まさかのヒロイン!? 本当に私でいいんですか?

つつ

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Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね

48. 貴族としてのステータス

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 それは、一ヶ月ほど前の出来事だった。
 いつものように図書室のすみで本とノートを開いて自習をしていると、ふいに声がかかった。

「ベルネーゼ侯爵令嬢?」

 手を止めて顔を上げるとそこにいたのは、不機嫌そうな顔をしたアッシュグレーの髪の青年。

「ク、クリフォード様」

 私は思わず視線を泳がせた。こんなところに貴族である彼が来るのは予想外だった。特に、夜会のとき「茉莉」に気づかれそうになったクリフォード様には苦手意識があるので、若干どころじゃない動揺をしてしまう。

 けれどクリフォード様はそんな私に気づくことなく私の手元をのぞき、そして大きく顔をしかめた。

「いい機会だ。一つ言っておこう」

 その前振りだけでもう、ろくなことを言われないとわかった。先日の夜会もそうだけど、ゲームが王宮ルートに入っているところからしても、クリフォード様が私に対していい印象を抱いていないのは確実だ。どんな罵詈雑言が飛び出してきたとしてもおかしくなかった。

「いえ、自習中なので結構で――」
「あんたさ、学院やめたら?」

 意地でねじ込んだ言葉を言い切る前に、クリフォード様に言われてしまう。これは耳を塞ぐ方が正解だっただろうか、とそんな余計なことへと意識を逃がす。

「授業についていけないのにここにいてもしかたねーだろ」
「そのようなこと、クリフォード様に言われるいわれはありません!」

 考えるより先にそう口にしていた。悔しいような、悲しいような、でもそれよりも苛々として、私はきつい口調で言い返していた。
 あっと一瞬、罪悪感のような感情が湧く。けど、言葉を撤回する気にはならなかった。

 だって、そうでしょ? 学院に通うもやめるも私自身のことで、家族ならまだしも他人であるクリフォード様に口を挟まれたくはなかった。
 たとえ、授業についていけていないのが事実だとしても。

「……それもそうだな。殿下の手を煩わせない限りは勝手にすればいい」


 このときは腹立たしいと思いながらも気にせずに別れた。
 でも、家に帰ると急に不安になった。やっぱり授業についていけない自分は学院をやめた方がいいのではないかと。


 私は寝る前のお茶の支度をしてくれているメイドのシンディーを見ながら口を開いた。

「ねえ、シンディー。勉強は学院でなくてもできると思うのだけれど、家庭教師だけではいけないのかしら?」

 すると予想以上の反応が返ってきた。流れるように動いていたお茶を入れる手がピタリと止まり、目はくわっと見開かれ、私に詰め寄らんばかりに身を乗り出す。

「家庭教師だけなんて、とんでもありません! よろしいですか? 学院を卒業することは貴族としてのステータスです。王太子殿下の婚約者として正式に認めてもらうためにも、そこは譲れません。確かに、授業についていけない方などは家庭教師をつけて代用することもありますが、それは落ちこぼれと言われる人だけですわ。ミュリエル様は違うでしょう?」

 ミュリエルは元々かなり頭がよかったらしい。だからだろう、この屋敷にいる誰もが、ミュリエルが授業についていけていないなどとは考えもしていないようだった。
 私が心配をかけたくなくて、初日、二日目の出来事を話さなかったというのも理由の一つだろうけれど。

「それに学院は貴族の子どもたちの社交場ですからね――ああ! そういうことですか? もしかしてマナーやダンスのことでどなたかに不快な言葉をかけられたのですか?」
「ええと……少し注意されただけよ」
「申し訳ございません。お嬢様に恥をかかせるなど。今後は屋敷でのマナーやダンスの時間を増やしましょう。それから、肌や髪のお手入れと体型づくりもですね。もう誰にもなにも言わせないよういたしますから、どうぞご安心ください」

 私はシンディーの勘違いを訂正しなかった。その点について陰口を叩かれているのも事実だったし、勉強に苦労していることを両親に隠し通すためにも、事実は知られない方がいいと思ったからだ。


 勉強は学院の図書室や、みんなが寝静まった深夜に。いつも夕食の後にしていたダンスやマナーの授業は、帰宅してから夕食の前にも追加された。
 こうして私はさらなる多忙な日々を過ごすようになった。



 それでも。そこまで努力しても、本物の令嬢であるレイラ様のお眼鏡には敵わなかったのだ。私は目の前が真っ暗になった。


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