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Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね
46. 爆弾投下
しおりを挟む学院に通い始めておよそ一ヶ月半。季節は冬に差しかかっていた。
先生がたの対応は相変わらずだ。ただ、面倒になってきたのか、授業で指される回数は減った。クラスメイトたちの蔑みの視線も相変わらずだけれど、いいのか悪いのか同情の眼差しは減りつつある。
いじめられるというよりはいないものとして扱われることのほうが増えてきたかもしれない。最初はこっちのほうがましだと思っていたけれど、地味に辛い。何度セーファス様たちのクラスに逃げ込もうと思ったことか。
ただよかったのは、授業がだんだんとわかり始めてきたことだ。未だにあてられても答えられないが、解答を聞けば言っていることはわかる。だから少しだけど授業は楽しくなってきていた。
そんな感じでミュリエルをやっている私だけど、実はこういうこととは別に一つ、気がかりがあった。
そう、通学初日にしたベイル様との約束だ。
あのとき、私の休みを一日ほしいと言ったベイル様。けどその約束を果たせないまま、ずるずると日にちが過ぎてしまっていた。
ベイル様の願いを叶えたいとは思う。でも私と一緒にいることでベイル様までもが馬鹿にされたら忍びないし、だからといって変に距離を取って他の人たちに割りこまれるのも嫌だ。
ベイル様にはこのまま友人でいてほしいと思っていた。今くらいの距離感なら私からベイル様を引き離そうとする人もいないのでちょうどいい――なんてのは完全に私の勝手な都合だけど。
それに、やっぱり丸一日一緒にいるのは不安だった。絶対にミュリエルらしくない言動をしてしまうだろうから、それで幻滅されてしまうのではないかと思うと恐ろしい。
最近は、そのベイル様とは、毎朝教室の前で軽くおしゃべりする程度の付き合いだ。いつも私より先に来て待ってくれているのが嬉しい。大体いつもセーファス様がいらっしゃるまでおしゃべりをして、セーファス様に朝の挨拶をしたところでそれぞれの教室へと別れる。
セーファス様とはごくまれに一緒に登校することもあるけれど、基本、二人と関われるのは授業以外では朝の時間だけだった。お昼も一緒に食べれるかなと思っていたんだけど、昼食時に男女が同じテーブルにつくことは校則で禁じられていたのだ。
でも、それでよかったのかもしれない。教師の態度のこともそうだし、クラスメイトの視線や嫌がらせもそうだけど、私はいつもすぐにベイル様に助けてほしいと思ってしまう。もし、昼食を一緒に取っていたら、とっくに泣き言を漏らしていただろう。自分がミュリエルであることも忘れて泣きついていたに違いない。
そうしたら、今頃はもうベイル様に愛想つかされて、一人ぼっちになっていたかもしれなかった。
あー、それは言っちゃ駄目か。私には、なんだかんだと私に巻き込まれながらもいつも一緒にいてくれるレイラ様がいる。レイラ様がいるのに一人ぼっちだとか言ったら割を食っているレイラ様が可哀想だ。
レイラ様に対してのクラスメイト達の当たりは当然のことながら悪くないんだけどね。私と一緒にいると絶対に話しかけてこないし、この間の実技がそうだったけど、私に嫌がらせをするためならレイラ様を巻き込むこともいとわない。
レイラ様も侯爵家の令嬢なんだけど、学院内の身分制度ってホントどうなってるんだろうってちょっと疑う。
そして今は授業と授業の間にある中休み。短い休憩なのでベイル様やセーファス様が顔を出すことはほとんどなく、いつものようにレイラ様とおしゃべりをして過ごしていた。
お昼は約束があるからとどこかに行ってしまうレイラ様だけど、中休みはずっと一緒にいてくれる。私が学院を続けていられるのは、そんなレイラ様様だろう。
「ねぇ、ミュリエル様。こう言ってはなんですけれど、どうして学院に戻ってらしたの?」
「え……?」
だから、まさかそんな言葉がレイラ様の口から飛び出すなんて思っていなくて、私は大きなショックを受けた。
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