まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅺ 青い鳥はすぐそこに

167. もうひとつ神秘、修理中①

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 体の中を、温かな熱が満たしていく。手、足、顔、肩、お腹、胸……。
 その熱は、体内を満たすと中心から動きはじめた。最初は風が水面を揺らすように小さく、次第に浜辺に寄せる波のように大きく。
 くすぐったいようなむずがゆさを感じたかと思えば、温泉で冷えた指先に血が巡るような心地よいしびれがきて、かと思えば布団の中のぬくもりかと錯覚するような心地よさに微睡み――繰り返されるそれは次第に全身に広がっていった。

「くっ」

 遠くに聞こえる声。その声をきっかけに波のような蠢きが鎮まっていく。
 全身はまだぽかぽかだ。この状態が数時間ほど続くことを私は知っていた。

「――今日は、ここまでに」

 名残りを惜しみながら、ゆっくりと目をあける。
 すぐそこに、上気した色っぽいベイル様の顔があった。

 村での生活を続けているせいか、ベイル様は少し日焼けをしたようだ。けれどそれがまた男らしさに磨きをかけていて目を奪う。今の姿で夜会に顔を出したら、既婚者までをもひっかけてしまいそうだ。
 誰にも見せたくない、このまま隠してしまいたい、なんて考えるのはいけないことだけれど――。

「ありがとう、ございました」

 声を絞り出すようにしてお礼を言った。こんなきっかけでも作らなければ、目が離せなかった。こればかりは何日繰り返そうとも慣れない。

 何日繰り返そうとも。
 そう。もう、かれこれ二週間ほど、治療として、ベイル様に神秘を流してもらっていた。


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 ベイル様から治療を提案されたあの日、私は確かに断ったというのに。

 私が気づいたときにはもう、ベイル様はバッソさんや村の人たちまで巻き込んで断れない状況を作りあげていた。
 今からでも本気で嫌がれば、ベイル様はきっとやめてくれるだろう。それはわかっている。わかってはいるけれどできなかった。原因は単純だ。偏に私が、今の時間を惜しいと思ってしまっているから。

 あとちょっとだけ。もうちょっとだけ――。
 そんなふうに思いながら、ずるずると続けてしまっていた。

「今日は首回りを念入りにした。神秘が流れたのを感じられたんじゃないか?」
「あ、うん……」

 治療は、時間をかければ可能だ、というのがベイル様の見立てだった。
 ベイル様曰く、私に施された神秘の封じは、ざっくりと各部位ごとに鎖で縛られ、流れが分断されているような感じだという。顔にある神秘を目に集めるなんてことができていたのは、それほど細かく区切られていなかったからということだ。

 初日、ベイル様はその区切られた範囲内でまず神秘を巡らせた。封じられたことで詰まってしまった道や、破壊されて途切れてしまっていた道の修復を試みたのだ。私が神秘器具を修理するときに枝毛と呼んでいる、余分にできてしまった道はまだうまく取り除き切れていないらしいけれど、詰まりや途切れはベイル様もかなり早い段階で治してしまった。
 それから数日をかけて、流す神秘の圧を高めて行き、少しずつ封じの鎖部分、部位間を越えられるようにしていた。かなりの力技だ。けれど効果はあった。ベイル様が強く神秘を流した時だけは境を越えられるようになったのだ。自分ではやっぱり動かせないけれど。

 日に日に回復を実感していた。このまま続ければ、本当に治せてしまうんじゃないかと感じていた。

 ――でも、ダメだ。

 こんな時間はもう終わりにしないといけない。ずっと向き合うのを先延ばしにしてきてしまったけれど、治療をしていてはベイル様は村を離れることはできない。私がベイル様を拘束するような真似をしていいはずがなかった。

 ベイル様には幸せになってほしい。そのためにはまず、ベイル様には本来あるべき場所に戻ってもらわなくてはならない。

「ウィル――いえ、ベイル様」
「っ、リア……っ」

 名前を呼べば、ベイル様が目を見開き、まるで感極まったかのような声をあげた。

 私がベイル様と名前で呼ぶのは、この体に戻って以来はじめてのことだ。
 ウィルがベイル様だとわかっても、私は頑なにその名前を呼ばなかった。今の私が呼んでいい名前ではなかったから。その戒めを破って呼んだのは、けじめをつけるためだった。

「ベイル様、これまで毎日ありがとうございました」

 
 
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