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Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね
42. 高嶺の花と×××花
しおりを挟む男子生徒たちを見送り、首を傾げていた私の隣では、セーファス様が肩を震わせて笑っていた。
「セーファス様……そんなおかしなところありました……?」
「いや、男子の純情を弄ぶ小悪魔は健在かと思って」
「ええ!? ちょ、ちょっとセーファス様。小悪魔って……」
これはどう受け取るべきかと悩む。不本意だと起こるべきか、それとも喜ぶべきか。
というのも、小悪魔的な所業をして許されるのは美少女だけだからだ。それ以外の人がすると単なる性格の悪い女にしかならない。
「入学当初から言われてたけど、知らなかった?」
「えー、私、そんな、男…殿方を翻弄できるような美少女ではありません、よ、ね? ほら、美少女っていうのはレイラ様みたいな人のことだもの」
「そういう質問をするところが小悪魔の所以かな。そうだねと言っても、君の方が美人だよと言っても、君は結局怒るんだ」
「い、いえ、頷く分には怒りませんよ。レイラ様の方が美人なのは事実ですもの」
「そう? ではこれは私の意見ではなくて、よく言われている意見だと思って聞いてくれるかい? ハーヴェス侯爵令嬢は決して手の届かない高嶺の花。ミュリエルは届くところにいるはずなのに摘み取らせてくれない逃げる花」
「は?」
思わず心の声がもれた。それから取り繕って言い直す。
「それはちょっと……ひどいですわ」
色んな意味でひどい。高嶺の花ではないと見た目を否定したあげく、逃げる花――手に入らないというだけではなく、たぶん、普通の御令嬢じゃないという揶揄も含まれているのだろう――なんて言われていたとは。
「ごめんごめん。でも、彼らの言葉でわかったでしょ? ミュリエルは色々と噂されてるけど今もすごく人気なんだよ」
「ええと、それでどうして人気ということに繋がるのでしょう……か」
「ん? 逃げられるとつい追いたくなるのは男の性だから、かな。みんなすごく煽られてるんだよ。ああ、そうだ。私も奪われないように気をつけなくてはね」
「まだ、あなたのものではありませんよ、セーファス様」
「いいじゃないか、ベイル。なあ、ミュリエル?」
そして屈んだセーファス様はふいに私の手を取って、手首のメイズヤーンにキスをする。
「ひょあっ!」
私の奇声と女子生徒たちの悲鳴が同時に上がる。セーファス様の行動に加え、みんなに見られていたと気づき、かっと熱くなった顔をうつむかせる。
「大丈夫。私が一緒にいるよ。頑張って課題をやり遂げよう」
「あ、ありがとうございます……」
とそこに、ごほん、とわざとらしい咳払いが割り込んだ。
「すでに開始から十分たっているが、そこの突っ立ってる人たちは完成したのかね?」
「「「まだです! すみません!」」」
私を含め、その場にいた全員が声をそろえて言った。そして、こちらを窺っていた生徒たちは一目散に散っていった。
「さて、では私たちも始めようか」
「はい」
そして私もセーファス様たちと別れ、作業に取りかかっ――た……?
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