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Ⅺ 青い鳥はすぐそこに
171. リアでマリな私
しおりを挟む収穫は早朝が一番。この時刻に獲った野菜が一番おいしいと知ったのはこの夏のこと。以来、日の出と共に、ではなく、日の出の前に起きられるようになった。
ずっと村人たちにお寝坊さんとからかわれていたけれど、理由があればちゃんと起きられるのだ。もう笑わせたりなんてしない。
「やった。まだまだ獲れるね」
私は機嫌よく、畑の緑の間を歩いていた。
今年は夏野菜が豊作だ。これまでのように「ちょっとおまけ」をしてもらわなくても余裕で自分を養うことができた。鍋などの日用品の修理や買い替えまでできて、ほくほく顔だ。
今年広げた畑の、小麦みたいな穀物やイモも生育も今のところ順調だった。まだ獣との戦いがあるけれど、守り抜ければ次の春まで安心だろう。
「マリ」
収穫を続けていると、誰かに呼ばれた気がした。
けれど、気のせいだ。幻聴だ。この村に私をマリと呼ぶ人なんていないし、何よりも声が大切なあの人に似ていたから。ここにいるはずのないあの人に。
「マリ」
再び呼ばれて――勢いよく振り向いた。
と同時に籠が手から滑り落ちる。収穫したばかりの野菜が周囲に転がった。けれど私はそれどころではなかった。目に映った姿に頭が真っ白になる。
「な……そ、あ…え……?」
意味不明な声が漏れた。目に映っていたのは、凛々しいベイル様のお姿。
ありえない。幻覚だ。だって、ここにベイル様がいるはずなんて――。
「ベ、ベイル様……? 今、マリって……」
ベイル様はこれまでずっと私をリアと呼んでいたはずだ。突然どうしたのだろうか。
――いや、そうじゃない。気にすべきは、そこじゃない。でも。
「すまなかった。本当はマリというのだと聞いた。好きな人の本当の名前すら知らないなんて……呆れたよな」
「どこで、それを」
「ハーヴェス侯爵令嬢に聞いてきた。他にも……色々。本当にすまなかった」
レイラ様から聞いたのなら納得だ。レイラ様は奥様とやりとりしていただろうし、奥様はずっと私をマリと呼んでいたか、ら――。
「――え?」
聞き流した言葉の中に、なにか異質な単語が混ざっていた。直前のベイル様の言葉を思い返し、遅れて大きく動揺する。
「――す、好き……?」
「あ――」
ベイル様は目を瞬かせ、直後、ばつの悪そうな顔をした。いかにも、うっかり口からこぼれ出てしまった言葉だというように。
けれど、だからこそパニックになる。わざとでないなら、本音が漏れてしまったのだと受け取れてしまうから。
「そ、わ、わわわ、わた、し……」
「参ったな。もっとスマートに決めるつもりだったのに」
ベイル様は私ほど動揺はしていない。ただ、少しだけ悔しそうに顔を歪め、それからすっと膝をついて私の手を取った。
「マリ。愛しています。どうか自分と――ただのベイルである私と結婚してください」
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