まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

文字の大きさ
45 / 188
Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね

44. これだって立派な楽器です

しおりを挟む
 

「さて、じゃあ最後の希望者だな。ベルネーゼ侯爵令嬢、見せなさい」

 八人の令嬢たちの発表が終わり、いよいよ私の番になった。私は立ち上がり、木箱を持つ。
 途端に小さく忍び笑いが聞こえた。

 すみませんね、オンオフ機能すらつけられませんで!

 私が作ったのはシェイカーいわゆるマラカスだ。
 神秘の力で描いたのは粒だけ――多少木箱の内側にも手は加えているけど――なので、起こされる神秘は、もし粒がそこにあったときに起こること全てだ。
 つまり木箱にぶつかれば音は出る。ついでにいうと、振りまくったら、木箱か粒が摩耗して削れる――はず。

「では音を」
「はい。この木箱をこうして振ると――」

 私は木箱を普通に振った。それに合わせてシャカシャカと音がする。

「こんな感じで音が出ます」

 まあこんなもんだろうと思いながら、周りへと視線を向けると――何故かみんな微妙な顔をしていた。
 失礼な。これだって立派な楽器だっていうのに。

 やめろとも続けろとも言われない微妙な時間が続く。これは説明の続きを待たれているのだろうか。

「あ、あとはですね、このように揺すると海のような音も――」
「ああ、いや。もういいぞ」

 ザザーンと一度鳴らしたところでストップがかかる。

「……見たまんまだったな」
「はあ」
「期待を裏切らないというか、なんというか……いや、だが、マシだったほうだろう。音を出せるとこまで行くとは思ってなかったからな」

 やっぱり思ってなかったんだ。事故にはならないだろうって断言してたもんね。私が神秘の力を解放できるとはこれっぽっちも思ってなかったわけだ。

「よし、気を取り直して次!」

 これ以降は本当にレベルが違った。バートン男爵令嬢のも悪くないと思っていたけど段違いだった。
 木箱に穴をあけて笛にしていたり(それも自在に音色が変えられるやつ)、色々な動物の声を再現できるものであったり、直前の人の声をリピートさせることができるものだったり(たしか日本にそんなおもちゃあった!)――これが機械仕掛けじゃないっていうのが驚きだった。

 あ、あれ? 今日、実技初回だよね? それでどうしてこうなる!


「次、ハーヴェス侯爵令嬢」

 そしていよいよレイラ様の番になった。レイラ様は前半に発表した私たちと同じように木箱自体には手が加えられておらず首を傾げる。
 やっぱり、優秀なレイラ様であってもぶっつけ本番はきつかったのだろうか。私は思わず顔を青くした。

「レイ――」

 声をかけようとした私を、レイラ様が視線で黙らせる。その表情は自信に満ち溢れていた。

「では、起動いたします」

 その瞬間、神秘がぶわっと広がった。

「わぁっ」

 思わずといった様子で、みんなが感嘆の声を洩らす。私もそれに目を奪われ、ぽかんとしてしまった。

 レイラ様の構成、それは見事だった。神秘によって描かれた神秘の通り道は木箱内部に留まらず、内部から外に向けて大きく広がっていた。木箱の内部は複雑な神秘のラインで一杯で外から読み解くことはまず不可能。そして木箱から上へと伸びた神秘のラインは、まるで竪琴のような形を作り上げていた。

「鳴らします」

 レイラ様が指をかけたのはその竪琴の弦の部分。指で弾くとポロンポロンと美しい音が鳴り、室内に響き渡った。




 ――…ポロン


 そして、短めではあるが一曲分の演奏が終わり、音が止んだ。
 弦からレイラ様の指が離れる。その直後、割れんばかりの拍手がレイラ様を包んだ。

「レイラ様!」
「ハーヴェス様!」
「すごい! 直接神秘に触って音を出すなんて!」
「見たか、あの構成! どうなってるんだ、内部のあの構造。複雑すぎてまったくわからなかったぞ!」

 あちこちから興奮した生徒たちの声が飛び交った。その中には事前課題を伝えなかっただろうクラスメイトたちもいて――。

 すごい……本当に見返しちゃったよ……。

 レイラ様が遠くに行ってしまったようで、私は少しだけ寂しくなった。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...