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Ⅹ 集まる想い
146. メイドは口を閉じることを知らない
しおりを挟むメイドという生き物は総じておしゃべりらしく、シンディー以外のメイドたちからはよく話しかけられた。けれど、ろくな受け答えができなかった。ミュリエルとして過ごしていたときはほとんど友人がおらず、村で過ごしていたときはそもそも同年代の女性がいなかったためだろう。
それでも彼女たちは気にせず、一方的におしゃべりをしていく。
「マリ様、お聞きになられました? またエイドリアン伯爵が偉業をなされたって!」
曰く、ベイル様は周辺国と、移民に関する協定を締結したのだという。移民の権利が侵害されないよう、また、必要以上に移民が生じないよう配慮することを取り決めたものだ。
移民に関してはメイドたちも、暴動の時に手当てをしに駆り出されていたため、他人事ではない。みんな嬉しそうにしていた。
他にもベイル様の噂は多く、次期宰相になるのではないかとか、セーファス様の即位より前に本格的な実務を――外交などを任されるのではないかとか、王城でも色々噂されているらしい。しかも、そのほとんどがベイル様を高く評価するもので、さすがベイル様と誇らしくなった。
その一方で、遠い人になってしまったとも感じる。ベイル様の活躍は喜ばしいことなのに、やっぱり少しさびしかった。
「エイドリアン伯爵ってまだ学生でらしたわよね?」
ふと思い出したかのようにメイドの一人が言えば、別のメイドが頷く。
「ええ、ミュリエルお嬢様と一緒よ。少し前に十七歳になられて、今年ご卒業」
「そうよね。まだ学生なのにって思うと、末恐ろしいわ」
「本当に。ミュリエルお嬢様もやっぱりエイドリアン伯爵のほうがよかったんじゃないかしら。王太子妃って大変だっていうじゃない?」
「なに言ってるの。多才なミュリエル様が苦労されるわけないじゃない」
「そうよ。なにより王太子殿下のあの笑顔! 優しさ! 断然、王太子殿下がいいわ!」
まるで自分の相手であるかのようにいう三人目。そういえば、彼女は王太子殿下のファンだと言っていた気がする。
「はいはい、三人ともそのくらいになさい。どちらにせよ、私たちはお嬢様には連れていっていただけないでしょうしね?」
「わかってるわよ。夢くらい見たっていいじゃない」
「あなたは夢しか見てないでしょう」
「――ああ、でも」
くだらないやり取りの中、一人がふっと真面目な顔に戻った。
「王太子妃だけならまだしも、今度は巫女というお話でしょう? いくらミュリエルお嬢様といえども負担にならないかしら」
「そうね……ええ、少し心配ね」
そう、巫女。少し前から、ミュリエル様が巫女の力をお持ちだったらしいという噂が広まっていた。なんでも、ミュリエル様が見た夢が、予知夢だったとわかったそうなのだ。
偶然の発現。まだ一度しかなく、かなり弱い力だろうとみられている。けれど、数年前に神殿の巫女が亡くなってしまっているため、今神殿に巫女はいない。神殿側はすでにミュリエル様に巫女になるよう依頼したという話まで聞こえてきていた。
セーファス様はきっと断るだろう。巫女になった場合、結婚自体はできなくもないが、常に神殿に詰めなくてはならなくなる。セーファス様がそれを許せるとは思えなかった。
――まあ! 素晴らしいことよ! 予知夢の才能があるってことですもの。
メリッサさんの弾んだ声が甦る。事態をややこしくした元凶。あのとき話したことを、後悔は、たぶんしていないけれど。
「予知夢、か……」
今の体に戻って以来、牢屋の格子が閉まる音は聞いていない。それは実際に起こったから聞かなくなったのか、それとも、元の体に戻ったから聞かなくなったのか。
おそらくミュリエルの体にいたから聞こえた音だったのだろう。メイドたちの噂がそれを裏付けているように思えた。
ミュリエル様は、光の女神で、王太子殿下の婚約者で、巫女。
さすがヒロイン――という言い方は失礼かもしれないけれど、天は二物を与えるものなのだと、思わずにはいられなかった。
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