まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅺ 青い鳥はすぐそこに

166. 神秘器具の修理は、完了なり

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 しばらくうつむいたままでいると、ぼそりと声が聞こえた。

「……けない」
「な、なに?」
「このままでいいなんて、そんなわけない。リアだって気づいてるだろう? 神秘が全身を巡らないということは、体内のバランスを崩す。つまり、長くは生きられないということだ。いいわけないだろう。君は何も悪くないのに」

 神秘は生命力と言われることもある重要な力だ。その流れが滞れば当然、寿命にも影響する。私は神秘の通り道を破壊され、神秘が分断されてしまっているため、当然長生きなどできるはずがなかった。

 ウィルは、私は悪くないと言ったけれど、そんなことはない。今までのように絶対的に自分が悪いとはもう言わないけれど、少なくとも一人。ベイル様だけには決して許されないことをしてしまった。
 私がベイル様に期待させるような振る舞いをしなければ、ベイル様は本気にならなかったはずだ。公爵家の立場を忘れず、セーファス様と学生らしい軽い恋の鞘当てを楽しむだけにとどまっていたに違いなかった。
 そして順当なお相手と婚約をして、今頃は苦労のない日々を過ごしていたはずで――。

「あ……」

 やはり、ウィルは私を、ミュリエルの中にいた私を知っているのだ。
 でなければ、私は何も悪くないなんて決して言えない。

「ど…して……」

 侯爵令嬢であるミュリエルの周りにいたのは貴族ばかりで、貴族であれば、こんな田舎に来るはずがない。
 学院には平民もいたけれど、平民とはクラスはもちろん生活空間も違っていた。平民の女子ならいざ知らず、平民の男子となると完全に面識はない。であるから、こちらもここに来る可能性は限りなくゼロに近かった。

 何度考えても、思い当たる人物はいなかった。
 顔を見て、思い出せればよかったのに。

「――やはり、覚えていられないという話は事実だったのだな」

 ミュリエル様の姿ではない私を見て、相手がわからないのは当然だ。けれど、私から見た相手の姿は変わっていないのだから、わかるだろうと考えるのが普通だった。
 どうやらウィルは、私がミュリエル様の体に入っていた時の記憶をほとんど持っていないことを聞き知っていたようだ。それは事実だ。会話の内容や出来事はなんとなく覚えているけれど、映像の記憶や音の記憶が特にひどく、人物はほとんどわからなくなってしまっていた。

 だから私はこの青年がわからない。青年は私を知っているようなのに。私だけがわからない。

 わからない。
 わからない。どうすれば、わかる……?

 私の体内の神秘について口にしたのだ。もろもろの事情を知っている人物なのは確実だった。
 だとしたら、青年は何のためにこんなところまでやってきたのだろうか。
 神殿からの追手はなくなったはずだ。けれど、逆に言うのなら、なくなったのは神殿の追手だけ。もし、個人的な恨みを持つ人物であったなら――。

 背を冷たい汗が伝う。体がぶるりと震えた。
 打開策は見つからない。目の前の青年の姿が、真っ黒な人の形をした影に変わる。人影は段々と巨大になり、私を押しつぶそうと襲いかかってきた。

「リアっ! すまない、頼む、怖がらないでくれ。大丈夫だ。リアは悪くない。わからなくて構わない。だから」

 ガタガタと震える私の肩を、青年の大きな手が掴む。
 襲い来る巨人の影は瞬く間に消え去り、ここ数日でよく目にしていた青年の顔が目の前に戻ってきた。

「本当にすまない。最初からきちんと名乗っておくべきだった」
「名乗って…べき……?」
「ああ。私は……ベイルだ。リングドル王国で伯爵位を賜っている、ベイル・エイドリアンだ。以前、ミュリエル嬢の中にいた君と、親しくさせてもらっていて、そして、君を見捨ててしまった酷い男だ」

 青年が一息に言いきった。それからまっすぐと私の目を見つめ、反応を待つ。

「……ウィル……じゃない、の……?」

 青年は黙ってうなずいた。

「じゃあ、お針のお姉さんの息子さんは――」
「帰ってきてない。申しわけないが、勘違いを利用させてもらった。その方が、素のリアに触れられそうだったから」
「そん、わた、私……」

 青年は何と名乗っただろうか。
 ずっとお針のお姉さんの息子さんだと思っていた。信じていた。だから、口調だって砕けたものだったし、態度だって、ほかの村人たちとほとんど変えることはなかった。しかも、この数日は食事まで作ってもらってしまっている。
 こんなこと、許されることではなかった。

「騙すような形になってしまい、すまなかった」

 騙された。
 怒りたい。けれど、それ以上に逃げ出したかった。穴があったら入りたい。もう、謝ってすむようなレベルでなんてなくて。

 こんなの、あんまりだ。
 私が一番、償わなくてはならない相手だったというのに。

「た、大変申し訳ありませ――」
「リア。謝罪などいらないんだ。それより、名前を呼んでもらえないか。私の本当の名前を」

 ベイル様の顔を見れば、当然、怒ってなんていなくて。
 本当の名前を呼んでほしいというのも、本心からだとわかる。

 本当の名前。
 ベイル・エイドリアン伯爵――ベイル様。

 今の私にとっては雲の上のような人。

「エイドリアン伯爵……」

 躊躇いがちにそう呼べば、ベイル様がくっと小さく声をもらした。

「できれば、ベイルと……呼んでくれないだろうか」

 不安げに揺れる瞳。きっと私も同じような目をしているだろう。

 ――また、そう呼んでいいの?

 否応なしに沸き起こってしまう期待。けれど、すぐに駄目だと思い直す。

「ごめ――申しわけ、ありません……」
「いや……こちらこそ無理を言った。私にそんな資格はなかったな」

 資格がないのは私のほうだ。
 私はベイル様の未来を狂わせてしまった。そんな私が高貴なるその名を呼ぶことなど許されるはずがなかった。




 ――でも。

 ベイル様。
 どうか心の中でそう呼ぶことだけは、お許しください。











 
 
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三日空きますm(__)m
そのあとは続けて投稿できる予定です。
 
 
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