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Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね
45. 暗黙の了解らしい
しおりを挟む「静粛に! 静粛に!」
男性教師が何度か注意して、ようやく生徒たちが静かになる。そして全員の視線が男性教師へと集まる。
「さすがはハーヴェス侯爵令嬢。よくできている。だが――」
レイラ様にいちゃもんをつけるのか、と思わず不満が顔に出る。
「ちょうどいい。ベルネーゼ侯爵令嬢。ハーヴェス侯爵令嬢の楽器を鳴らしてみなさい」
「え、あ、はい」
途端にレイラ様の顔色が変わった。私はそれを不思議に思いつつも、起動されたままの木箱をレイラ様から受け取る。
そして先ほどレイラ様がしていたように、箱の上部に伸びる神秘のラインを指で弾く――。
「あ、あれ?」
弦を弾こうとした指がすっと空を切った。もう一度、同じように指を伸ばすが、結果は変わらない。
私は驚きとともに、レイラ様、そして男性教師へと視線を向けた。
「どういうこと、ですか……?」
神秘によって起こされるのは、基本的には『現象』だ。物体そのものではなくとも、それによって引き起こされる現象は同じ。つまり竪琴を弾いたら音が出るので、音という現象が返されるはずだった。
「これは三年次に教える内容なのだが――神秘の例外、というものが存在するんだ。理屈はわかっていない。だが、どうしてか神秘の力で描いた構成物に直接人が触れて現象を起こそうとした場合、それは実現しない。現象を起こすためのトリガと神秘との間には、必ず人以外の何らかの物質を介在させる必要があるのだ」
「では、先ほどレイラ様が弾いたときに音が出たのはどうしてでしょうか」
「それはハーヴェス侯爵令嬢が微量の神秘を放出しながら弾いていたためだろう」
男性教師はさらりと答えたが、それは実はとんでもないことではないだろうか。量を調節して放出するというのは、想像だけど相当細かな作業のはずだ。想像しただけでもじっとしていられないようなむずがゆさを感じた。
「とにかく、この神秘の例外が存在するがために、神秘技師たちの間では神秘は内部構造として使う、というのが暗黙の了解となっている。今回は教えていなかったから仕方がないが、覚えておくようにしなさい」
「はい」
「まあ、それを差し引いても、ダントツの出来だがな。よく頑張った」
「ありがとうございます」
レイラ様は少しだけ悔しそうな表情で着席した。
そのあとにはベイル様やセーファス様の発表もあった。二人とも完成度の高い、素晴らしい出来栄えだったとだけ言っておこう。
自分の出来の悪さにはちょっとへこんだけれど、それ以上に、仲のいい三人の出来のよさに誇らしくなった。
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