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Ⅰ ここはどこ? 私は誰?
2. 若返りの泉? ではないよ
しおりを挟むあら、びっくり。水面に映るは若い外人さん。
この泉は異界にでも繋がってるのかしら――。
「なんてね」
あのあと体を洗うために向かった泉。そこで初めて今の自分の姿を目にした――んだけど。
髪は灰色で、瞳はラベンダー。日焼けか汚れか肌は黒く、痩せすぎのせいで頬はこけていた。
前述のとおり、どう見ても日本人の顔じゃない。もちろん、私の知っている自分の顔でもなかった。その外人顔のせいで年齢も不詳だ。日本人だったときより五歳……いや、もっと若いのではなかろうか。
記憶の中の私が二十四歳。ということは。
「ええと、高三くらい? いや、でも、外国の人って大人びて見えるから……」
下手すると十二、三歳なんて可能性もある。けど、ここは間を取って十六ということにしておくか。
「うーん」
若返った、わーい! と喜ぶには見慣れない姿すぎた。それに、二十も半ばになると、冗談でも十代を名乗るのは恥ずかしい。
「……うん。大丈夫。中身の年齢がばれなきゃ、痛い子じゃない。痛い子じゃない……はず……」
呪文のようにつぶやいて、現実から目を背けた。
「――って、違う! 何言ってんの。もっと他に大事なことがあるでしょ、茉莉!」
ぱーんと両手で頬を叩いた。
……痛かった。
あーだこーだと言いながらも、なんとか無事に体を洗い終えた私は、来た道を戻っていた。
泉には長時間いたわけではないんだけれど凍えちゃったよ。気温自体も過ごしやすいくらいだったから当然かもしれない。日本だと、今は春とか秋くらいかなあ? そりゃ、水に入ったら凍えるよね。
にしても――転生なんて言ってみたけれど、やっぱりここで暮らした記憶なんてものはなかった。
転生じゃないとしたら転移だろうか。転移だったら見た目は変わらなかったんじゃないかって思うけれど。あとは、元々この体に入っていた魂を追い出して、代わりに入ってしまったって可能性? でも――。
そうだったとしたら、ごめんって言うしかない。これは不可抗力だ。私にはどうしようもなかった……と思う。
とにかく状況がわからなさすぎた。今は生活基盤をしっかりすることが先決かもしれない。
「っくしょん!」
いや、まずは家に帰ることが最優先か。寒さに身を震わせながら家路についた。
ふっ、家路。なんと素晴らしい響きでしょう!
そう、家があったのだ。私の家が!
村の外れの小さな茅葺の小屋。茅じゃなさそうだけどまあそれは置いておいて。
なぜ自分の家だとわかったかというと、村の人が教えてくれたのだ。泉に向かう前、たまたま声をかけた村の人が私のことを知っていて、さりげなく聞いたら、家の存在をポロリとこぼしてくれた。
さすが私! なんという巧みな話術!
……ごめんなさい。調子にのりました。単なる偶然です。
ちなみにちゃんと茉莉って名前(ちょっと訛りがあるからマリって感じかな?)で認識されてるみたいだった。
よかった。まったく別の名前で呼ばれてたら、たぶん反応できなかっただろう。
で、衣食住の「住」が確保されてるとなると気になるのは「食」。
それも聞いてみたところ、どうやら、森で拾った木の実や果物を、近所の人が育てた野菜(のくず)や小麦と交換したり、蔓(つる)で編んだ籠(かご)を売ったお金で食料を買ったりして暮らしていたらしい。
蔓で籠? あー、無理無理。
というか、自分のことのはずなのに、すべて「らしい」としか言えないのがなさけない。
でも、一日でこれだけのことがわかったのは重畳だよね。
「重畳、なのかなぁ……?」
テンションをあげて明るく吹っ切ろうとしてみたけれど、やっぱり無理だったようだ。ゲームの世界だと思って楽しむにはほら……ここの生活環境がね、よくないよね。
うん。別に電気がないとかゲームができないとか、娯楽が少ないとか、それは我慢しよう。
だけどね……世の中にはどうしても我慢できないってことが、やっぱりあるんだ。
ようやくたどり着いた自宅。ドアを開けて家の中に入る。
室内は仕切りも何もないワンルーム。当然、浴室などあるはずもなく――。
その部屋の隅に積まれた藁(のような何かの枯草)――おそらく寝床だろう――を見下ろして、私はこれからの暮らしに大きな不安を抱くのだった。
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