まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね

43. 猫愛ここに極まれり

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「そこまで! 全員手を止めなさい」

 男性教師の声がかかった時、私はほっと息を吐いた。

 あのあと、音の仕組みがわからず途方に暮れていた私だが、必死に頭を働かせ、これまで勉強してきた神秘の構成を組み合わせ、音を出す仕組みを何とか編み出した。
 そしてまわりの生徒たちより大幅に遅れながらも、実際に神秘の力を使ってみた――のは、ほんの数分前のことだ。時間ギリギリのタイミングで、神秘の力の解放に成功した。
 ホントに危なかった。ここでも間に合わなかったら、また教師たちにより遠回しないじめが始まったかもしれない。応援してくれる生徒がいる手前、そんな無様な姿は見せられなかった。

「さて、これから発表に移るが……順序はどうするかな。出生日の逆順がいいか――」
「せ、先生」

 一番前にいた女子生徒がおずおずと手を上げる。

「どうした、バートン男爵令嬢」
「そ、その……私はハーヴェス侯爵令嬢の後になるのですが、その、とても自信がないので、可能でしたら順番の変更をお願いしたいのですが……」
「ああ、確かにそうだな。よし、それなら希望者は先に発表させよう。残りは出生日の遅い人からだ。ということで、自信のない者は挙手しなさい」

 ぴたりと教師と目が合って、ああ、私に言ってるんだと思った。でも、まあ、一人だったら嫌だし、日本人らしく周りに倣うことにしよう――ってことで、まず、まわりの反応を伺う。
 すぐに手があがったのは五人ほど。そのあともパラパラと手があがる。そのタイミングで私もおずおずと手を上げた。
 するとその途端、周囲からくすくすという笑い声があがった。

 え、駄目? 結構な人数上げてると思うけど!

 そして男性教師もまた、眉間に手を当て、険しい表情をしていた。

 ええー、なにその顔。先生、私を見て言ってたじゃん。なにさ、なんか間違ってるっていうの?

「ベルネーゼ侯爵令嬢。おま――君には侯爵令嬢としてのプライドはないのか」

 うん? と首を傾げて、改めて手を上げた顔ぶれを見れば、全員下級貴族と呼ばれる男爵家の令嬢や子爵家の令嬢だった。ちなみ令息たちはやはりプライドがあるのか誰一人として手を上げていない。

「まあいい。では、バートン男爵令嬢から始めよう」

 男性教師は私の鈍い反応をみてか、あきらめた様子で先に進めた。

 まず立ち上がったのは、先ほど自信がないと言っていたバートン男爵令嬢。自信がない作品っていうのはどのくらいのレベルだろうか。発表はできるのだから、音は出るのだろうけれど。私は興味深々で彼女の手元に視線を向けた。

「私が作ったのはこれです。起動して各面を触るとその面から音が出ます」

 見た目はもらったときのままの木箱だった。起動すると内部に神秘が構成されているのがわかる。細い神秘の通り道がジャングルジムのような形を描いていた。
 ちなみ神秘の構成は見えないようにすることも可能らしいのだが、それを組み込むと一気に構成図が複雑になるため、大体、最上級生になるまではみんな丸見えのままだそうだ。

 うーん、でも、やっぱり見てもよくわかんないな……。この子、自信ないって言ってたんだよね。だけど、私のよりだいぶ複雑な気がする。

「よし、音を出して見ろ」
「はい」

 最初は上の面。ポロンとピアノのようなきれいな音がした。そしてさらに右横から順に時計回りにポロン、ポロン、ポロン、ポロンと、同じピアノ調だが違う音を出していく。
 で、角を持って箱をひっくり返しの裏面。

『にゃー』

 ん?

『にゃー』

 念押しするようにもう一度。





 ええー!? ここにきてそれー!? なんで最後だけ猫の鳴き声なの!?

 私は声が出そうになった口を押えながら、きょろきょろと周囲を見回す。けど私みたいな反応をしている人は他にいなくて。
 えー、誰か突っ込もうよ。これ絶対ウケ狙いでしょ……?

「いいだろう。よく頑張ったな、特に最後。これはなかなか凝っている。自信を持っていいぞ」
「は、はい! ありがとうございます」

 結局、突っ込んだ生徒はいなかった。
 ってか、先生? それでいいんですか? 最後のがいいって、よくわかんないんだけど。いや、でも、それって……最後のが一番複雑な構成になってるって意味だよね……?

 私は思わずうろんげな目でバートン男爵令嬢を見てしまった。
 間違いなくバートン男爵令嬢は猫好きだ。でなきゃ、きっと成功しなかったに違いない。


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