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Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね
44. これだって立派な楽器です
しおりを挟む「さて、じゃあ最後の希望者だな。ベルネーゼ侯爵令嬢、見せなさい」
八人の令嬢たちの発表が終わり、いよいよ私の番になった。私は立ち上がり、木箱を持つ。
途端に小さく忍び笑いが聞こえた。
すみませんね、オンオフ機能すらつけられませんで!
私が作ったのはシェイカーいわゆるマラカスだ。
神秘の力で描いたのは粒だけ――多少木箱の内側にも手は加えているけど――なので、起こされる神秘は、もし粒がそこにあったときに起こること全てだ。
つまり木箱にぶつかれば音は出る。ついでにいうと、振りまくったら、木箱か粒が摩耗して削れる――はず。
「では音を」
「はい。この木箱をこうして振ると――」
私は木箱を普通に振った。それに合わせてシャカシャカと音がする。
「こんな感じで音が出ます」
まあこんなもんだろうと思いながら、周りへと視線を向けると――何故かみんな微妙な顔をしていた。
失礼な。これだって立派な楽器だっていうのに。
やめろとも続けろとも言われない微妙な時間が続く。これは説明の続きを待たれているのだろうか。
「あ、あとはですね、このように揺すると海のような音も――」
「ああ、いや。もういいぞ」
ザザーンと一度鳴らしたところでストップがかかる。
「……見たまんまだったな」
「はあ」
「期待を裏切らないというか、なんというか……いや、だが、マシだったほうだろう。音を出せるとこまで行くとは思ってなかったからな」
やっぱり思ってなかったんだ。事故にはならないだろうって断言してたもんね。私が神秘の力を解放できるとはこれっぽっちも思ってなかったわけだ。
「よし、気を取り直して次!」
これ以降は本当にレベルが違った。バートン男爵令嬢のも悪くないと思っていたけど段違いだった。
木箱に穴をあけて笛にしていたり(それも自在に音色が変えられるやつ)、色々な動物の声を再現できるものであったり、直前の人の声をリピートさせることができるものだったり(たしか日本にそんなおもちゃあった!)――これが機械仕掛けじゃないっていうのが驚きだった。
あ、あれ? 今日、実技初回だよね? それでどうしてこうなる!
「次、ハーヴェス侯爵令嬢」
そしていよいよレイラ様の番になった。レイラ様は前半に発表した私たちと同じように木箱自体には手が加えられておらず首を傾げる。
やっぱり、優秀なレイラ様であってもぶっつけ本番はきつかったのだろうか。私は思わず顔を青くした。
「レイ――」
声をかけようとした私を、レイラ様が視線で黙らせる。その表情は自信に満ち溢れていた。
「では、起動いたします」
その瞬間、神秘がぶわっと広がった。
「わぁっ」
思わずといった様子で、みんなが感嘆の声を洩らす。私もそれに目を奪われ、ぽかんとしてしまった。
レイラ様の構成、それは見事だった。神秘によって描かれた神秘の通り道は木箱内部に留まらず、内部から外に向けて大きく広がっていた。木箱の内部は複雑な神秘のラインで一杯で外から読み解くことはまず不可能。そして木箱から上へと伸びた神秘のラインは、まるで竪琴のような形を作り上げていた。
「鳴らします」
レイラ様が指をかけたのはその竪琴の弦の部分。指で弾くとポロンポロンと美しい音が鳴り、室内に響き渡った。
――…ポロン
そして、短めではあるが一曲分の演奏が終わり、音が止んだ。
弦からレイラ様の指が離れる。その直後、割れんばかりの拍手がレイラ様を包んだ。
「レイラ様!」
「ハーヴェス様!」
「すごい! 直接神秘に触って音を出すなんて!」
「見たか、あの構成! どうなってるんだ、内部のあの構造。複雑すぎてまったくわからなかったぞ!」
あちこちから興奮した生徒たちの声が飛び交った。その中には事前課題を伝えなかっただろうクラスメイトたちもいて――。
すごい……本当に見返しちゃったよ……。
レイラ様が遠くに行ってしまったようで、私は少しだけ寂しくなった。
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