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Ⅸ もう後悔なんてしない
137. 血のつながりを感じる瞬間
しおりを挟むまもなくして現れたのは、せがれそっくりなおばあさんだった。年齢は言わずもがな。サイズも二回りくらい小さいけれど。
「ああ、見とったよ。あの日はちっこいのがポーンとぶつかってな」
表現まで一緒だった。つい笑いそうになるのを堪えて質問をする。
「そのとき織物屋の横あたりに、人がいるのを見ませんでしたか?」
「路地のところか? ああ、おったな。品のよさそうな若いおなごと、ごついにーちゃん、それからほそっこいにーちゃんがね」
はっと息を飲んだ。店番をしていた彼女なら目に入っているかもしれないと思っていた。けれど、実際にその言葉が出てくると、衝撃は凄まじかった。
「嬢ちゃん?」
「あ……えっと、その女性の特徴を教えてもらえますか?」
「さて、なにせちょっとばかり距離があったからね。体型は普通だよ。あんたよりは背が高いけど、貴族ってのはみんなそんな感じだしね。それから……ああ、そうだ。フードをかぶってたけど髪が見えていたよ。赤金って感じだったね」
「似姿があったらわかりますか?」
「たぶんね」
髪色は一致した。似姿を見せればきっとその女性がメリッサさんだと同定できるだろう。
「そのような場所で、何をしていたのでしょうか」
「そう、それだよ。聞いてくれるかい? ここだけの話だけどね……神秘が見えたんだ」
「し……っ、神秘が?」
大声を上げそうになって、慌てて口元を押さえる。おばあさんは真面目な顔をしていた。とても冗談を言っているようには見えない。
おばあさんは、若いおなごとほそっこいにーちゃんから神秘の糸が伸びていたと言った。その神秘は投網のような形になって、貴族の侍女とぶつかったちっこいのを包みこんだのだという。
「神秘が見えたのは、二人からで間違いないのですね?」
「間違いないよ。まだ人が集まる前だったからよく見えたさ」
息が止まるかと思った。メリッサさんがあの場にいて、神秘を使っていたなんて。
「そ、その、おばあさまは神秘がお見えになるのですか?」
「うちのおっかさんが没落貴族の末っ子でね。少しだけども教わってたんだよ」
「あの、お母様の家名を伺っても?」
「いいよ。ミミット男爵家って言うんだ」
とっさに口についた質問は、我ながらいい質問だったと思う。
一般に、貴族の間では平民の言葉は軽視されがちだ。おばあさんの証言を証拠としてあげるなら、貴族の縁者の言葉にするのとしないのとでは大違いだった。たとえ没落した家だったとしても。
「ありがとうございました。また訪ねても?」
「もちろんだとも。いつでもおいで。嫁にもおいで」
「ええと、それは……ご縁があれば」
苦笑しながら酒屋をあとにした。
――見つかった。
あの場にメリッサさんがいたと証言できる人が。
神秘を使ったと証言できる人が。
じわじわと興奮が込み上げてきた。
これは大きな前進だった。
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