44 / 188
Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね
43. 猫愛ここに極まれり
しおりを挟む「そこまで! 全員手を止めなさい」
男性教師の声がかかった時、私はほっと息を吐いた。
あのあと、音の仕組みがわからず途方に暮れていた私だが、必死に頭を働かせ、これまで勉強してきた神秘の構成を組み合わせ、音を出す仕組みを何とか編み出した。
そしてまわりの生徒たちより大幅に遅れながらも、実際に神秘の力を使ってみた――のは、ほんの数分前のことだ。時間ギリギリのタイミングで、神秘の力の解放に成功した。
ホントに危なかった。ここでも間に合わなかったら、また教師たちにより遠回しないじめが始まったかもしれない。応援してくれる生徒がいる手前、そんな無様な姿は見せられなかった。
「さて、これから発表に移るが……順序はどうするかな。出生日の逆順がいいか――」
「せ、先生」
一番前にいた女子生徒がおずおずと手を上げる。
「どうした、バートン男爵令嬢」
「そ、その……私はハーヴェス侯爵令嬢の後になるのですが、その、とても自信がないので、可能でしたら順番の変更をお願いしたいのですが……」
「ああ、確かにそうだな。よし、それなら希望者は先に発表させよう。残りは出生日の遅い人からだ。ということで、自信のない者は挙手しなさい」
ぴたりと教師と目が合って、ああ、私に言ってるんだと思った。でも、まあ、一人だったら嫌だし、日本人らしく周りに倣うことにしよう――ってことで、まず、まわりの反応を伺う。
すぐに手があがったのは五人ほど。そのあともパラパラと手があがる。そのタイミングで私もおずおずと手を上げた。
するとその途端、周囲からくすくすという笑い声があがった。
え、駄目? 結構な人数上げてると思うけど!
そして男性教師もまた、眉間に手を当て、険しい表情をしていた。
ええー、なにその顔。先生、私を見て言ってたじゃん。なにさ、なんか間違ってるっていうの?
「ベルネーゼ侯爵令嬢。おま――君には侯爵令嬢としてのプライドはないのか」
うん? と首を傾げて、改めて手を上げた顔ぶれを見れば、全員下級貴族と呼ばれる男爵家の令嬢や子爵家の令嬢だった。ちなみ令息たちはやはりプライドがあるのか誰一人として手を上げていない。
「まあいい。では、バートン男爵令嬢から始めよう」
男性教師は私の鈍い反応をみてか、あきらめた様子で先に進めた。
まず立ち上がったのは、先ほど自信がないと言っていたバートン男爵令嬢。自信がない作品っていうのはどのくらいのレベルだろうか。発表はできるのだから、音は出るのだろうけれど。私は興味深々で彼女の手元に視線を向けた。
「私が作ったのはこれです。起動して各面を触るとその面から音が出ます」
見た目はもらったときのままの木箱だった。起動すると内部に神秘が構成されているのがわかる。細い神秘の通り道がジャングルジムのような形を描いていた。
ちなみ神秘の構成は見えないようにすることも可能らしいのだが、それを組み込むと一気に構成図が複雑になるため、大体、最上級生になるまではみんな丸見えのままだそうだ。
うーん、でも、やっぱり見てもよくわかんないな……。この子、自信ないって言ってたんだよね。だけど、私のよりだいぶ複雑な気がする。
「よし、音を出して見ろ」
「はい」
最初は上の面。ポロンとピアノのようなきれいな音がした。そしてさらに右横から順に時計回りにポロン、ポロン、ポロン、ポロンと、同じピアノ調だが違う音を出していく。
で、角を持って箱をひっくり返しの裏面。
『にゃー』
ん?
『にゃー』
念押しするようにもう一度。
ええー!? ここにきてそれー!? なんで最後だけ猫の鳴き声なの!?
私は声が出そうになった口を押えながら、きょろきょろと周囲を見回す。けど私みたいな反応をしている人は他にいなくて。
えー、誰か突っ込もうよ。これ絶対ウケ狙いでしょ……?
「いいだろう。よく頑張ったな、特に最後。これはなかなか凝っている。自信を持っていいぞ」
「は、はい! ありがとうございます」
結局、突っ込んだ生徒はいなかった。
ってか、先生? それでいいんですか? 最後のがいいって、よくわかんないんだけど。いや、でも、それって……最後のが一番複雑な構成になってるって意味だよね……?
私は思わずうろんげな目でバートン男爵令嬢を見てしまった。
間違いなくバートン男爵令嬢は猫好きだ。でなきゃ、きっと成功しなかったに違いない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さくら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる