2 / 188
Ⅰ ここはどこ? 私は誰?
2. 若返りの泉? ではないよ
しおりを挟むあら、びっくり。水面に映るは若い外人さん。
この泉は異界にでも繋がってるのかしら――。
「なんてね」
あのあと体を洗うために向かった泉。そこで初めて今の自分の姿を目にした――んだけど。
髪は灰色で、瞳はラベンダー。日焼けか汚れか肌は黒く、痩せすぎのせいで頬はこけていた。
前述のとおり、どう見ても日本人の顔じゃない。もちろん、私の知っている自分の顔でもなかった。その外人顔のせいで年齢も不詳だ。日本人だったときより五歳……いや、もっと若いのではなかろうか。
記憶の中の私が二十四歳。ということは。
「ええと、高三くらい? いや、でも、外国の人って大人びて見えるから……」
下手すると十二、三歳なんて可能性もある。けど、ここは間を取って十六ということにしておくか。
「うーん」
若返った、わーい! と喜ぶには見慣れない姿すぎた。それに、二十も半ばになると、冗談でも十代を名乗るのは恥ずかしい。
「……うん。大丈夫。中身の年齢がばれなきゃ、痛い子じゃない。痛い子じゃない……はず……」
呪文のようにつぶやいて、現実から目を背けた。
「――って、違う! 何言ってんの。もっと他に大事なことがあるでしょ、茉莉!」
ぱーんと両手で頬を叩いた。
……痛かった。
あーだこーだと言いながらも、なんとか無事に体を洗い終えた私は、来た道を戻っていた。
泉には長時間いたわけではないんだけれど凍えちゃったよ。気温自体も過ごしやすいくらいだったから当然かもしれない。日本だと、今は春とか秋くらいかなあ? そりゃ、水に入ったら凍えるよね。
にしても――転生なんて言ってみたけれど、やっぱりここで暮らした記憶なんてものはなかった。
転生じゃないとしたら転移だろうか。転移だったら見た目は変わらなかったんじゃないかって思うけれど。あとは、元々この体に入っていた魂を追い出して、代わりに入ってしまったって可能性? でも――。
そうだったとしたら、ごめんって言うしかない。これは不可抗力だ。私にはどうしようもなかった……と思う。
とにかく状況がわからなさすぎた。今は生活基盤をしっかりすることが先決かもしれない。
「っくしょん!」
いや、まずは家に帰ることが最優先か。寒さに身を震わせながら家路についた。
ふっ、家路。なんと素晴らしい響きでしょう!
そう、家があったのだ。私の家が!
村の外れの小さな茅葺の小屋。茅じゃなさそうだけどまあそれは置いておいて。
なぜ自分の家だとわかったかというと、村の人が教えてくれたのだ。泉に向かう前、たまたま声をかけた村の人が私のことを知っていて、さりげなく聞いたら、家の存在をポロリとこぼしてくれた。
さすが私! なんという巧みな話術!
……ごめんなさい。調子にのりました。単なる偶然です。
ちなみにちゃんと茉莉って名前(ちょっと訛りがあるからマリって感じかな?)で認識されてるみたいだった。
よかった。まったく別の名前で呼ばれてたら、たぶん反応できなかっただろう。
で、衣食住の「住」が確保されてるとなると気になるのは「食」。
それも聞いてみたところ、どうやら、森で拾った木の実や果物を、近所の人が育てた野菜(のくず)や小麦と交換したり、蔓(つる)で編んだ籠(かご)を売ったお金で食料を買ったりして暮らしていたらしい。
蔓で籠? あー、無理無理。
というか、自分のことのはずなのに、すべて「らしい」としか言えないのがなさけない。
でも、一日でこれだけのことがわかったのは重畳だよね。
「重畳、なのかなぁ……?」
テンションをあげて明るく吹っ切ろうとしてみたけれど、やっぱり無理だったようだ。ゲームの世界だと思って楽しむにはほら……ここの生活環境がね、よくないよね。
うん。別に電気がないとかゲームができないとか、娯楽が少ないとか、それは我慢しよう。
だけどね……世の中にはどうしても我慢できないってことが、やっぱりあるんだ。
ようやくたどり着いた自宅。ドアを開けて家の中に入る。
室内は仕切りも何もないワンルーム。当然、浴室などあるはずもなく――。
その部屋の隅に積まれた藁(のような何かの枯草)――おそらく寝床だろう――を見下ろして、私はこれからの暮らしに大きな不安を抱くのだった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる