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Ⅰ ここはどこ? 私は誰?
14. 金の斧の話ではないけれど
しおりを挟む前の話に修正が入っています。
繋がりの関係上、2話前から読んでいただいた方がいいかもしれません。
よろしくお願いします。(2019/07/13)
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頼れと言ってくれる仲間がいるミュリエルがうらやましい。
ゲームのヒロインに嫉妬しそうだ。というか、嫉妬してるんだと思う。たぶん。
せめて、もう少しマリとミュリエルとの精神が一致してからのやりとりだったなら、自分のこととして喜べたのだろうけれど。
――なんて。
くだらないことを考えていないで、ヒロインらしくしなきゃね。
ミュリエルはたぶん、明るくて甘え上手な女の子だったんじゃないかな。
でもって家出をしてしまうような子だから、人に依存しないと生きていけないようなタイプでもないと思う。
だから、男たちを振り回す小悪魔タイプ――っていうのが私の予想。
――だったから、さっきはそんな感じで言ってみた。
二人の反応をみるに、大きく外れてはいないだろう。この調子でやっていけばいいのか。
ただ、この設定だと私は結構、無理をすることになる。マリな私は振り回すどころかむしろ簡単に流されちゃうタイプだし。それに、一人で抱え込んじゃうタイプだし? そもそも頼るってこと自体、どうすればいいかわからない。
ああ、ほら。
こう悩んでしまっている時点でもう違う。もっと気楽に考えられればいいのだけれど。
いや、そっか。そもそも完璧にする必要はないのだ。違和感を抱かれない程度に演じられればいい。それなら――できるかもしれない。
というか、完璧にしようと無理しても続けられない。むしろ完璧にしようとするな、と自分に言い聞かせるべきかもしれなかった。
これまでの自分より少し明るく、行動的に。それから、みんなを頼るように。
それだけ。それだけできれば――が大変なんだけど、きっとなんとかなるはずだ。
「――よかった」
「殿下?」
「ああ、その、ね。やはりミュリエルは、ミュリエルだと思って」
嬉しそうにセーファス様が言った。
思わずフリーズする。演じると覚悟を決めたばかりだというのに。
ずきり、と胸が痛んだ。
――まだ、ミュリエルとして馴染んでいないから、ね。今だけ。今だけだから気にしちゃダメ。
傷ついたような気がしたのは気のせいだ。セーファス様の言うように、私はミュリエルなのだから、事実を言われて傷つく心なんてあるはずがない。
――本当に?
――私はマリなんだから傷ついてもおかしくないんじゃない? 自分はマリだって言わなくていいの?
私は首を振った。なにやら幻聴が聞こえた気がするけれど、これも気のせいだ。
「ミュリエル?」
「あ、はい! ではなくて、ええと……なんのお話でしたっけ?」
「――……ミュリエル、だよね?」
「え……?」
油断した。セーファス様に「ミュリエルだ」なんて言われると思っていなかったから。
でも大丈夫。次は失敗しない。
「……もう、何言ってるんですか、殿下。おかしなこと言わないでくださいませ。私はちゃんとミュリエルですわ。私がミュリエルでなくて、何だというのです?」
「それもそうか。おかしなことを言ってしまったね」
「まったくですわ」
ふふふっと互いに笑みを浮かべる。室内は穏やかな空気に満ちた。
そこに聞き手に回っていたベイル様が口を開く。
「そうだ、ミュリエル。ハーヴェス侯爵令嬢が――あー、ミュリエルのクラスメイトだが、彼女が、ミュリエルに会ったら、その……よろしく伝えておいてくれと言っていた」
途中からだんだん口が重くなった。内容からして友人なのだろうけれど。
「よろしく、ですか?」
「つまりだな、その……私に黙って行くなんてひどい、だそうだ。それから、戻ってきたら覚悟しておくように、と」
視線を泳がせるベイル様の姿に、私は背筋を冷やした。相手の性格がわからないだけに、なんとも恐ろしく感じる。
「ふっ、くくっ。さすがハーヴェス侯爵令嬢だね。んー、そうだね。悪い子ではないから安心するといいよ」
「ええと、そういう問題でしょうか……?」
「今はそれでいいんじゃないか? あとは実際に会ったときに甘えてやればいい」
「甘えてって……」
少々納得いかないけれど、これ以上は教えてくれなかった。
それからはこの話の流れで、私がいなかった間の学院の話に移る。もう記憶喪失の話題に振れられることもなく、私は落ち着いて聞くことができた。
そうして話をすること一時間弱。二人は万全ではない私の体調を気遣って、早めに帰って行った。
攻略対象との初顔合わせ。
少しばかり危うい場面もあったけれど、こうして何とか乗り切ることができた。
ヒロインなんて役柄は自分には似合わないと思うけれど、これからやってくるだろう「危機」を乗り越えるまでだけでも頑張りたい。
セーファス様もベイル様もイケメンだ。見た目だけじゃなく、内面も。二人もきっと協力してくれるだろう。
私はヒロイン。ベルネーゼ侯爵家の令嬢、ミュリエルだ。
ミュリエルとして精一杯生きようと、私は決意した。
けれど。
この時、私は大きな過ちを犯していた。
のちに、この日の自分の行動をひどく後悔することになる。
私は、嘘だけは、ついてはいけなかったのだ。
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