まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅰ ここはどこ? 私は誰?

12. カツ丼は出ますか? え、違う?

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 年下に翻弄されるなんて……。
 疲弊しながらもなんとか互いの紹介を終えた。
 なぜセーファス様がいらっしゃるんだろうって思ったら、執事が言った「ご学友と共に」のご学友部分がセーファス様のことだったらしい。立場上、公には訪問できないため、以前からこういった手段を取っていたのだという。

「覚えておいて。こんな手を使ってでも会いたいと思っているのは、ミュリエルだけだから」

 セーファス様は言った。
 すごい殺し文句だ。私自身は恋するつもりなんてないけれど、女性たちが落ちるのも納得のイケメン具合だった。

 なんで恋するつもりがないかって?
 それはここがゲームの中じゃなくて現実だからだ。ゲームの中のヒロインだと思って恋などしようものなら、待っているのは破滅だ。そんなわかりきった失敗はしたくない。
 もともと恋愛経験のない私。恋なんてしようと思ってもできないだろうけれど。



 顔合わせが済むと侯爵様が退席された。それでやっとソファーに座ったんだけど。

 え、ちょっと。私、一人でどうしろっていうの?
 初対面みたいなもんなんだよ? わかってる??

 室内に残されたのは、セーファス様とベイル様と私――とメイド長のタイムさん。両親との再会時にもいてくれたあのベテランメイドさんだ。とはいえ、メイドさんが話を振ってくれるわけがなく。気まずい沈黙が――。

「ミュリエル、どうして君がこんな目に……」

 ――落ちなかった。
 目の前には泣きそうな顔をしたセーファス様。見ているこちらが苦しくなる。

「なにか、なにか、覚えてないかい? 記憶喪失になったきっかけは?」

 私は首を振った。むしろ教えてほしいくらいだ。何をどうすれば、村の道端で、前世を思い出すというのだろう。でもって、それまでの記憶を失くすと言うのだろう。

 隕石か? 落ちてきた隕石が頭に当たったのか?
 いや、当たってたら、普通に立ってなどいられなかっただろう。

「どんな些細なことでも構わないよ。覚えていることや思い出したことは?」
「と、特には……」

 一瞬、迷った。何も覚えていないと答えるのでは嘘になるのではないかと。前世の記憶であればあるのだから。
 けれど迷っているうちに、セーファス様は一人納得されてしまった。

「そうか……。事件にでも巻き込まれたのだろうか。ミュリエルが私の思い人だと知った何者かに――」
「殿下……」

 膝の上に置かれた殿下の拳が、白くなるほど固く握られている。もしこの場に犯人がいたなら、殿下は自ら殴りかかりに行っていただろう。

「き、記憶がないと気づいたのは、外出しているときで、道端に立っていたんです。怪我もなかったし、たぶん、事件とかじゃないと思います。たぶんですけど」

 セーファス様を落ち着かせようと言葉を重ねる。事件かどうかなんて私にはまったく見当もつかなかったけれど。
 けれど、常識的に考えて、記憶喪失になるとしたら事件か事故だ。殴られた、とか階段を踏み外して頭を打ったとか。もしくは精神的な衝撃か。

 私自身は、記憶がなくなったのは、単に、水井茉莉の記憶がよみがえったからじゃないかと思っている。じゃあ、どうして水井茉莉の記憶がよみがえったのかと聞かれるとわからないけれど。

「他に覚えていることは? ベイルのことを覚えていたというのは本当かい?」

 わずかに眉を寄せて、どうして自分のことは覚えていなかったのかと言いたげな顔をした。
 いや、それはいい。いや、よくないかもしれないけれど。それよりも、どうしてその話を知っているのかということだ。私は思い切り焦った。

「ち、違うんです、それはっ! それは――」
「違うのか……」

 今度はベイル様が残念そうにこぼす。
 たらしこんだつもりはないけれど、罪悪感がやばかった。

 セーファス様を悲しませたかったわけではない。侯爵様の前でベイル様の名前を出したのは、話の流れのようなものだ。もちろん今だって、ベイル様を傷つけようとして否定したわけではない。

「あ、ええと、その……ご、ごめんなさい」

 とっさに謝罪が口をつくのは日本人の性か。これで丸く収まるなら苦労なんてないというのに。

 セーファス様とベイル様の視線をひしひしと感じる。見つめかえす勇気はなくて、視線を落とす。
 セーファス様がふっと息を吐いた。束の間の緊張が緩む。

「話してはくれないか……」

 ドキッとした。今のやりとりから一体何を察したのだろうか。たとえ何かを察していたとしても、私からは何も言えない。

 ミュリエルの記憶の代わりに茉莉の記憶を取り戻しましたなんて言えないし。
 ベイル様の名前を、前世の記憶から知ったなんて言えないし。
 ましてやここが――乙女ゲームの世界だなんて、口が裂けても言えない。

「――すみません」

 うつむくしかなかった。

 
 
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