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Ⅰ ここはどこ? 私は誰?
3. 前世の知識を使って! とまではいかないけれど
しおりを挟む神様、仏様、ごめんなさい。
これは怠惰に生きていた私への罰でしょうか――。
「おなか…空いた……」
もはやグゥとも鳴らないおなか。おなかと背中がくっつくとはこういうことを言うのか、なんて無駄なことを考えて現実逃避をする。水でごまかすにも限度があった。――うう、ひもじい。
この世界で目覚めての四日目にして、私はすでに究極の飢餓状態にあった。
いや、これで究極だなんて言ったら長い間、飢餓に苦しんでる人たちには刺されそうだけど。でも、私にとっては究極も究極。お腹がすいて力が出ない、なんてことが本当にあるなんて知らなかった。
とはいえ、動けないからといって動かないのでは本当に飢え死にしてしまう。私はくらくらとする頭を抱えながら、ふらふらと力の入らない手足を踏ん張って、なんとか食料を調達しようと家を出た。
で、思ったのだ。これは何の罰だって。
単なる八つ当たりだったのだけれど、それをきっかけに思い出してしまった。茉莉として生きていたときの自分の生活を。
日本での私は、それこそ目を覆いたくなるくらい、怠惰で生産性にかける暮らしをしていた。けれど当時は、そんなことには気づいていなくて、恥じることなく軽い引きこもりを自称していた。今は人生の休暇だとか、勝手に言いながら。
もともとの私は、勉強は嫌いじゃなかったし、そこそこ真面目ではあったと思う。
けれど一度大ケガをして一ヶ月会社を休んだら――もう、復帰できなかった。そのままだらだらと親元で、家事手伝いという名目のすねかじりをして暮らしていたのだ。
この体に入っていた元々の魂の持ち主――がいるかはわからないが、いたとしたら、彼女には、木の実や果物を見つけられる知識や体力があったわけだし、籠を編めるだけの技術を持っていた。
茉莉とは大違いだ――ってことに気づいたのも遅かったけれど。後者はともかく前者のほうは、そのくらいならって思ってしまっていたから、余計に気づけなかった。
そう、木の実を拾うくらい子どもでもできると思ったのが間違いだった。
昨日も一昨日も私は近くの森に行っていた。けれどすぐに厳しい現実にぶつかってしまった。
ゲームの定番であるモンスターだ、魔獣だに襲われる、なんてファンタジックな理由ではない。
原因はもっと単純で――落ちていないのだ。木の実が。
というか、もっとちゃんと考えるべきだった。子どもでも採って来られるものなら、村の人たちだって、くず野菜といえども交換などしてくれなかっただろう。小麦をもらえていたのも、木の実よりもっと見つけるのが難しい果物を入手できていたからだ。考えが甘すぎた。
結果、この三日の間に私が口にしたのは、森の入り口付近にあった、ちょっと苦い虫食いのある葉っぱ(春菊よりは苦くないと思う)と、たまたま目についた赤い花(無味だった)――怖いのでどちらもちょっとずつ――それだけだった。
これはさすがにひどすぎる例だけれど、聞く限りでは村の他の人たちの食生活もろくなものではなかった。
主食は根菜類で、芋があれば芋。ただ時期によってはなくなってしまうらしく、その時々でとれる野菜がメインだという。さらに時々、粉を練った団子? のようなものを汁ものにして食べたり、豆を煮て食べたりもしているようだけれど、頻度としては非常に少なく、ご馳走扱いだった。
正直、ひどい生活に身を落とされたと思った。
けれど、この世界ではこれが普通の「村の平民」の暮らしだという。私が想像する、店を開いたり、宿屋に勤めたり、貴族の屋敷の下働きに入ったりというのは、「町の平民」の暮らしだそうだ。
なので、地方の村ではこれが普通。しかも、もっともっと貧しい人たちもいるというのだからやるせない。
「あんた! ちょっと、どうしたの? まるで来たばっかのころみたいじゃない」
ふらふらと森に向かっていると、村の女性が声をかけて来た。ぼうっとした頭で女性を見返し、遅れて言葉の意味を理解する。
「来た、ばっか……?」
「はあ? お腹がすき過ぎてボケてんのかい?」
その女性曰く、私は昨年の秋の終わりごろ――今は夏の終わりなので、だいたい十ヵ月くらい前だ――に突然やってきたのだという。
てっきりここで生まれ育ったとばかり思っていたので、これは衝撃的な事実だった。
「ったく、世話が焼けるね。これは貸しだからね、持っていきなさい」
私は女性に、お芋という大変貴重なお慈悲をいただいた。
そして、その一か月後。
私の食生活は劇的に改善されていた。
「マリ、お帰り! どうだった!?」
村唯一の商店の前で待ち構えていたのは、七人の女性たち。その女性たちに向けて私は持っていた木桶を持ち上げて見せた。
「大量! ではないですけど、皆さんでわけられますよー!」
究極の空腹体験をしたあのあと、私はふと思い立って釣りをしてみた。
そうしたらなんと入れ食いもいいところ。次から次へと魚が釣れたのだ。
どうやら、このあたりでは魚を食べる習慣がなかったらしい。魚も警戒せず簡単にひっかかってくれた。
とはいえ食べる習慣がないということは売るのも難しいということで、私はあれから時間をかけて魚の調理法や美味しさ、栄養価の高さを一生懸命アピールした。
まだ頑なに口にしない人もいるけれど、多くの村人にとっては御馳走となっている。さすがに最初ほどは釣れなくなってしまったので、一家に一匹という形だが、二日に一度は必ずありつける。
よかった。まともなご飯。本当に、よかった!
この調子で暮らしをよくしていくことが、もしかしたら、怠惰に生きてきた私がすべき使命――贖罪なのかもしれない。
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