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Ⅴ いざ、帰らん!
55. お兄様に会ってみた
しおりを挟む長期休暇に入っての二日間、私や両親が王都に残っていたのにはわけがある。
それは王宮で働いているお兄様の休暇の開始が、学院より二日遅かったからだ。当初は領地で再会する予定だったのだが、兄たっての願いで一緒に帰郷することになっていた。
ミュリエルを溺愛していたというお兄様――名前はヴィンスというらしい――と会ったら、やっぱり違和感を覚えられるんじゃないだろうか。お兄様が到着したとの連絡を受けて、私は緊張で身を固くしていた。
そのお兄様は馬車で屋敷の前まできて、そのまま外で待っているとのことだった。
まだ夜が明けたばかりのこの時刻、私はドキドキしながら玄関を出る。そして、馬車が待っているところまで行くと――。
「ミュリエル!」
両手を広げ、満面の笑みで待つお兄様。
ここは飛びつくのが正解か、それとも妹離れしなさいとあしらうのが正解か。いや、キモいと言って突き放すのもありかもしれない。なんたって私はいわゆるお年頃という年齢なのだから。
お兄様に向かって歩きながらそんなことを考えていると、あっというまにお兄様の目の前へとたどり着いていた。
よし、ここは記憶喪失した人らしく、はにかんでごまかすという戦法でいこう。
「お兄さ――」
笑みを浮かべて口を開いたその時。
スパコンッ
小気味よい音が響いた。と、同時に視界に星が飛ぶ。
「ったあ……」
私は額を押さえながら、何が起こったのかとわけがわからないまま、お兄様を見上げる。
お兄様の手には、丸めた冊子が握られていた。
って、叩いたの!? その新聞より硬そうなそれで!?
もう、なんなの! 涙出たし!
「さて、ミュリエル。兄様は優しいからね、言い訳はふたつまで聞いてあげよう。一体全体どうしてこんなことになったのかな? きっちり説明してもらおうか」
黒い笑みを浮かべたお兄様は、手に持っていた紙を開いて見せる。それがなんであるかわかった瞬間、私は思わず視線をそらした。
「安心しなさい、ミュリエル。領地まで、時間はたっぷりあるからね」
有無を言わせぬ態度で、お兄様はミュリエルを自分と同じ馬車に乗せる。私のなけなしの抵抗はあっさりとあしらわれ、その運命からは逃れられなかった。
うう、お兄様はミュリエルを溺愛してたんじゃないの? こんなの絶対違う。これじゃあ、魔王にしか見えないよー!
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