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Ⅺ 青い鳥はすぐそこに
169. 夢からの目覚め
しおりを挟む約束の一週間が過ぎた。
今日で最後だ。これで完全にベイル様との縁が切れる。
この二ヶ月、特にウィルがベイル様だとわかってからの三週間は夢のような日々で、私には贅沢すぎる毎日だった。
全身を巡っていた神秘の波が引く。私の身体に触れていたベイル様の手もまた、静かに離れていった。そのゆっくりとした動きが名残惜しんでくれているかのようで、ちょっぴり嬉しい。
「リア。リングドルに戻りたくはないか?」
ずっと気にしてくれていたのだろうか。体を起こしてベイル様を見れば、いつもより少しだけ落ち着かなげにしていた。
「ううん。私はここが気に入っているから、いいんです。奥様と一緒に一度戻れたし」
「そうか」
残念に思ってくれただろうか。それともほっとしただろうか。ベイル様の感情は読み取れなかったけれど、きっとベイル様にとっては些細なことだ。なんとも思っていないというのが正解だろう。
「約束通り私は一度、戻る。もしリアが戻りたいと望んでいるなら、一緒にと思ったのだが」
「ありがとう。私は大丈夫です」
「わかった。なら、なるべく早く戻ってくることにする」
話半分に聞いて頷く。そもそも戻ってくること自体信じられることではなかったから。
ベイル様は一度戻る、という言い方をずっとしているけれど、きっともう戻ってこないだろう。ベイル様の居場所は、リングドル王国にこそあるのだから。
ベイル様はリングドル王国の期待の星だ。セーファス様の側近としても、国政を担う宰相としても期待されていることは、侍女として侯爵家で働いていたときからよくわかっていた。
「準備は? 終わりました?」
「ああ、荷物はもうまとめた。明日の未明に出立する」
「そっか。今までありがとうございました」
「いや、まだ治療は途中だからな。戻ってきたら――」
「いいえ、もう大丈夫です。だから、ベイル様はベイル様の、すべき本来のことに従事してください」
「リア……」
ベイル様は表情を険しくする。それから何か言いたげに口を開きかけ――すぐに首を振った。
「信じろというのは難しいか。私には前科があるしな」
「そういうわけでは――」
「いいんだ。だが、向こうですべきことが済んだら――」
後半の言葉は聞き取れなかった。ただ、その顔からは決意のような強い意思が感じられた。
翌早朝、私はこっそりとベイル様を見送りに行った。何人かの村人が声をかけているのを遠目に眺める。
私はベイル様に声をかけるつもりもなかったし、姿を見せるつもりもなかった。ただ、ベイル様の顔をしっかりと目に焼きつけたかった。今度こそ、忘れてしまわないように。
ベイル様は私に気づくことなく旅立った。ベイル様の乗った荷車を見えなくまで見送って、踵を返す。
胸にぽっかりと穴が開いてしまったかのようだった。
この数週間があまりにも幸せだったから。
けれど、この幸せにはいつか終わりが来るとわかっていた。
だから――
悲しくなんて、ない。
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