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Ⅳ 日本人は空気を読める子、だよね
49. かわいい従僕がやってきた
しおりを挟むレイラ様から衝撃的な言葉をもらったその日。私は沈んだ気持ちをごまかしながら、なんとか一日を終えて帰宅する。
「ミュリエルお嬢様!」
屋敷の玄関をくぐった途端、少年の明るい声が響いた。
無意識のうちにうつむけていた顔を上げると、駆け寄ってくるつぶらな瞳の少年が目に入る。キラキラと輝く金髪が眩しい、子犬のような可愛らしさのある少年だった。
十二、三歳だろうか。邪気のない笑みが私の落ち込んだ気持ちを少しだけ軽くする。
「あなた、は……?」
「ミュリエルお嬢様、お久しゅうございます。ボルトです。お会いしとうございました」
「ボルトさ――」
「ボルトと。領地のお屋敷で従僕をしております。本日は執事をしております父に付いて、後学のためにこちらに連れて来ていただきました」
それからふにゃりと眉尻を下げ、困惑とも悲しみともとれる表情になる。
「お話は伺っておりましたが、本当に記憶を失くされてしまったのですね」
その声からは、なにかの間違いであればよかったのに、という想いがひしひしと伝わってきて居たたまれなくなる。
この様子ではボルト少年も相当ミュリエルを慕っていたのだろう。もうそのミュリエルはいないのだと、この子は理解してくれるだろうか。今の私を受け入れてくれるだろうか。
「えっと、その、私――」
「ああ、そうだ! ミュリエルお嬢様、冬期休暇はもちろん領地のお屋敷に戻られるのですよね?」
一転して明るい声でボルトが言った。変化が急すぎて頭がついていかない。
「ミュリエルお嬢様の好物をたくさんご用意してお待ちしてます。だから、ですから必ずお戻りください。屋敷のみなも待っています」
冬期休暇。そうだった。あと一週間もすれば学院の長期休暇に入るのだ。この期間、領地を持っている生徒の多くは領地に帰り、家族と冬を越す。
けど、私の場合はそれどころじゃなかった。休暇があるならそれは授業の遅れを取り戻すチャンスだ。呑気に休んでる場合じゃない。
「ボルト、ごめんなさい、私は――」
「それに、冬期休暇には若様もお戻りになられますので、戻らないときっと恨まれますよ?」
「若様?」
私は言いかけた言葉も忘れてきょとんとする。
「……お聞きしておりませんでしたか? ミュリエルお嬢様には三つ上の兄君と五つ下の妹君がおられます。中でも若様――兄君はミュリエルお嬢様のことを大変可愛がっておりましたので、先日の夜会に参加できなかったことを大変嘆いておいででした」
この王都の屋敷につれて来られたときに、両親としか顔を合わせなかったからてっきり一人っ子だと思っていた。でも、考えてみればいて当然だ。自分が王太子殿下であるセーファス様の婚約者候補になるということは嫁ぐということで、つまり自分以外に家を継げる誰かが存在することを意味していた。
けど、兄君――お兄様とはこれまで一度も顔を合わせたことがない。この王都の屋敷にはいなかった。ではお兄様はどこから「お戻り」になるのだろうか。
「ええと、お兄様はその、どちらに? 今は何をなさってるの?」
「そうですね、若様は今、王宮の宿舎に入られてますよ。卒業しての一年目ですから、各部署を忙しく回られているみたいです」
「官吏に登用されたのですね。では、お兄様は優秀? なのね。官吏になる試験は難しいのでしょう?」
「試験、ですか……? その、若様も貴族でいらっしゃいますよ?」
「ええと?」
首を傾げるボルドを見て私も首を傾げる。どうやら互いの認識にずれがあるみたいだ。
うーん、困った。
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