに視線を落とす。
 一瞬、青年の足が止まった。またすぐに歩き出し、私の目の前まで来たけれど。

 顔を見ずとも青年が戸惑っているのはわかった。やはり視線を外したのは失礼だっただろうか。いや、まだごまかせる。私は急いで口を開いた。

「わ、私、村の外れに住んでるリアっていうの。ウィ、ウィルだっけ? よろしくね!」

 努めて明るく言ったものの、反応がない。沈黙が辛くて、ちらりと青年の顔を窺う。
 青年は愕然とした顔をしていた。

「あ、あの……?」
「――いや。ウィルだ。よろしく」

 青年ははっと肩を揺らし、それから落ち着いた声で答えた。けれど、その声がどことなく落ち込んでいるように聞こえ、私は余計に焦りを募らせた。

「あ、ええと、ウィル、は前にこの村にいたの? あ、そっか、もしかしてお針のお姉さんの息子さん? 出稼ぎに行ってたっていう」
「……そう、だ。聞いてたのか」
「なんだ、そうだったんだ。お姉さんもすぐに言ってくれればよかったのに。びっくりしちゃった」

 見ればお針のお姉さんの顔にも困惑が浮かんでいた。
 何かを間違えているのは確かだった。けれど、それには向き合いたくなくて。

「リアちゃん――」
「じゃあ、私、まだ寄らなきゃいけないところあるから、またね!」

 逃げるように家をあとにした。

 私は何をしているのだろう。
 お針のお姉さんが何か言いかけていたのに。領都の話をするって約束したのに。寄らなきゃいけないところなんてないのに。
 どうしてもこの場にいられなかった。留まっていることに耐え切れなかった。

 それがどうしてなのか、私にもわからない。
 自分のことなのに、さっぱり、わからなかった。

 
 
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すみません、ここからは一日おきの更新にしますm(__)m

 
 
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